カシオ計算機がデジカメ事業からの撤退を発表しました。QV-10で「撮った写真をその場で見られる」革新を起こしたメーカーは、コンパクトデジカメの市場縮小もあって退席することになりましたが、他の製造業においてもこの出来事は無関係とは言いきれません。
カシオ計算機がデジタルカメラ事業からの撤退を発表しました。世界で初めて背面液晶を搭載した「QV-10」で現在に続くデジタルカメラの原型を世に送り出し、「EXILIM」ブランドで長らく製品を展開してきましたが、コンパクトデジカメの市場縮小という時流には逆らえず、23年の歴史に幕を下ろす撤退表明となりました。
デジタルカメラが一般化する前、カメラと言えばフィルムカメラでした。ポラロイドなどを除けばフィルムカメラを使うということは「撮る」と「見る」には現像という工程を挟むことであって、QV-10が提示した「撮った写真をその場で見られる」ことはまさにイノベーションと呼べるもので、登場当時、10年先の写真の姿を示したともいえるのでした。
カシオ計算機がQV-10を発表したのは1995年のこと。その後、デジタルカメラは「デジタル製品としての進化」と「フィルムカメラを源流とする進化」の2つの潮流を交互に描きながら成長していきます。その成長は10年以上にわたって続き、旧来のフィルムカメラがあくまで嗜好品にとどまっていたのに対して、デジタルカメラというカテゴリーはデジタル一眼レフやミラーレスカメラの登場もあって、日用品ともいえる存在にまで成長します。
ですが、その成長はある製品の進化で足踏みすることになります。携帯電話、そしてスマートフォンの登場と進化です。QV-10が示した「撮った写真をその場で見ることのできる製品」という立ち位置は、スマートフォンに取って代わられたのです。
携帯電話は登場時、「持ち運べる電話」でしかありませんでした。しかし、高機能化が進む中でカメラ機能の搭載が当たり前になり、大画面を搭載するスマートフォンが一般化するころにはカメラ機能も相当なものとなりました。個人的な感覚ですが、iPhone 4が登場した2010〜11年ごろには「スマホのカメラでいいんじゃない?」という声が見られつつあったように思います。
スマートフォンの進化を横目に、デジタルカメラもズーム機能の強化や高画素化、ネットワーク機能の搭載など高付加価値化を進めましたが、「写真」という趣味性を求めるニーズより、より日常的な需要である「撮った写真をその場で見られる」ニーズの方が高いのは明らかで、徐々に勢いは失われていきます。それはCIPA(カメラ映像機器工業会)の発表する統計資料にも明確で、デジタルカメラの出荷台数は2010年から6年連続で減少し続けます。
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