大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
Qualcommの狙いは何なのか、やたらと「高い」Alphawave買収額(1/2 ページ)
今回は、zeroRISCの資金調達の話と、QualcommによるAlphawave Semi買収の話の2本立てだ。前者では、やっぱり少し「世知辛く」見えるオープンソースシリコンのビジネスについて、後者ではQualcommが今回の買収で何を考えているのかについて解説してみたい。
2025年6月のニュースといえば、Wolfspeedの破綻に際してルネサス エレクトロニクスが既に支払っていた長期供給契約の供託金を再建支援に振り替えた話とか、そのルネサスが炭化ケイ素(SiC)パワーデバイスの開発を中止した事などが結構話題になった訳だが、もうニュースになっている事を繰り返しても仕方が無いので、ちょっと別の話を。
zeroRISCが1000万ドルの資金調達に成功
6月11日、zeroRISCがFontinalis Partnersが主導する合計1000万米ドルの資金調達に成功したと発表した。この資金調達について、本国EETimesでzeroRISCの創業者兼CEOであるDominic Rizzo氏にインタビューした記事が6月18日に掲載されている。こちらの話の内容は直接読んでいただく方が良いと思うが、そもそもzeroRISCやlowRISC・OpenTitanなどをご存じない方も少なくないと思うので、まずはここからご紹介したい。
2014年10月、英国ケンブリッジでlowRISC C.I.C.という非営利企業が設立された。lowRISCの目的はオープンソースのシリコンデザインとそのために必要なツールを提供するというものであり、最初に手掛けたのは32bitのRISC-Vコアである「lbex」だ。このコアはもともとスイスのチューリッヒ工科大学で開発されていたPULPプラットフォームのために開発されていた小型のRISC-Vコアで、当初は「RI5CY」という名前だった。このRI5CY、PLUP本体やPULPino、PULPissimoと呼ばれるシステムの制御に利用されている。このRI5CYの開発とメンテナンスを2018年以降lowRISCが行う事になり、この際にlbexと改称され、現在も広く利用されている。
lowRISCはこれと並行して、64bitのLinuxが稼働する(つまりMMUを持つ)64bit RISC-Vコアの開発も手掛け、こちらは最初のバージョンが2015年4月にリリース(なぜかblogがもう残っていないのでArchive)、2018年12月にはlowRISC 0.6のMilestone releaseが公開されたが、どうもここで開発は止まっているようで、lowRISCのDocumentページを見ると、この0.6が最新版のままである。GitHubを探してみると、OpenHardwareGroupが開発したCVA6からForkしたarianeとか、全くこれらと無関係なMuntjacなどいくつか64bit RISC-Vプロセッサのプロジェクトが見つかるが、lowRISC全体として力を入れて行っているという感じには見えない。
他に、RISC-V LLVMの開発を手伝ったりといった作業も行っているが、大きなものとして挙げられるのがOpenTitanである。これはlowRISCとチューリッヒ工科大学、Google、Nuvoton、G+D Mobile Security、Seagate、Western Digitalという8組織が共同で、オープンソースベースのRoT(Root of Trust)を構築しようというプロジェクトである。プロジェクトそのものは2018年にスタートし、2019年に前述の8組織がそろった格好だ。プロジェクトの管理はlowRISCが行い、成果物はApache 2ライセンスの元でGitHubで公開されている。この成果物の中にはRTLやネットリスト、ドキュメント、BOMリスト、Design Verification/Testing/Integrationなど開発やデプロイ、運用に必要となるものを全て含んだものとなっている。プロジェクトは2018年にスタートしたが、OpenTitanを利用する事で、チップのかなりの部分をオープンソースベースで構築できる、としている(図1)。2024年2月には、OpenTitanを利用した最初の商用チップがリリースされた。
さて、ここで話がzeroRISCにつながる。zeroRISCはこのOpenTitanの成果物が世に出るちょっと前、2023年4月に設立された。創業者は先に出てきたDominic Rizzo氏だが、設立まではGoogleでOpenTitanそのものの設立や、Tech Lead Managerを務めていた。zeroRISCの目的は、OpenTitanベースのRoTを利用したシリコンを基盤とする、最初の商用クラウドセキュリティサービスを提供する事である。zeroRISCは2023年10月に、Cambridge Angelsなどから500万米ドルの投資を受けたが、冒頭に書いたように今回倍の1000万米ドルの投資をさらに受けることに成功したというわけだ。ちなみにzeroRISCは当然OpenTitanプロジェクトにも参画している。
zeroRISCそのものは、自身ではSiliconを提供する予定はない。既にOpenTitanの成果物としてEarl Gray(図2)やDarjeeling(図3)といった実装が存在し、またOpenTitanのメンバー企業であるNuvotonや(zeroRISC同様、後から参加した)Rivosといった企業が既にOpenTitanベースのRoTを実装したSiliconを開発している状況であるから、ここでSiliconを出しても仕方がない。その代わり、zeroRISCはいわばIaaS(Identity as a Service)を提供する。従来だとこうした仕組みはProprietaryなソリューションの形で提供されていたが、これをOpen Source Hardware/Softwareで実現するための最後のピースをzeroRISCは提供しようというわけだ。
今回の出資は、こうしたzeroRISCのビジネスの有望性を見込んでのもの、という事になるのだろうし、Open Source Hardwareのビジネスの立ち上げには商用向けという出口がないと難しい、という見方もできるかもしれない。eFablessの破綻(「急転直下で破綻したeFabless 原因はオープンソース「ただ乗り」問題か」)と比べて考えるに、単にチップを作れるというだけではOpen Sourceベースで継続してゆくのは厳しいという現実が見えてくる。
lowRISCにしても、2024年2月時点での従業員は30人程とかなり少ない。それでもこれだけの数の人間を1年間雇うためには、最低でも300万米ドルくらいは掛かる。これは純粋な人件費であり、諸々の開発に必要なコストは別途必要である。つまるところOpen Sourceとか言っても最後は金勘定という所に帰着するのかもしれない。世知辛い世の中である。
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これを読めばここ1カ月のエレクトロニクス/組み込み業界の動きが分かる連載。注目すべき市場動向と注目すべき製品を取り上げます。
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