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» 2018年07月19日 09時00分 公開

サービス領域における「デジタルツイン」はアフターサービスで真価を発揮する超速解説 デジタルツイン【サービス領域】(2/3 ページ)

[山田篤伸/PTCジャパン,TechFactory]

「拡張現実(AR)」の現実と課題

 アフターサービスでの利用が期待されるデジタルツインですが、本格的な採用に向けて課題もあります。

 機器、装置のデータを取得、転送するIoT分野の技術は既に十分にこなれていて、企業での利用も当たり前になりつつあります。一方、収集した機器のデータをモバイルデバイスに投射する拡張現実については、まだまだ技術的な障壁が残っています。

 “技術的な壁”として最初に挙げられるのが、個体認識とその精度です。家電製品などのようにモデルが同じならば、どの個体もほぼ同じ部品構成を持つ製品であれば、拡張現実をサービスに利用することは比較的容易です。しかし、建設機器や自動車のように機体番号(車両識別番号)ごとに製品構成が違う場合には、注意が必要です。

 例えば、バッテリーやオイル残量などのセンサーデータを現実車両の映像の上に重ね合わせて投射することを考えてみます。このとき、センサーデータが投射される位置は、車両の特定の部品からの3次元オフセット値で制御されます。例えば、エンジンブロックに刻印されたメーカーエンブレムを拡張現実のゼロ座標点(ARマーカー起点)とした場合、どの車両も同じ位置にバッテリーやオイルタンクがあれば問題はありません。しかし、右ハンドルと左ハンドルの違いや、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ハイブリッドなど駆動方式の違いなどでユニットの配置が異なる場合には、現実の部品が存在している場所とは異なる空間座標にセンサーデータが表示されてしまうであろうことは容易に想像できます。

 こうした、注文ごとに仕様が異なる状況をCADやPLMでは「オプション&バリアント」と呼びますが、機体番号や車両識別番号を認識して正しい機体構成をPLMなどから取得し、動的にセンサー表示位置を変更するなどの措置を取る必要があります。こうした仕組みを構築することは、一般的には容易なことではありません。

 次の壁は、いわゆる「運用時構成BOM(As Maintained BOM)」に関するものです。一般的に生産設備や建設機器などは、購入してから長期間にわたり稼働を続けます。稼働期間中に定期点検や故障対応などで整備を受けますが、メーカーから供給される部品はどんどん代替わりをするので、数年経過すると当初の部品構成からがらりと変わってしまうことがよくあります。建設機器や農業機器などは、作業機(ショベルの爪やトラクターの耕運機部分など)を付け替えることもあり、購入当初とは全く別の姿形になることも珍しくありません。

 デジタルツインの利用用途として大きく期待されているのが、CADデータから生成した3Dアニメーションを利用してサービス手順を分かりやすく伝えるというものですが、CADデータはあくまでも設計段階のデータです。サービス技術員が実際に目にしている設備、機器が当初から大幅に変更を加えられているときに、設計当初のCADデータをオーバーレイ表示することは、もしかしたらサービス技術員に混乱をもたらしてしまうかもしれません。

 こうした問題を避けるためには、機器構成の変更を日々追跡して記録する運用時構成BOMを構築して3Dアニメーションと連携させる必要があります。しかし、運用時構成BOMをどのように構築するか、そして3Dアニメーションをどのようにして連携させるかに関しては、まだまだ実証段階といえます。

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もう1つの「AR(Assisted Reality)」

 デジタルツインをアフターサービスで利用するに当たって、拡張現実の採用には技術的な壁が幾つかあることを述べましたが、だからといって拡張現実の仕組みが“現時点で全く役に立たない”というわけではありません。前述の通り、モデルごとの部品構成に変異が少ない場合には、今すぐにでも利用が可能です。

 また、モバイルデバイスのカメラが捉えている映像(コンピュータビジョン)にIoTデータやCADデータを重ね合わせるタイプの“リッチな”拡張現実(AR)は、アフターサービスのデジタルツインが目指すべき最終形態ですが、そこに至る過程としてより簡便に利用できるもう1つのARがあります。

 そのもう1つのARを、通常の拡張現実(Augmented Reality)に対して「Assisted Reality」と呼びます。Assisted Realityは“支援現実”と訳されることがありますが、まだ訳語が揺れている状態なので本稿では、アシスティッドリアリティーと記します。

 拡張現実がコンピュータビジョンの利用を必須とするのに対して、アシスティッドリアリティーの基本的な利用用途ではコンピュータビジョンを利用しません。アシスティッドリアリティーでは、RealWearやVuzixが開発、販売するような、左右どちらかの眼の脇に小型のディスプレイを有するタイプのデバイスを使用します。

 現実のカメラ映像にデータをオーバーレイ表示する拡張現実とは異なり、アシスティッドリアリティーでは、サービス技術員が必要としているデータを“オンタイムに、作業コンテクストに従って表示すること”を目指しています。

もう1つのAR、「アシスティッドリアリティー」のイメージ もう1つのAR、「アシスティッドリアリティー」のイメージ

 アシスティッドリアリティーは、映像情報とのマッピングを行わないので、前述したさまざまな課題を上手に避けられます。機体構成や運用時構成が出荷時とは違っていても、センサー値さえ正しければ表示は正確なものになりますから、アフターサービスの現場で大きな効果が期待できます。


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