旭鋳金工業
未知なるジェネレーティブデザインを前に砂型鋳造の限界に挑んだ町工場のプロ魂(1/3 ページ)
パーソナルモビリティを開発するWHILLからの要請を受け、ジェネレーティブデザインで設計されたフレーム部品の試作を砂型鋳造でやってのけた中小企業がある。旭鋳金工業(横浜市旭区)だ。砂型アルミ鋳造によるジェネレーティブデザインパーツの国内初事例はどのようにして生まれたのか。従業員7人の小さな町工場を取材した。
「さすがにうちでは作れない」「申し訳ないけどよそを当たってほしい」――。パーソナルモビリティを開発するWHILLは、次期製品開発に向けて検討を進めているジェネレーティブデザインの試作部品の製造パートナー探しに苦労していた。
昨年(2018年)夏ごろから、オートデスクの「Fusion 360」に搭載されたジェネレーティブデザインを用いた次世代設計にチャレンジしてきたWHILLは、メインボディー部のフレームパーツの軽量化に向け、ジェネレーティブデザインを適用し、さまざまな機能要件を満たすある1つの形状を導き出した(※1)。
※1:WHILLが開発するパーソナルモビリティ「WHILL」については、こちらの記事「バリアを壊すモノづくりに挑戦、『WHILL』が目指すパーソナルモビリティの未来」をご覧ください。
だが、その形状は自然界の生物(の骨)を連想させるような有機的なもので、一般的な工業製品のものとは大きく異なる。それ故、ジェネレーティブデザインによる試作部品を入手するとなると、3Dプリンタによる造形が1つの選択肢となるわけだが、強度やコストの問題、将来的な量産への道筋を考えると、現時点では最適とは言い切れない。それではと、WHILLは思い当たる加工業者へ手当たり次第に声を掛けてみたが、どこの業者も首を縦には振ってくれず、総崩れだったという。
「私たちの思いとしては、ツール(Fusion 360)で導き出したジェネレーティブデザインの形状をそのまま一体のアルミパーツで試作して、ツールで計算した値と実物との相関性を検証してみたかった。結局、どこも作れないとなると、データを一部修正して量産を意識した形状にしてから試作するしかないと諦めかけていた」と、WHILL 車両開発部 部長の平田泰大氏は振り返る。
そんなとき、「うちにやらせてほしい」と手を差し伸べたのが、旭鋳金工業(横浜市旭区)の代表取締役 大林淳一氏だ。
旭鋳金工業は大林氏の祖父の代から続く鋳物づくり50年の中小企業。初めて目にするジェネレーティブデザインを前に、大林氏の頭の中でパズルが組み合わさるかのように、どうやって砂型を作り、鋳込むか、その道筋が次第に出来上がっていく。
「とにかく挑戦してみたい」――。大林氏に迷いはなかった。
失敗の繰り返しがあってこそ“今”がある、鋳物の限界へ挑戦する旭鋳金工業
旭鋳金工業は、アルミ鋳物を得意とする従業員7人の町工場。大型のアルミ鋳造から精密一体化アルミ鋳造、各種アルミ合金鋳物、銅合金鋳物まで幅広く手掛け、創業以来“砂型”にこだわった鋳物づくりに取り組んでいる。
お世辞にも大きな企業とはいえないが、大林氏は継続的な成長、脱下請けを目指して、時に一銭にもならないような企画や依頼にも挑戦し続け、とにかく技術に磨きをかけてきた。「何もしないままでは、他の中小企業と同じようにいずれつぶれてしまう。そうならないためには、自分たちの技術力を武器に自社製品を開発したり、自分たちにしかできないことを追求したりしなければならない」と大林氏。
この言葉通り、大林氏は砂型による鋳物づくりに真摯(しんし)に向き合いながら、これまでさまざまなチャレンジ、中には常識外れの取り組みにも果敢に挑戦してきた。仕事がまだ少ないころは、テレビ番組でヒントを得て、アンダーカットの模様がある砲金製の骨つぼを企画・製造し、葬儀屋や霊園などに飛び込み営業をかけたり、プラモデルやガラス瓶用の緩衝材(ボトルネット)を原型に砂型を起こして鋳造してみたりと、オリジナル商品開発から鋳物の限界への挑戦まで、とにかくやれることをやり尽くしてきたという。
「これまで挑んできたことの1つ1つの積み重ね。そして、失敗の繰り返しがあってこそ“今”がある」と大林氏は笑う。
事実、磨き上げてきた技術力が認められ、旭鋳金工業の真骨頂である大型アルミ鋳造品の代表プロダクト、テレビカメラの移動台カバーの製造を手掛けるようになる。「こうした売れるものを次々と生み出したい」。それが大林氏の願いでもある。
未知の“ジェネレーティブデザイン鋳造”への挑戦を決めたプロ根性
そんな大林氏にとって大きな転機となったのが、横浜市が推進する中小企業支援プロジェクト「創造的ビジネス・コーディネート事業」だ。ここで同プロジェクトを支援していたファブラボ神田錦町の梅澤陽明氏と出会ったことで、大林氏の歯車は大きく動き出す。横浜市のプロジェクトでは結果的にデザイナーとコラボレーションしてオリジナル商品「Cast Alminum 3D Hanger(ハンガー)」を手掛けるようになるわけだが、同時に3Dプリント品を原型にした試作砂型鋳造の可能性を真剣に模索するようになっていく。
大林氏と梅澤氏による“鋳物×3Dプリント”の研究は2017年1月ごろから本格化する。どの3Dプリント素材が鋳造に適しているのか、どういった形状ならものになるかなど、いろいろなテストケースに挑み、とにかく知見をためていったという。
そして、2018年11月末、梅澤氏を介して、お手上げ状態だったWHILLによるジェネレーティブデザインの試作部品製造の話が舞い込んできた。かなりの短納期での依頼とあって、「最初、口では『こんなものできるわけがない』と言ってみたが、ダメ元で挑戦したいという思いが勝った」と大林氏は当時の心境を語る。
もちろん、プロとしての自信もあった。これまで蓄積してきた技術、代々受け継いできた技法を駆使すればやれるはずだ――。「Form 2」で3Dプリントされたジェネレーティブデザインのフレームパーツを目の前に、大林氏の頭の中で作業手順がどんどんと組み上がっていく。
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