トヨタ自動車が全面採用したことでも話題となった、産業用オープンネットワーク「EtherCAT(イーサキャット)」。ここ数年、EtherCAT協会への加盟企業数も急増し、その存在感は増すばかりだ。なぜ、EtherCATが注目されているのか? インダストリー4.0やIoTといった時流の影響だけではない、“その理由”について解説する。
「EtherCAT(Ethernet for Control Automation Technology、イーサキャット)」は、自動制御システムにおけるコントローラーとI/Oデバイス間のデータ通信ネットワークとして、2003年、ドイツのベッコフオートメーション(Beckhoff Automation)により開発されたリアルタイムイーサネットフィールドバスです。
EtherCATの仕様は、その後設立されたEtherCAT協会(ETG:EtherCAT Technology Group)によりオープン化され、維持管理されています。ETGに加盟する日本企業も多数ありますが、その中でもアルゴシステム、オムロン、山洋電気、長野沖電気、日立産機システム、ベッコフオートメーションは日本の地域委員会を結成し、プロモーション活動や製品開発を進めています。加盟が無料であることもあり、加盟企業数は発足後10年で2000社まで増えています。特に、ここ3年で急激に加盟数が増え、2016年現在で4000社以上となっています。
EtherCATが注目を浴びる理由は、「インダストリー4.0(Industrie4.0)」「IoT(Internet of Things)」など、高度なデジタル化による産業改革を進める時流の影響だけでなく、EtherCATの画期的なアーキテクチャや、ETGグループ企業による技術仕様の拡張および適合性改善、積極的な先進技術の追究に期待する要素も大きいでしょう。
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1990年代、デジタル制御システムにおけるコントローラーと計装機器間のデータ通信は標準規格化が進められ、フィールドバス(IEC 61158)として標準認証されました。初期フィールドバスは、主にシリアル通信(RS-485)を基盤としたネットワーク構成で、通信速度や接続距離に課題がありました。2000年初頭、それまで上位レベルで使用されていたEthernet(イーサネット)を通信基盤とする動きが急速に高まり、各機器(ノード)間の配線長と通信速度の制限の引き上げ、機能追加が行われた次世代フィールドネットワークが登場しました(EtherNet/IP、CC-Link IE、MECHATROLINK-IIIなど)。EtherCATもこの1つです。
EtherCATの特徴は、効率的な通信方式による高速通信と高精度同期です。効率的な通信は、一度のトランザクションで接続する全ての機器に対して出力指示を出し、入力情報を取得する仕組みによるものです。キーとなる高速処理の主な機能は、スレーブ側のESC(EtherCAT Slave Controller)にあり、マスターは汎用Ethernetにより実装可能です。DC(Distributed Clocks)は、クロック配信により接続スレーブのクロックを同期させる機能です。接続スレーブは、配信クロックとローカルクロックの差異からアクティブとなるタイミングを調整します。
他のフィールドバスより後発であるEtherCATは、既存技術利用や、他のフィールドバスとの互換性も考慮されています。CANopenのプロファイル定義デバイスのアプリケーションを少ない労力でEtherCATデバイスとして実装を可能とする「CANopen over EtherCAT(CoE)」、EtherCATスレーブノードに対するTCP/IPソケット通信接続や、EtherCATバスネットワークをTCP/IPネットワークのトンネルとして利用する機能をサポートする「Ethernet over EtherCAT(EoE)」、旧フィールドバス接続を橋渡しすることでPROFIBUS、DeviceNetなどの初期フィールドバスシステムを再利用可能とする「Modular Device Profile(MDP)」などが定義されています。
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システム内で分散していたPLC(Programmable Logic Controller)、NCなどの制御セグメント、HMI用のコンピュータは、半導体技術の向上により高速化・安定化したプロセッサを持つ“1台のPC”の中に統合され、センサー、デバイス、コントローラー間通信を担当したフィールドネットワークは、工場全体の制御を行うファクトリーネットワークとして統合されつつあります。
2015年、ETGはEtherCAT通信機能に電源供給機能を統合した「EtherCAT P」を発表しました。EtherCAT Pは、ちょうどUSBや、Power over Ethernetのようにデータ通信線と電源供給線を統合する規格を“FA用途”に適用したものです。フィールドバスに接続するスレーブ機器はデータ通信線として1本のケーブルで接続しますが、各機器を駆動するための電源供給(24V DC)が別途必要となります。電源供給配線と通信線を1本にまとめることで、接続に必要な部品や工数コストを省き、装置の小型化や設置スペースの最小化が可能となります。トヨタ自動車がEtherCATを採用したポイントの1つは、EtherCAT Pだといわれています。
クリティカルな応答性能と高精度同期性能から、EtherCATは半導体製造装置、工作機械といった産業用製造装置の内部通信バスや、工場内通信ネットワーク、遠隔I/Oとして注目されますが、製造工程管理や工場全体のプロセス制御には、SCADA(Supervisory Control And Data Acquisition)システムや、MES(Manufacturing Execution System)など、上位システム間との接続が必要となります。マイクロ秒精度制御と高精度同期が要求されるデバイス制御とは異なり、プロセス制御では実時間制御が必要なく、まず要求されるのはWireless(ワイヤレス)を含む標準的なLAN通信ネットワークによる制御機器設定や診断機能です。「EtherCAT Automation Protocol(EAP)」は、EtherCAT通信フレームを標準的なTCP・UDP/IPにのせたEtherCATマスター通信で、汎用LANに接続する上位の操作卓から制御コントローラーセグメント内のデバイスの制御や設定を可能とします。
安全性の確保は、プロセス制御に求められる重要な要素です。ETGはEAPとともにセキュリティプロトコルの実装を定義した「Safety over EtherCAT(FSoE)」を提案しています。FSoEは、EtherCAT通信経路上にクリティカルな安全制御データを混在する仕組みです。クリティカルデータと安全性付加情報がプロセスデータ内に混在することにより、緊急停止スイッチやインターロック方式ドアなど、外部リレーロジックにより組み込まれていたセキュリティプロトコルを、EtherCATデータ通信内に統合できます。
2015年、ETGとOPC Foundation(OPCF)は、インダストリー4.0におけるEtherCAT通信と「OPC UA(OPC Unified Architecture)」間の共通インタフェース開発を発表しました。OPC UAは、プロセスデータ、アラーム、履歴データ通信を行うクライアントサーバ接続を定義したインタフェースで、プラットフォームに依存しないサービスアーキテクチャです。OPC UA経由でEtherCAT通信にアクセスできれば、プラットフォームに依存せずに外部コンピュータから工場に接続し、工場内のEtherCAT制御機器の稼働状況を把握できます。
EtherCATは、装置の小型化、高速・高精度データバス、工場の自動化、安全制御を行うプロセス制御から、インターネットを利用した“つながる工場化”まで、幅広く次世代の産業進化を促すキーテクノロジーの1つとなりつつあります。
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