ソニーは、ディープラーニング(深層学習)ソフトウェア「Neural Network Libraries」とノンプログラミングで手軽に利用できる統合開発環境「Neural Network Console」をオープンソースで無償公開した。より多くの技術者への浸透を目指す。
ソニーは2017年8月17日、東京都内で会見を開き、同年6月に公開したディープラーニング(深層学習)ソフトウェア「Neural Network Libraries」について説明した。会見当日に発表した、Pythonでのコーディングが前提となるNeural Network LibrariesをGUI(Graphical User Interface)によりノンプログラミングで手軽に利用できる統合開発環境「Neural Network Console」と併せてオープンソースで無償公開することで、より多くの技術者への浸透を目指す。
ソニー R&Dプラットフォーム システム研究開発本部 AIコア技術開発部 シニアマシンラーニングリサーチャーの小林由幸氏は「脳の学習機能をコンピュータで実現する深層学習は画像や音声の認識で優れた性能を示している。今後は、さらに広い分野にも適用されるであろう破壊的テクノロジーだ。自動運転をはじめIoT(モノのインターネット)分野にも応用展開は広がり、右肩上がりで市場が拡大するのは確実だろう」と語る。
ソニーが深層学習に取り組み始めたのは2010年から。2011年に第1世代のコアライブラリ(ソニーは深層学習ソフトウェアをコアライブラリと呼称している)を開発した後、2013年に第2世代、2016年に第3世代と進化してきた。小林氏は「この第3世代でかなり良いものができ、ソニー社内における技術開発効率も圧倒的に向上できるようになった。そこで、この第3世代コアライブラリをより多くの技術者に利用していただき、AI(人工知能)技術の普及、発展に貢献したいと考え、Neural Network Librariesとしてオープンソースで公開することにした」と語る。
Neural Network Consoleも、コアライブラリと並行して2015年から開発してきた成果となる。「Neural Network Librariesは、他の深層学習ソフトウェアと同様に、Pythonなどプログラミング言語の知識が必要だ。Neural Network Consoleは、Neural Network Librariesと同様の機能を、マウス操作によるGUIで利用できるツールになる。GUIでニューラルネットワークの構築やパラメータの調整ができるのは、現時点でNeural Network Consoleだけだろう」(小林氏)という。
なお、C++11で記述されているNeural Network Librariesは、LinuxやWindowsをはじめ多くのプラットフォームで動作する。一方、Neural Network Consoleは、64ビット版のWindows 8.1とWindows 10に対応するアプリケーションとなっている。
Neural Network Librariesの性能は、具体的な数値を示さなかったものの「有名な深層学習ソフトウェアと比べたところ、トップクラスの性能を出せることを確認している」(ソニー R&Dプラットフォーム システム研究開発本部 AIコア技術開発部 マシンラーニングリサーチエンジニアの成平拓也氏)とのこと。
また機能面では、NVIDIAの並列コンピューティングアーキテクチャ「CUDA」の性能を最大限引き出せるGPU実行やマルチGPU分散学習への対応、Python2/3への両対応、動的ネットワーク構築への対応などがある。
加えて、学習済みニューラルネットワークをさまざまなデバイスに実装しやすくするための「C++API」も用意した。「スマートフォンやロボット、自動運転、IoTデバイスなどに深層学習で構築したアルゴリズムを実装する際に役立つ機能だ」(成平氏)という。CUDAへの対応、C++による移植性を考慮すると、NVIDIAの組み込みAIボード「Jetson」を用いた製品開発に最適かもしれない。
深層学習ソフトウェアはオープンソースで無償公開されるのが一般的だ。実際に、Neural Network Librariesの競合となる、TensorFlow、Chainer、Torch、Caffeなどは既にオープンソースで公開されている。その後の展開で重要になるのは、ユーザーコミュニティーの拡大施策になるだろう。事業展開を担う、ソニーネットワークコミュニケーションズ IoT事業部門の原山直樹氏は「Neural Network LibrariesはGitHub、Neural Network ConsoleはGoogle Groupsでコミュニティー活動を行っていく。現時点で他社との提携などについては話せないが、活用事例を公開するなどして活動を活発化させたい」と述べるにとどめた。
会見では、ソニー社内における開発事例として、イヤフォンマイク「Xperia Ear」のヘッドジェスチャー認識、「デジタルペーパー」の手書き文字認識、不動産売買の成約価格を高精度に推定する不動産価格推定エンジンなどを紹介した。いずれも、開発効率などを大幅に向上できたとしている。
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