「製造業へのAI導入」を「製造業へのディープラーニング導入」と言い換えるとまた違った側面が浮上する。三井化学は15年前、同社化学プラントに試験導入したものの当時は本導入を諦めたが、2015年に再度の試験導入を行い一定の手応えを得たという。
ここ最近よく耳にする「製造業へのAI導入」だが、実際に生産性向上やコスト削減に結びついたという具体例を耳にする機会は少ない。これはAIの定義がまだ揺れ動いていることとも無関係ではないし、製造業への導入は生産現場にあわせたカスタマイズが欠かせないという業界ならではの事情も関係している。
ただ、「製造業へのディープラーニング導入」に表現を変えるとまた違った側面が浮かび上がる。化学品や樹脂の生産を手掛ける三井化学は15年前に試行したものの、2015年に再度の試験導入を行い一定の手応えを得たという。試験導入を共同で行ったNTTコミュニケーションズの開催した説明会にて、同社化学プラントにおけるディープラーニング活用について担当者が語った。
三井科学は国内に5つの製造拠点を構える化学メーカーで、機能性樹脂やポリウレタン、工業薬品、包装フィルム、電子情報材料などを手掛けている。各種製造を行うプラントには温度計や圧力計、流量計など各種センサーが設置されており、オペレーターはその値を監視/確認しながら運転操作を行っている。
取得したセンサー値と操作記録は1分周期でシステムに保存され、生産管理や品質管理、運転管理、設備管理業務などに利用されている。この定期的に取得する各種データを製造プロセス改善に利用できないかとニューラルネットワークの技術導入を検証したのが、約15年前のことだが、試験のみにとどまり導入には至らなかった。
この「製造過程で測定されるデータをニューラルネットワークにて処理して改善に役立てる」というのは、現在でもよく聞くアプローチだが、当時、導入に至らなかった理由として三井化学の十河信二氏(生産・技術本部 エンジニアリングセンター 設備技術G)は以下の4つを挙げる。
これについては導入検討の当時、人間が教師となってコンピュータを学習させるいわゆる「教師付き学習」が主流であり、データをコンピュータに入力するだけでも相当な手間が発生していたから。
これは試験的にでも現場へ導入したからこそ遭遇した現象で、学習データはマッチするものの、実際に使用してみるとあわないという事態が発生したという。
データ入力によって作成されたモデルはデータ取得時のモデルであるため、経年によってプロセスに変化が生じた際、予測モデルの変更(つまりは再作成)を迫られることになった。十河氏によれば、数カ月でモデルの再作成を余儀なくされたこともあったという。
化学プラントでニューラルネットワークを利用した予測技術を導入するといっても、企業の新たな仕組みをいれることには変わりない。そして企業には人事異動もある。ドキュメントを残すなどの施策を試したものの、当時は技術的な成熟度など観点から専任者の常駐がベターであり、本導入は難しいとの判断が下された。
このような4つの理由があり、化学プラントという大規模な製造設備へAI技術を導入することは見送られた。しかし、2015年末から同社はNTTコミュニケーションズと共同で、再度の実験導入を試みる。そして、それは好感触を残す結果となった。
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