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» 2017年01月30日 09時00分 公開

超速解説:IoTやM2Mで注目される通信技術「LPWA」とは何か――SIGFOX、LoRaWAN、NB-IoTの違いをまとめて解説

IoTやM2Mに向けた無線通信技術として注目を集めている「LPWA(Low Power Wide Area)」について、その概略やLPWAに分類される各種技術(規格)について解説します。なかでも有力視されている「SIGFOX」「LoRaWAN」「NB-IoT」の違いをまとめて解説します。

[小山安博,TechFactory]

「LPWA」とは何か

 IoT(Internet of Things)やM2M(Machine 2 Machine)向けとして注目されている無線通信技術が「LPWA(Low Power Wide Area)」だ。このLPWAは「低消費電力・広範囲」を特徴とする無線通信技術の総称であり、特定の技術やサービスを指すものではない。

 無線通信技術については伝送速度の高速化(大容量化)が注目されがちであるが、IoT/M2Mといった利用法においては、速度もさることながら長時間稼働できるような低消費電力性や実装および運用コストの低さも重要視されるため、そうした要件を満たすべくく開発されたのが各種のLPWAだといえる。

さまざまな「LPWA」

 現在、IoTやM2M向けとしてはBluetoothやIEEE 802.11a/b/gなどの無線LAN、LTEといった通信技術が使われている。しかし、これらは長距離伝送や低消費電力、低コスト運用といったIoT/M2Mで求められる要件を全て満たすものではない。さらに言えば、Bluetoothや無線LANは直接クラウドにつなぐことができず、ルーターなりゲートウェイなど何かしらの中間機器も必要とする。

 こうした問題点はBluetoothや無線LAN、LTEといった技術(規格)がそもそもIoT/M2Mでの利用を想定していなかったからことに起因する。そこで「IoT/M2Mで利用することを前提にした設計にしたらどうなるのか」という発想の元で考案されたのがLPWAなのである。具体的には「GreenOFDM」「DASH7」「RPMA」「Wi-SUN」「SIGFOX」「LoRaWAN(LoRa)」「LTE-MTC」「NB-IOT」「NB-Fi Protocol」「RPMA」などが提案・提唱されている。

photo IoTに用いられるさまざまな無線通信規格。LPWAは低消費電力と広範囲の特長を持つ技術/規格を指す総称として用いられ、特定/規格の技術を指す言葉ではない。IoT/M2Mでの利用については「低消費電力」「広範囲」の他、実装及び運用の低いコストも強く要望される

 この中でSIGFOXとLoRaWANは海外にて既に商用サービスが開始されており、日本でも2017年中に導入が始まる。普及に向けて一歩リードした状態といえるだろう。Wi-SUNは日本発の国際規格だが、上位プロトコルにECHONET Liteを利用することから現時点では事実上、日本のスマートメーターに特化した規格となってしまっている。

 SIGFOXやLoRaWAN、Wi-SUNは「非セルラー系LPWA」とも呼ばれ、広域通信である携帯系技術ではなく、基本的に免許がいらないISMバンド(Industry Science Medical:産業や学術、医療用に開放されている帯域、日本では主に920MHz帯)を利用する。逆にNB-IoTはLTE技術をベースに、IoTでの利用に向けたカスタマイズが行われている「セルラー系LPWA」といえる。

到達距離(最大) 伝送速度 利用帯域(日本)
SIGFOX 数十km 100bps 920MHz帯
LoRaWAN 11km 290bps〜50kbps 920MHz帯
Wi-SUN 1km 200kbps 920MHz帯
NB-IoT 15? 150kbps LTEバンド

「一方通行だけど格安」なSIGFOX

 SIGFOXを開発したのは2009年に設立された仏Sigfoxで、最も特徴的なのは上りしか通信しないことだ。帯域はUNB(Ultra Narrow Band:超狭帯域)を用い、日本国内では920MHz帯を利用する。伝送距離は最大数十km、通信速度100bpsの通信を提供する。

 2016年10月の時点で既に世界24カ国でサービスが展開されており、日本では京セラ コミュニケーションシステム(KCCS)が2017年2月からサービスを提供する。最安で端末1台あたり年100円という破格の値付けもSIGFOXの特徴だ。

携帯キャリアも展開予定のLoRaWAN

 LoRaは、非営利団体のLoRa Allianceが主導して規格策定などを行っているLPWA技術で、基本的にはSIGFOXと同様でUNBを利用しており、ISM帯(日本では920MHz帯)を使う。ホワイトペーパーには、通信速度が欧州の場合で250bps〜5.5kbpsという記載があり、利用できるチャンネル数などによっても速度が変わる。伝送距離は10km程度とされている。

 主な賛同企業としてはIBMやCisco、Orange、STMicroelectronicsなどがあり、日本国内ではMVNOのソラコムが実証実験を行っており、ソフトバンクやKDDIも2017年中には本サービスを開始すると見込まれている。

基地局というアドバンテージを持つセルラー系LPWA

 IoTが本格化するとデバイス数は爆発的に増加するとみられており、その数は2020年に180億とも200億とも言われている。LPWAへの注目はそうした数の爆発に対応するためであり、その多くが免許のいらないISM帯を利用し、低消費電力性の獲得や低コスト運用を目指している。

 そのなか、携帯電話向け無線規格を策定する標準化団体「3GPP」が策定を進めているのが「NB-IoT」だ。これはもともと3GPPが策定していた携帯通信方式の「LTE」を拡張したもので、Release 13で導入された。

 ようはLTEを低速・低消費電力・低価格で実現できるようにしたもので、通信速度は下り21.25kbps、上り62.5kbpsしかない。帯域幅も180kHzに制限され、そうした性能制限の結果、低消費電力、低価格を実現しつつ、既存のLTEネットワークでスマートフォンなどと共存できるという特徴がある。

最大送受信帯域幅 LTEの1PRB(180kHzに相当)
物理チャネル 上り:NPRACH、NPUSCH/下り:NPBCH、NPDCCH、NPDSCH
下り変調方式 QPSK
上り変調方式 BPSK、QPSK、TT/2-BPSK、TT/4-QPSK
移動機の最大送信電力 200mW(LTEと同一)、100mW
複信方式 半二重FDD
下りピークレート 21.25kbps(基地局サイドは227kbps)
上りピークレート 62.5kbps(基地局サイドは250kbps)
対応周波数帯(LTEバンド) 1(2Hz)、2、3(1.7GHz)、5、8(900MHz)、11(1.5GHz)、12、13、17、18(800MHz)、19(800MHz)、20、25、26(800MHz)、28(700MHz)、31、66、70(11、25、31、70は2016年12月に仕様化完了)
対LTEカバレッジ拡張 23dBの拡張を目標とした繰り返し送信をサポート(対GSMで20dBのカバレッジ拡張)
低消費電力 PSM、eDRX
NB-IoTの概要(エリクソンの発表資料より)

 LTEの1キャリア内で1スロットをNB-IoTに振り分けても、IoT全体のトラフィックは6%程度にしかならず、1スロットで需要を十分まかなえるため、既存LTEネットワークへの悪影響も心配ない。既存LTEとの完全な互換性があるわけではなく、基地局にも新たなソフトウェアを導入する必要はあるが、既存基地局がそのまま利用できるというメリットもある。

 エリクソンの予測によれば、通信エリアの広い広域IoTデバイスは、2016年末で約4億台だが、2022年には15億台になると見られており、こうした広域IoTデバイスの7割が携帯電話の通信技術を使ったものになるという。エリクソンは残り3割にLoRaWANやSIGFOXといった技術が使われると推測しており、NB-IoTが今後の主流になるとしている。

 LTEをベースとしているため、携帯電話キャリアが対応しやすく、インフラも携帯電話向けの基地局などが流用できるのはNB-IoTの大きな優位点だ。また、LTEをベースにしたLPWAとしてLTE-Mも存在する。LTEの仕様であるLTE Cat-M1を使っており、NB-IoTに比べて通信速度や消費電力は高めだ。NB-IoTとは用途に応じた使い分けが行われるだろう。


 LPWAはSIGFOXやLoRaWANが先行しているものの、そのままこの2つだけが定着するとは限らない。IoTの普及とはすなわち使われる局面が増えることを指しており、局面に応じた技術や規格が随時、選択されることも十分にあり得るからだ。

 また、(まだ商用ベースでの実用化はされていないとはいえ)セルラー系LPWAのNB-IoTを本命視する予測もある。既存の携帯電話基地局を利用できるためカバーエリアでは圧倒的なアドバンテージを持ち、また、通信のプロである携帯電話キャリアが参入しやすいからだ。IoTが拡大するといわれる2020年以降に向け、競争は激化するだろう。

ただ、IoT/M2M向けとして低消費電力(Low Power)、広範囲(Wide Area)な無線技術の需要が高まることは確かだ。重要技術としてLPWAの拡大は続くだろう。

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