今回は、私語をした学生に筆者が「罰レポート」として課した“集合論の難解な問題”を取り上げます。
学生は、教員側が1歩退くと、3歩前進してきます。ですので、教員側は「締めるべきところは、きちんと締める」方針で臨まなければなりません。
「きちんと締めるべきところ」の1つが、テストでのカンニング防止です。2カ月前の本コラムで、筆者が担当していた「オペレーティング・システム基礎1」の授業での後期試験で、カンニングを防止する「ソリューション」を取り上げました。
もう1つの「きちんと締めるべきところ」は、授業中の私語です。今回は、私語をした学生に筆者が「罰レポート」として課した“集合論の難解な問題”を取り上げます。
私語は、本人が想像する以上に破壊力があります。授業中、本人同士は一番後ろの席に座り、隣にしか聞こえない小さな声で会話しているつもりですが、さざ波が伝わるように、黒板の前にいる筆者にもはっきり聞こえます。私語は、教員だけでなく、学生にも非常に迷惑です。
新学期の第1回目の授業の開始直後に、必ず、筆者は学生に次のように言います。
私の授業は私語絶対厳禁です。この中には、ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズ(当時は存命でした)やマーク・ザッカーバーグと対等の立場で「エンジニアリング的な喧嘩」をするつもりの志の高い人がいます。私語をして、そんな人の邪魔をしてはいけません。私語をした場合、話した方と聞いていた方の両者に教室から退場してもらいます。私の授業が退屈なら、静かに寝ていてください。授業が面白くないのは、私の「芸が拙い」からであり、そこは真摯に受け止めます。でも、真面目に授業を受けている人の邪魔をしてはなりません。授業の邪魔をすることは、威力業務妨害です。出席点が欲しいだけで授業に出ているのなら、出席点は全部あげます。レポートも受け取りますし、試験もちゃんと採点します。その代わり、授業に出ないでください。退場勧告を受けても退場しない場合、授業を中止し、私が退場します。
2回目の授業でも、開始時に同じことを言います。
こうした2度の警告で私語がなくなるかというと、そうではありません。これまでの頻出パターンでは、3回目以降の授業で筆者の警告をコピー機の「トナーが少なくなっています」程度の軽いウォーニング・メッセージと思い、私語をする学生たちが現れます。そして、筆者が、「後ろから2番目の窓側に座って私語をしている2人、退場してください」とピンポイントで学生を特定し、退場を宣告します。でも、少しぐらいは許してもらえると思うのか、退場しません。3回、警告を繰り返しても退場しないと、筆者は、「では、最初に言った通り、授業を中止します」と言いながら、PCの電源を落としてスライド投影を止め、次のように言います。
コンピュータ系の職業を志望する学生諸君に言っておきます。入力バッファが1024バイトしかない場合、そこへ「1バイトぐらいは入るだろう」と1025バイトのデータを入れてはなりません。入力バッファの次の1バイトを破壊します。「ちょっとぐらいはイイだろう」はソフトウェアの設計では通用しません。全て、仕様に従って動作します。それと同じで、「私語は絶対厳禁。私語をした場合は退場」と言っているのに、退場しない場合は、「仕様通り」に私が退場します。
筆者は、そう言ってから教室を出ます。
次の授業では、筆者が本気であることが分かり、静かになります。ですが、8回目、9回目になると少し緊張が緩んで私語を始める学生が現れます。筆者が、「一番後ろの真ん中の2人、退場してください」と言うと、学習能力があるため、今度は素直に退場します。2人の学生には、ただ退場させるだけではなく、追加で「罰レポート」を課し、次の授業で提出させます。以下が「罰レポート」として課す問題です。みなさんも一緒に考えてください。意外に難問です。
集合論では、命題、「Aならば、Bである」が成立する場合、その対偶である「Bでないならば、Aでない」も必ず成立します。例えば、「猫であるならば、動物である」の対偶は、「動物でないならば、猫でない」は成立します。
それでは、「君たち2人は注意されないならば、君たち2人は私語を止めない」を考えます。これは成り立ちます。実際に、2人ともそうでしたからね。
では、この対偶を考えましょう。対偶は、「君たち2人が私語を止めるならば、君たち2人は注意される」になります。これは成り立ちませんね。
命題が正しいのに対偶が正しくないという「矛盾」の原因を次回の授業までに考えてきてください。
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