「プロセッサIPを出せばいい」時代の終了、Armはどう対処するか:大原雄介のエレ・組み込みプレイバック(1/2 ページ)
Armは2018年5月から6月にかけて多くのプレスリリースを出している。それらを俯瞰してみると、もう単純に「プロセッサIPだけを提供していればいい」という時代ではないことがよく分かる。その時代にArmはどう対処しようとしているのか。
「モバイル」「IoT」「エコシステム」の3面展開
2018年6月にもエレクトロニクス/組み込み業界にいくつかのトピックはあったが、既にほとんどがニュースとして紹介されている。そこで、今回はちょっと毛色を変えて、Armの動向をかいつまんで紹介したいと思う。
Armは2018年5月末に「Cortex-A76」「Mali-G76」というハイエンドCPU/GPU IPを発表し(Arm、高性能モバイルデバイス向けプロセッサIPスイートを発表)、この発表会をCOMPUTEX 2018にあわせて台湾で開催しているが、この前後にもいろいろ目まぐるしい動きを見せている。そこで2018年5〜6月の発表を時系列でまとめてみると、下のようになる。
◎「Arm」関連記事:
» 「ARMコアの普及」(前編)――AppleとNokiaに見初められたプロセッサIP
» 「ARMコアの普及」(後編)――Intelの牙城に迫るプロセッサIP
» Arm買収から1年半、明確になったソフトバンクのIoT戦略
» 「IoTはシンプルでなくては」Armが考えるIoTの課題
» 組み込みAIを加速させるARMの画像処理プロセッサ
- 5月2日 TSMCの22ULP/ULL向けArtisan Physical IPを提供(Arm Physical IP to Accelerate Mainstream Mobile and IoT SoC Designs on TSMC 22nm ULP/ULL Platform)
- 5月2日 Cortex-M35Pを発表(New Arm IP Helps Protect IoT Devices from Increasingly Prevalent Physical Threats)
- 5月14日 KEPCO(Korea Electric Power Corporation)とSmart Utilitiesに関しての複数年の提携を発表(Arm Drives Smart Utilities for KEPCO’s Behind the Meter Project)
- 5月31日 Cortex-A76/Mali-G76/Mali-V76を発表(For Small Screens to Large: Introducing a New Suite of IP for Premium Mobile Experiences )
- 6月12日 Stream Technologiesを買収(Arm Expands IoT Connectivity and Device Management Capabilities with Stream Technologies Acquisition)
- 6月18日 Black Pepperが10番目となるArm Approved Design Partnerとして承認された事を発表(Black Pepper Spices up the Arm Approved Design Partner Program)
- 6月21日 Samsungの28FDS向けeMRAM Compiler IP、及び11LLP/7LLP/5LPE EUV向けPhysical IPの提供を発表(Arm and Samsung Foundry push the possibilities of semiconductor manufacturing)
これは2018年5〜6月にArmが出したプレスリリースから紹介しているが、もう少し前だと、「MicrosoftのAzure Sphereに向け、SDK-700をリリース」といった具合だ(IoT観測所(46):「Azure Sphere」の半端ない専用チップコストは下げられるのか )。先端モバイル製品向け(Cortex-A76とSamsungの11LLP/7LLP/5LPE)、IoT向け(TSMCの22ULP/ULL、Cortex-M35P、Samsungの28FDS)、エコシステム向け(KEPCO、Stream Technologies、Black Pepper)がほぼ同数というのはちょっと面白い。
鈍化する開発速度
先端モバイル向けに関して細かく説明する必要はないだろう。QualcommとApple以外のモバイルSoCベンダーは、いずれもArmからプロセッサIP(とGPU IPなど)を購入して自社SoCを構築している。この状況では、アプリケーションからのパフォーマンスのニーズが高まるにつれ、より高速なプロセッサIPが必要とされ、ここに向けて新たなプロセッサIPを投入するのはごく自然な話である。
ただし開発のパイプラインを考えると、モバイルSoCベンダーの製品更新頻度は半年程度から1年程度に伸びつつある。理由はプロセス微細化が停滞しつつあることと、開発サイクルも伸びつつあることだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 「AMDの組み込み」は今度こそ変わるか
組み込みシステムに古くから携わっていると、「AMDの組み込み」に微妙な感情を持ってしまう。しかし、今のAMDは組み込みに本気であるように見える。歴史を振り返りつつ、AMDの「本気度」を探ってみたい。 - 躍進の兆しを見せる「RISC-V」、最初のターゲットは?
フリーの命令セットアーキテクチャである「RISC-V」が盛り上がりを見せている。さまざまなベンダーが取り組んでおり、市販製品への実装も近いように見える。では、どのような機器にRISC-V製品が搭載されるのだろうか。 - 収束しない現代的CPUの脆弱性と、苦境を脱せないQualcomm
2018年3月のエレクトロニクス/組み込み業界は話題豊富だった。「現代的CPU」の脆弱性は収束の気配を見せず、Qualcommは大統領令で買収の危機を乗り切ったように見えるが、実はまだ苦境から脱していない。 - 「鶏と卵」を抜け出しそうな、Armサーバの現在地
Armといえばスマートフォンから車載、産業機器まで広く使われる組み込み機器向けという印象が強いものの、最近ではサーバ市場での利用を見込む動きも強くなっている。Intelが強みを持つ市場であるが支持の輪は広がっている、その「現在地」とは。 - 相次ぐエレクトロニクス企業のトップ交代、FPGA業界にも再編の波
2018年1月はCPUの脆弱(ぜいじゃく)性や仮想通貨近隣こそ騒がしかったが、エレ/組み込み企業に驚きを伴う動きはなかった。しかし、FPGA業界は再編の波が迫っているように見える。