MATLAB EXPO 2016
ディープラーニング一色ではない「人工知能研究」の現状と今後の展望
製造業に関する領域でも耳にする機会の増えた「人工知能」だが、急激に発展している領域だけに、現状を正確に把握するのは難しい。「人工知能研究の現状と今後の展望」とは。
ITやICTの領域ではもちろん、製造業においても取り上げられる機会の増えた「人工知能」だが、急激に発展している領域だけに、現状を正確に把握するのは難しい。
機械学習理論とアルゴリズム開発、データマイニングなどを研究する東京大学の杉山将教授はThe MathWorksのユーザーイベント「MATLAB EXPO 2016」に行われた講演、「人工知能研究の現状と今後の展望」(2016年10月19日)の中でアカデミックな観点から「人工知能研究の現状と今後の展望」を解説した。
初出時、杉山先生のお名前を誤って記載しておりましたので、訂正いたしました。杉山先生を始め、関係各位にご迷惑をおかけしましたこと、深くお詫び申し上げます(2016/10/26 10:39)。
人工知能研究はディープラーニング一色ではない
壇上の杉山氏は、自身の専門である機械学習とアルゴリズムの観点から、人工知能研究を振り返ることから語り始めた。機械学習とは「人間の学習」に相当する行為をコンピュータで実現する人工知能研究の1分野であるが、その目的のためにいくつかのアプローチが存在する。
代表的なものとして、人間が教師となってコンピュータを学習させる「教師付き学習」、エージェントが試行錯誤して学習する「強化学習」、コンピュータが人間の手を介さずに学習する「教師なし学習」の3つを紹介した。これらの手法は既に実世界への応用が行われており、「顔画像からの年齢認識」「動画からのイベント検出」「半導体露光装置におけるウェハー位置合わせ」などに利用されている。
利用例を列挙してみると「人工知能」という言葉のイメージにそぐわず、世間的には自動運転車や会話するロボット、世界チャンピオンに勝利したコンピュータ囲碁などに「人工知能」のイメージを重ねている。しかし、杉山氏は「人工知能の背後には、コンピュータに人のような学習能力を持たせる機械学習の技術が用いられている」と指摘する。
その証拠に、人工知能に関する関心の高まりとともに、機械学習に関する代表的な国際会議であるNIPS(Neural Information Processing Systems)やICML(International Conference on Machine Learning)への参加者は2013年ごろから倍々ゲームに近い勢いで増加しており、スポンサードする企業の顔ぶれも広がりを見せている。
これまではIMBやMicrosoft、Googleといった大規模な研究開発部門を持つIT企業が主であったものが、AmazonやFacebookといったWebサービスを主とする企業、それにHuawei、Tencent、BOSHやVISA、Broombergといった製造や金融といったこれまで関係性が薄いと思われていた企業も参加している。研究者も増え、企業からのサポートも手厚くなることで、機械学習研究の加速が期待される状況にあるといえる。
その機械学習の中でも、実産業への応用という観点から話題になることが多いのは深層学習(ディープラーニング)だろう。杉山氏によれば2015年におけるNIPSでの採択論文(403本、投稿論文は1838)のなかでカテゴリーとして最も投稿数が多かったのが深層学習であったという。
しかし、最多といっても深層学習に関する論文は採用論文中11%であり、多いことは確かであるが、支配的とまでは言えない。凸最適化や統計的学習理論などの論文も多く投稿されており、学会レベルではまだまだ数多くのトピックが現在進行形で研究されているのだ。
教わっていないことに答える「究極の人工知能」
ここで杉山氏は「人工知能研究の未来」について論を進めた。ここ数年のトレンドは機械学習、なかでも深層学習(ディープラーニング)の研究であるが、杉山氏は人工知能研究の究極のテーマとして「教わっていないことを過去の事例から推測できる(学習データではなく、未知のデータに対して正解を導ける)汎化能力」を挙げた。
大量のデータ(いわゆるビッグデータ)に深層学習モデルを組み合わせることで多くの回答を得られると予想できるが、利用する局面に対して大量のデータを用意できない場面もある。用意できるとしてもコスト的に見合わない局面もあるだろう。そこで求められるのが「限られた情報からの学習(分類)」だというのが杉山氏の主張だ。
限られた情報(データ)に多くのラベルが付けられていえば高精度での分類境界を学習できるが、ラベル付きデータの入手に際してはコストが発生する。しかし、ラベルなしデータを用いた教師なし分類では、単なるクラスタリングとなってしまう。折衷案として少量のラベル付きデータと大量のラベルなしデータを組み合わせる手法も存在するが、同クラスタに属するデータが同じラベルを持たないと分類が成立しないという問題は残る。
そこで杉山氏が紹介したのはデータ収集コストと必要な学習制度に応じた手法選択であり、あわせて「2セットのラベルなし(教師なし)」「正例とラベルなし(1クラス分類)」「正例とラベルなしデータからの分類と、正例と負例からの分類の組み合わせ」という3手法を紹介した。
なかでも、3番目の「正例とラベルなしデータからの分類と、正例と負例からの分類の組み合わせ」(半教師付き分類)はラベルなしデータからもラベル情報の抽出が可能となることからクラスタ仮定がなくともラベルデータが活用できることとなり、コストと精度の両立が可能な注目すべき手法といえる。
日本の産業活性にロボットや人工知能、IT技術の発展と活用は不可欠という論調は以前より存在しており、政府は2016年4月に人工知能研究と社会実装施策を横断的に行うべく「人工知能技術戦略会議」を設置した。この会は総務省、文部科学省、経済産業省の3省連携においても司令塔としての役割を担っており、杉山氏がセンター長を務める理化学研究所 革新知能統合研究(AIP)センターは文部科学省傘下組織として、重要な位置を占める。
AIPセンターは人工知能に関する基盤技術開発のみならず、社会実装や倫理・社会的課題への対応、人材育成までも事業として掲げる。範囲は広大であり、それだけ人工知能技術が高い汎用性を持ち、社会に大きな影響を与える可能性を秘めていることの査証であるが、取り組みとして始まったばかりである。杉山氏は「AIPとしてさまざまな企業と連携していきたい」と述べ、人工知能の研究と社会実装を同時に行っていく決意を語った。
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