組み込みシステムに古くから携わっていると、「AMDの組み込み」に微妙な感情を持ってしまう。しかし、今のAMDは組み込みに本気であるように見える。歴史を振り返りつつ、AMDの「本気度」を探ってみたい。
2018年5月は幸い(不幸にして?)、エレクトロニクス/組み込み業界に大きな動きはなかったが、日本に限って言えば「ESEC 2018 & 第7回 IoT/M2M展」があった関係でいくつかのトピックがMONOistに掲載されている。この中で、日本AMDがRyzen Embedded V1000を利用した展示をしていた話とからめて、「AMDの組み込みが変わったか?」を紹介したいと思う。
もともとAMDという会社は別にx86専業というわけではなく、Am2500シリーズでまず有名になり、Intelの4004(1971年)に少々遅れること1975年に投入したAm2900シリーズはBit Sliceアーキテクチャを採用したことで広範に使われた。
1978年にはIntelとクロスライセンスを結び、8086/8088の互換プロセッサをセカンドソースとして提供するようになったことで急速に発展するものの、これとは別に独自のプロセッサや周辺機器、SRAM/DRAM、EEPROM、GAL、ネットワークコントローラーなど極めて広範な製品を扱っていた(過去形なのはx86のマーケットに集中してゆくなかで、こうした非x86プロセッサ事業はどんどん売却されていったからだ)。
独自命令セットの製品は、1988年に投入されたAm29000が最後である。この当時はMIPS TechnologiesのR2000/R3000やその後継、Sun MicrosystemsのSPARC、IBMのPower/PowerPC、DECのAlphaなどRISCアーキテクチャの製品が大挙して市場投入された頃で、Intelですらx86と命令の互換性の無いi860/i960を投入している。
Am29000もやはり独自命令セットを持つRISCであるが、比較的クセの無い命令セットと相対的に高いパフォーマンスのおかげで、組み込み市場に確かな足掛かりを作ることに成功する。一番有名なのはAdobeによるPostscriptの実装で、この結果、多くのレーザープリンタのエンジンに採用されることになった。
ただ、同社はIntel Pentiumの競合となりえるプロセッサを急いで投入する必要に迫られたため、このAm29000コアにx86の命令デコーダーを組み合わせるという形でAMD K5を開発する。設計リソースを全部このK5に投入して、Am29000をディスコンにするという決断をした結果、せっかく築いた組み込み向けの足掛かりを捨てることになる。
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