産業社会におけるデジタル化の価値(2)
製造現場はどう変わる? デジタル技術がもたらすインパクト(1/3 ページ)
「デジタル化」とは何か――。デジタル化が産業社会にもたらす変化と価値について、全4回で解説する。第2回では生産技術、生産現場に近い部分において、最新のデジタル技術がどのような革新をもたらすのか? モノづくりの在り方がどのように変わるのか? 具体例を交えながら詳しく解説する。
こんにちは、志田穣です。
連載「産業社会におけるデジタル化の価値」では、IoT(Internet of Things)や人工知能(AI)といった近年話題のテクノロジーの中核を担う、「デジタル技術(デジタル化)」が産業社会に何をもたらすのか? その価値について全4回にわたり解説していきます。
前回はモデル化、システムズエンジニアリング、ビジュアリゼーションについて紹介しました。第2回となる今回は、製造現場により近い部分とバリューチェーンにおけるデジタル化の流れについて取り上げます。
◎「製造業のIT化/デジタル化」関連記事 ~導入、事例、課題、メリット~ など
» インダストリー4.0時代の到来を前に、電子化が進まぬ昭和なデータ管理をしていませんか?
» “鳥の目”でIT導入の真の目的を見極めよ! 何となくのIT活用にさようなら
» 現場を置き去りにしたITシステムの再構築、待っているのは“ダメ出し祭り”
» 従来の常識を覆し、限界点を突破する「デジタル技術」の可能性
» 製造現場はどう変わる? デジタル技術がもたらすインパクト
生産フェーズにおける行動の不完全性とは
前回、産業社会の課題とは、常に「認識」⇒「判断」⇒「行動」における組織の不完全性、能力の欠如をいかに強化するかであるとお伝えしました。では、製造業、とりわけ生産フェーズにおける“行動の不完全性”とは何でしょうか。以下で整理してみたいと思います。
(1)生産量の柔軟性に対する不完全性
製品の需要量は、景気や顧客の嗜好により変動しますが、一般的な工場、生産拠点はある一定の生産量を想定して運用されています。もちろん、ある程度の生産力増強や生産量調整は可能ですが、現代のように外的要因が激変する社会において、その変動に対応することは非常に困難です。また、工場の新設/廃止は膨大なコストがかかり、需要変動に対応するにしても、企業として非常に大きなリスクを伴う決断となります。
(2)製品多様化への対応の不完全性
需要量だけでなく、顧客が要求する商品は多様化しています。ある商品(例えば、自動車)のバリエーションやマーケットごとの適合仕様品を生産することですら、多くのチャレンジを伴います。ですから、“どんな商品でも生産できる夢のような工場”が誕生するのは、もっと遠い未来のことでしょう。
(3)生産技術に対する不完全性
多くの組立系製造業では、自社で製造する構造部品のほとんどを、プレス、鋳造/鍛造、切削加工、樹脂成形といった生産技術を用いて作っています。これらの技術は長年にわたり量産のために使われてきましたが、型あるいは工具が介在することによる形状的な制限が伴ったり、複数工程が必要となったりします。
(4)予測に対する不完全性
製品需要の将来性を読み解くことは、非常に困難です。新しい製品(完全な新製品だけでなく、派生製品も含む)を生産する場合、既存の生産ラインや設備、設定を変更/修正して利用することがありますが、これらの検証や新しい生産ラインのスループットを予測することでさえ、極めて困難で手間の掛かる作業です。
(5)現状を把握する能力の不完全性
工場の生産ラインや設備機械が、今どこで、どのような状態で使われているのか、実は把握されているようでされていません。製造現場において調整は日々行われており、現実の状況は刻一刻と変化していますが、そうした変化の多くがマスターデータへきちんと反映されていません。
部品表(BOM)と工程表(BOP)の連携/管理
前述した課題のうち、(2)製品多様化への対応の不完全性と、(4)予測に対する不完全性に対しての1つの解は、マスターデータである部品表を、設計開発のみならず生産技術、生産現場の領域まで連携して活用することです。一般的に製品構成というものは設計側で定義され(eBOM)、その構成は設計側の理屈で決まります。一方、モノを製造する観点では工順などの理屈でBOMが定義され(mBOM)、そこに工程が組み込まれて工程表(BOP)が定義されますが、部門が異なることからデータの流れが分断されていることが多く見受けられます。そのような場合、eBOMの派生部品(オプション)情報を、下流であるmBOM側がどう受け止めるかが課題となります。昨今のように派生数が増大すれば、この部分をマニュアル操作でつなぐことは困難であり、システムによる連携が不可欠になってきます。
工場などの生産現場には、作業区ごとに設備機械があり、ライン単位でロボットあるいは工員が配置されています。これらは製品の構成ツリーと対応した形で「工場の構成ツリー」と呼ぶことができ、複数の国に生産拠点を持つようなグローバル企業であれば一元的に管理されるべきものです。そうすることで、製品の部品表と連携した標準化されたBOPの情報を基に、ある工場での固有の工程計画、または派生製品や設計変更への対応をスムーズに行うことが可能になります(図1)。
また、これらのBOPも単なるデータベース上の1レコードだけでなく、関連する3Dデータや属性と併せて管理することで、工程計画や後述するシミュレーション(バーチャルコミッション)を精緻に行うことが可能です。一昔前であれば、製品の3Dデータはともかく、設備の3Dデータを全て用意し、かつBOPに関連付けて管理することは非常に困難でしたが、こちらも技術の進歩により実現可能となってきています(図2)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
産業社会におけるデジタル化の価値
「デジタル化」とは何か? デジタル化が産業社会にもたらす変化と価値について、全4回で解説する。
この記事の著者
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社 Green AI] 自動車業界の脱炭素はなぜ進まない? 実務で直面する“壁”の乗り越え方 -
製品資料
[株式会社 Green AI] 脱炭素投資をすぐ回収するには? エネルギー&CO2削減の成果を出す秘訣 -
市場調査・トレンド
[スマートジャパン編集部] 「ペロブスカイト太陽電池」の普及戦略が公表 政府が目指すコスト・導入量のロードマップを解説 -
市場調査・トレンド
[スマートジャパン編集部] 導入が加速する再エネ・系統向け蓄電システム コスト・収益性の現状分析 -
技術文書・技術解説
[スマートジャパン編集部] いまさら聞けない「ペロブスカイト太陽電池」の基礎知識と政策動向
関連記事
こんなメディアも見られています
TechFactoryに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
特集
- マテリアルズ・インフォマティクスの動向調査
- 研究・開発職のデジタル活用調査
- 設計・解析業務におけるAI活用
- 3Dプリンタ利用動向調査
- CAD利用動向調査
- つながる工場の現状と課題
- 製造業におけるAI開発および活用の実態
- 設計・製造現場における品質管理
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
ものづくり白書2026を読み解く
-
2
EE Times Japan×EDN Japan 統合電子版:フィジカルAIが生み出す新たな「設計思想」――電子版2026年8月号
-
3
一時は時価総額トヨタ超え キオクシア2026年度の動向
-
4
プリント基板設計の課題を乗り越えた成功事例集
-
5
IMUを活用してロボットの位置推定を強化、より高精度なナビゲーションが可能に
-
6
「サプライチェーン最適化」実践ガイド:効果的な意思決定を実現する秘訣とは?
-
7
AI×DXで効率化する設備保全まとめ
-
8
若手設計者が育たない? 「探す」時間を「学ぶ」時間に変えるデータ管理とは
-
9
動き出したファナックの「フィジカルAI」
-
10
EE Times Japan×EDN Japan 統合電子版:2026年上半期の半導体業界を振り返る――電子版2026年7月号
TechFactory SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechFactoryをフォロー