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AI研究の第一人者、松原教授が語る「人工知能は未来をどう変えるのか」東京工科大学 創立30周年記念公開講座(1/5 ページ)

「人工知能は近く人間を超える」といった論もあるが、そもそも人工知能とは何であり、どのように発展し、どのような課題に直面しているのか。人間社会は人工知能とどのように付き合っていくべきか。AI研究の第一人者、松原教授が語る。

» 2016年11月15日 09時00分 公開
[大内孝子TechFactory]

 人工知能がこれまでどういう道筋で研究されてきて、この先どこに向かっているのか――。人工知能研究の第一人者である松原仁氏(公立はこだて未来大学 教授)による講演が、東京工科大学の創立30周年記念公開講座として行われた。

東京工科大学の創立30周年を記念して行われた公開講座「AI(人工知能)によって変わる未来」。松原氏は「人工知能はどこまできたか どこに向かうか」と題した講演を行った

AI(Artificial Intelligence:人工知能)とは何か

 いま毎日のように、人工知能(AI)がテレビや新聞などでニュースになっている。それは単に人工知能がブームになっているだけなのか? それとも人工知能は私たちの社会を180度変えてしまうものになるのか? あるいは、既に生活を変えつつあるのか?

 まず、松原氏が挙げたのは「人工知能」の定義の難しさだ。

 何が人工知能(Artificial Intelligence)か? 人工知能の工学的な、一番大きな目標は「人間のような知能を持ったコンピュータやロボットを作ろう」ということ。人間のような知能、人間よりも知能を持った存在、人工物を作りたい。では、何ができることが「知能があること」になるのか? これは専門家の間でもいろいろと意見が分かれている状態だという。

 その理由として、そもそも「知能とは何か」が定義されていないことがある、とする。何ができることが知能なのか、というのは人間においても定義されていない。IQやEQなどの指標で表せるものはほんの一部にすぎない。人工知能は、それを人工的に実現させようとするものなので、明確に万人が納得するような定義ができないのだ。

公立はこだて未来大学 松原氏 「個人的には、小さい頃に見た鉄腕アトム、人間の友達のようなロボットが作りたい」という松原仁氏(公立はこだて未来大学 教授)

上手にできるようになったことは、人工知能と呼ばれなくなる

 「人間にできて機械にできないこと」を人間並みにできるようにしたいと、これまで人工知能の研究として、いろいろな側面をさまざまな研究者がそれぞれに研究してきた。「日本語を普通に話す」「人の顔を見て誰かを認識する」「音声を聞いて何を言っているか理解する」「(何らかのゲームで)次の一手を指す」など、いまの人工知能ではまだ難しいこともあれば、実現されていることもある。

 人工知能というと「なかなか実現しないもの」という印象があるが、松原氏は「うまくできるようになったことは人工知能と呼ばれなくなる」と指摘する。その一例が「かな漢字変換」だ。コンピュータでメールを打ったり、文書を編集したりする際にいまでは当たり前に使っている機能だが、30年程前に人工知能の最先端の成果として初めて登場した。当時はこれはすごい、画期的だ、AI変換だともてはやされたが、当たり前に使うようになると、もはや「かな漢字変換人工知能」とは言われなくなる。身近になりすぎて、人工知能のすごい成果とは誰も思わなくなる。

松原氏 これは1つの例ですが、これまで人工知能の長い60年以上の歴史があって、私たちから見るとけっこういろいろできるようになってきたつもりなんですが、できるようになると言われなくなる。最近のアイドルに例えると、「人工知能から卒業します」みたいな感じで、できたものは人工知能の範ちゅうから消えていく、常に人工知能はまだできていないことをやろうとしている。カッコよくいうと、そういうことになります。

 人工知能、人間のような知能を持った人工物を作る、知能を機械で実現するという分野の研究が、その成果物が実用化されると「人工知能」の範囲からは切り離されていく。これは非常に特徴的な話だ。

 これは筆者の私見だが、逆に、成功した成果物がバックグランドの研究分野からいっけん切り離されて普及していく(研究としては継続するので完全に切り離されることはないだろうが)ことは、人工知能の自由度を担保することにつながっているともいえるのではないか。完成品のイメージがないことで、いつまでも可能性の豊かさを維持できるのではないかとも感じた。

人工知能はどこまで進んでいるか

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