ARMは、高度な安全機能が求められる自動車や医療機器、産業機器向けとなるプロセッサコア製品「Cortex-R52」を発表した。既に、STMicroelectronicsが、車載分野で高度に統合したSoC(System on Chip)を開発するためライセンスを取得済み。デンソーもCortex-R52の投入を歓迎するコメントを発表している。
ARMの日本法人であるアームは2016年9月21日、東京都内で会見を開き、高度な安全機能が求められる自動車や医療機器、産業機器向けとなるプロセッサコア製品「Cortex-R52」について説明した。既に、STMicroelectronicsが、車載分野で高度に統合したSoC(System on Chip)を開発するため、Cortex-R52のライセンスを取得済み。メガサプライヤであるデンソーも、Cortex-R52の投入を歓迎するコメントを発表しており、当面は車載分野での採用に注目が集まりそうだ。
Cortex-R52は、高性能のリアルタイム処理が必要な機器向けの「Cortex-Rシリーズ」の最新製品で、2013年10月に発表した同シリーズに対応する最新アーキテクチャ「ARMv8-R」に基づく製品は初となる(関連記事:ARMが放つ車載プロセッサ市場への刺客、「ARMv8-R」は仮想化でECU統合を実現)。
アーム 応用技術部 シニアマネージャーの中島理志氏は「自動車や医療機器、産業機器の自動化が進んでいるが、それと同時に安全性の確保も求められている」と語る。Cortex-R52は、高い安全性が求められるそれらの機器の機能安全を実現するために開発された。一般産業機器向けの機能安全規格IEC 61508、自動車向け機能安全規格のISO 26262、医療機器の安全確保に必要なIEC 60601、鉄道システム向け機能安全規格のEN 50129、航空業界の安全基準であるRTCA DO-254などを満足させられるという。
現在、自動運転車やロボットに代表される自動化システムの開発が進んでいる。自動化システムのプロセスは「検知(Sense)」「認識(Perceive)」「判断(Decide)」「動作(Actuate)」の4段階に大まかに分けられる。
ARMは、これらの各プロセスに最適なプロセッサコア製品を提案している。「センサーの制御に必要な検知は小型であることが求められるので、マイコン用プロセッサコアである『Cortex-Mシリーズ』が、認識では高度なアルゴリズムを動作させる必要があるのでアプリケーション処理用プロセッサコア『Cortex-Aシリーズ』やグラフィックプロセッサ『Mali』が最適だ」(中島氏)という。
そして、今回発表したCortex-R52は、安全性が求められる判断や動作のプロセスに最適なプロセッサコアになる。Cortex-Rシリーズでは、ARMv8-Rの1世代前のアーキテクチャである「ARMv7-R」に基づく、機能安全規格への対応が可能な「Cortex-R5」が展開されている。Cortex-R52は、Cortex-R5よりもさらに高い安全性が求められるであろう自動運転車をはじめとする自動システム向けとなる。
また、電動化によって複雑化が進むパワートレイン制御も視野に入れている。ARMのプロセッサコアは車載システムへの採用を徐々に広げているが、パワートレイン制御での採用は進んでいない。今回のCortex-R52の投入により、さらに提案を強化していくとみられる。
なおCortex-Rシリーズには、ARMv7-Rベースでストレージや通信モデム向けの「Cortex-R7」「Cortex-R8」がある。Cortex-R52は、あくまで機能安全への対応が求められる用途を対象としており、Cortex-R7/Cortex-R8の後継となるARMv8-Rベースの新たなプロセッサコア製品(Cortex-R57もしくはCortex-R58?)は別途開発されることになりそうだ。ただしCortex-R8は2016年2月に発表されたばかりなので、新製品の登場はかなり先になるとみられる。
Cortex-R52は、ハードウェアベースでの仮想化に対応するタイプ1(ベアメタル)ハイパーバイザーの搭載も特徴になっている。IntelやAMDのプロセッサコア、Cortex-Aシリーズなどもタイプ1ハイパーバイザーを搭載しているが、Cortex-R52ではリアルタイム性も保証している。「レイテンシは周波数などにもよるため明確な数字は回答できない。ただし、少なくともms以下でなければリアルタイム性を保証するとはいえない」(ARM)としている。
自動車は機能向上が進むにつれて、それらの機能を制御するECU(電子制御ユニット)の搭載数も増加している。タイプ1ハイパーバイザを搭載するCortex-R52を使えば、1個のECUに従来の複数のECUの機能を統合することも可能だ。既存の車載ソフトウェアに大幅な変更を加えずに、ほぼそのまま再利用しながらECUの統合を果たせることは大きなメリットになる。
また先述したさまざまな機能安全規格に対応するため、Cortex-R5よりも安全性に関わる機能を強化した。新しい特権レベル、バスインターコネクションの保護、ソフトウェアBIST(built-in self test)のライブラリ、エラー制御の強化、ECC(エラー訂正符号)のコンフィグレーション対応、レベル2のMPU(メモリ保護ユニット)などである。さらに、Cortex-R52を用いて機能安全規格に準拠したソフトウェアを開発できるように、プロセッサのIPとともに多くのセーフティドキュメントも提供するとしている。
Cortex-R52は新製品である以上、性能面でもCortex-R5を大幅に上回っている。さまざまなベンチマークスコアで、Cortex-R5比で20〜30%の性能向上を果たしているという。また割り込み応答性は2倍、マルチコアプロセッサのプログラミングで必要なコンテキストスイッチも14倍に高速化した。最大4コア構成まで可能であり、これら4コアに対して、機能安全規格への対応でも重要な冗長化のためのロックステップ動作を適用することができる。
ARMは、Cortex-R52の対応OSについて正式には発表していないものの、「ARMのプロセッサをサポートするエコシステムから提供される」(ARM)とコメントしている。Cortex-R52の発表文でコンパイラの提供を表明しているGreen Hills Softwareや、QNX Software Systems、イーソルなど、これまでもARMのプロセッサをサポートしてきたリアルタイムOSベンダーが対応することになりそうだ。
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