東京工科大学 創立30周年記念公開講座
AI研究の第一人者、松原教授が語る「人工知能は未来をどう変えるのか」(5/5 ページ)
松原氏 将棋ではコンピュータが創造的な手を指し始めています。将棋で創造的な手とは何かといえば「新手」。将棋はルール上指せる手が決まっているので新しい手を発見するということはなくて再発見なのですが、これまであまりいい手ではないとされていたものをある人がその手がいいと気づいて実際に指してそれで勝つと、まわりが「あ、気が付かなかったけどこれはいい手だ」と。いままではプロ棋士が見つけていたんです。それが、いまコンピュータが見つけるんです。
プロ棋士の間で衝撃だったのが「3七銀」。これは名人戦という、非常に大きなタイトル戦で、先手が羽生善治さん、後手が森内俊之さんという当時の名人。この3七銀の一手前はプロ棋士の間ではすごく常識的な局面でした。それに反して、次手の3七銀、人間としては初めて打って森内さんが勝つんです。すごい手だということになるんですが、実は対局後にコンピュータ将棋の棋譜で勉強していたら、この局面で3七銀と打って勝っていた。こんな手があったのかと調べたら、本当にいい手だと。それで使ったら勝った、と。
以降、コンピュータが最初に見つけてそれをプロ棋士が新手だと評価して、人間同士の対局に使うというのが何度も出てきている。つまり、プロ棋士はこれまでライバルの手を見て勉強していたのが、いま特に若い人はコンピュータの手も勉強している。逆に、プロ棋士の棋譜から学習していたコンピュータ将棋は、もうプロ棋士の棋譜が勉強材料にならない。では、どうしているかというと、コンピュータ将棋連続対局場所(floodgate)というコンピュータ同士が24時間対戦可能なサイトで対局、学習しているという。
コンピュータ同士でやるようになって、序盤から人間には理解できない手を指すようになっていく。これは、人間にとってはつらい事態だ。強い相手が自分には理解できない手を指している。強い相手が自分には理解できないとなると怖い。
松原氏 将棋に限って言えば、コンピュータは人間のプロ棋士よりもレベルの高い将棋を指してくる。それは鑑賞するときうれしいかもしれない。ですが、理解できないかもしれない。いくら強くても理解できないと面白くともなんともないですよね。将棋ファンが羽生さんすごいぞというのは、羽生さんの手がすごいって理解できるからなんです。それをどうするかが問題なんです。
あるプロ棋士がスマートフォンソフトで不正を行った疑惑がかけられ物議を醸したが、そういうことが問題になるくらい将棋について言えばコンピュータは強い。人工知能を便利な道具として使いこなせばいい。それはもっともな理屈ではあるが、そのレベルが人間を追い付き追い越そうとするとき、負の側面としてこういうトラブルが起こるのはやはり避けられない。
しかし、「こういうトラブルを乗り越えて、将棋界もコンピュータのほうが強いという前提でどう発展させるかということを前向きに考えていかなきゃいけない。その途中ではこういうことも起こり得るということだと思います」と松原氏はいう。これは、いまは将棋だけの話かもしれないが、私たちの社会、生活についてもいえることだ。
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