IoTとAI、ビッグデータ時代のソフトウェアテスト(10)
ソフトウェアテストの未来(前編)――テスト技術者の将来と教育(4/4 ページ)
テスト技術者の育成計画とシラバス
今まで見てきたことをここでまとめ、テスト技術者の育成計画とシラバス(研修計画)を見ていくことにする。
テスト技術者育成計画――魔法使い育成計画にあらず
教育計画を1つの柱として、テスト技術者の育成計画を立てる。前述したようにテスト技術者向けの教育には、階層別教育と中級者向けのドメイン別教育がある。シラバス(研修計画)を作り、それに基づいて教育をする。シラバスには教育の目的や達成度(受講者の評価)なども含み、研修内容を記載する。
育成計画にはシラバスだけでなく、受講者(テスト技術者候補)の選抜と今後の行動計画も必要である。どのようなメンバーを選抜して、どのようなテスト技術者にするか、達成レベルに応じて、どのようにテスト技術者を迎え入れ、どんな仕事をさせるのか。そして全社施策として、どのようなレベルのテスト技術者を何人育成するのかを計画する。
もっと言えば、テスト技術者にどんな待遇を与えるのかが重要であり、これが育成計画の1つの柱にもなる。
待遇とは厚遇、アメである。連載第1回に書いたよう、開発においてはいまだにメカ至上とも呼べるような格差が存在しており、その最下層にいるテスト技術者の地位向上の1つとしての待遇保証がアメである。
テスト技術者を専任にするか兼任にするかで、育成計画も変わってくる。兼任の場合、育成計画は面倒になるだろう。プログラマーとテスト技術者は仕事の方向性が違い、両方に優れているのはごくわずかである。プログラマーは一般的にテストが苦手で、優れたテスト技術者は大抵、優れたプログラマーではない。やはり方向性の違いである。しかし、プログラミングを知らないテスト技術者は役に立たない。逆にテストを知らないプログラマーも同様である。
上から目線(経営者的視点)で育成計画を考えると、最初に決めなければならないのは人数である。「何人くらいのテスト技術者が、どのレベルで必要なのか」を見積もる必要がある。
初級レベルテスト技術者の育成は比較的可能なので、中級レベル以上のテスト技術者が専任で何人、兼任で何人必要かを見積もらなければならない。このためには、どんな育成計画が必要なのかを逆に計画していく。しかし最初にムチャな見積もり(妄想)をしてはいけない。上から目線でも妄想は禁止である。こうして育成計画は熟成されていく。
とあるテスト現場より(4)
A:「育成計画って、わが社では何人ぐらいテスト技術者を育成するんですか」
B:「途中で脱落するものもいるから、多めに育成するかな(ぼそっ)。あ、君は補欠ね」
A:「やはりハッカーっぽいテスト技術者を育成するんですか」
B:「いや、魔法使いだ。」
教育施策実施のコツ
最後にテスト技術者向けの教育施策の運用を見ていく。施策は「教育計画の立案/実施/評価」のループを回すことになるのだが、そのコツを伝授する。
最初のコツはテスト技術者としての自覚を促す教育をすることであり、これなくしては教育効果が出ない。テスト技術者としての動機付けを最初に教育する。なぜテストが重要なのか、そうしてなぜ自分が選ばれたのかを教える。「君はうたぐり深いのでピッタリだ」「君は普段だらしないのに、ある面では非常にしつこい性格をしている」などテスト技術者に適した資質を、思いっきりオブラートに包んで話すことになるかもしれない。
2番目のコツはやはり実地研修である。実システムのバグを見つけるためのテストを演習として実施する。もし研修にコストをかけられるなら、わざと難しいバグを含んだシステムを作り、それをテストさせるのも面白い。例えば、50個のバグを仕込んでおき、その内、何個を見つけられるかの研修をするのである(50個以上のバグが見つかる可能性も否定できないが)。
最後の教育のコツは「育成対象者自身を教える立場にする」ことである。先生をすることは最大の学びになり、自分自身もテスト技術者として成長する。これによりテスト技術の伝承もできるようになり、さらに教えることがうまくなる。このループの中でテスト技術者は中級以上の技術者になっていく。これはテスト技術者の拡大にもつながる重要な施策だ。
テスト技術者の育成についてはまだまだ語り足りない面もあるが、次回はテストの未来を見ていくことにする。
著者紹介
五味 弘(ごみ ひろし):OKI(沖電気工業) シニアスペシャリスト、エバンジェリスト。博士(工学)。
ソフトウェアの開発支援・教育に従事。電子情報技術産業協会(JEITA)専門委員会の委員長や情報処理振興機構(IPA)などの委員など。情報処理学会(シニア会員)。三重大学などの非常勤講師やリサーチフェローも務める。IoTやAI時代のソフトウェア開発の知見融合が関心事。
著書に『はじめてのLisp関数型プログラミング』(技術評論社、2016年)、共著書に『IoTセキュリティ』(日経BP社、2016年)、『定量的品質予測のススメ』(オーム社、2008年)、『プログラミング言語論』(コロナ社、2008年)などがある。雑誌執筆や講演なども多数。著者の個人サイトはhttp://gomi.info/。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
IoTとAI、ビッグデータ時代のソフトウェアテスト
言うまでもなくソフトウェアテストは重要だが、IoTやAIなどの新しい概念によってソフトウェア自体の在り方が変わりつつある中、旧来からのテストを踏襲するだけでは成果は得られない。新時代のソフトウェアテストについて、考察する。
この記事の著者
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社 Green AI] AIで脱炭素計画を最適化、初年度からエネルギーコストとCO2を削減する方法 -
市場調査・トレンド
[スマートジャパン編集部] 「ペロブスカイト太陽電池」の普及戦略が公表 政府が目指すコスト・導入量のロードマップを解説 -
市場調査・トレンド
[スマートジャパン編集部] 導入が加速する再エネ・系統向け蓄電システム コスト・収益性の現状分析 -
技術文書・技術解説
[スマートジャパン編集部] いまさら聞けない「ペロブスカイト太陽電池」の基礎知識と政策動向 -
技術文書・技術解説
[スマートジャパン編集部] 「ペロブスカイト太陽電池」の開発動向、日本の投資戦略やコスト目標の見通しは?
関連記事
こんなメディアも見られています
TechFactoryに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
特集
- マテリアルズ・インフォマティクスの動向調査
- 研究・開発職のデジタル活用調査
- 設計・解析業務におけるAI活用
- 3Dプリンタ利用動向調査
- CAD利用動向調査
- つながる工場の現状と課題
- 製造業におけるAI開発および活用の実態
- 設計・製造現場における品質管理
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
EE Times Japan×EDN Japan 統合電子版:フィジカルAIが生み出す新たな「設計思想」――電子版2026年8月号
-
2
半導体装置メーカー 業績まとめ【2027年3月期第1四半期】
-
3
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part4)
-
4
一時は時価総額トヨタ超え キオクシア2026年度の動向
-
5
微細配線間の絶縁劣化をどう捉える? 先端パッケージ評価の最前線
-
6
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part1)
-
7
EE Times Japan×EDN Japan 統合電子版:2026年上半期の半導体業界を振り返る――電子版2026年7月号
-
8
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part3)
-
9
CADツールの見直しは本当に必要? 切り替えの理由と効果を7つの質問で検証
-
10
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part2)
TechFactory SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechFactoryをフォロー