ダッソー・システムズ主催の年次SIMULIAユーザー会「2018 SIMULIA Community Conference Japan」の基調講演において、横浜ゴム 理事 研究本部 研究室長の小石正隆氏が「AIとCAEと技術者との協奏による材料と製品の設計開発」をテーマに、同社のタイヤおよびゴム材料開発の取り組みについて語った。
AI(人工知能)/機械学習というと、クルマの自動運転やロボットの自律制御、検査などで用いられるマシンビジョンといった利用をイメージしがちだが、設計開発の現場でこれらを適用した場合、どのような“捉え方”“活用”ができるのだろうか。
こうした視点に立ち、製品や材料の設計開発に機械学習、CAEをフル活用しているのが横浜ゴムだ。
本稿では、横浜ゴム 理事 研究本部 研究室長の小石正隆氏が「AIとCAEと技術者との協奏による材料と製品の設計開発」をテーマに語った、「2018 SIMULIA Community Conference Japan」(主催:ダッソー・システムズ/会期:2018年11月1日)の基調講演の模様をお届けする。
ちなみに“きょうそう”は、よく「共創」あるいは「協創」と表現されることがあるが、AI、CAE、技術者(ヒト)がそれぞれ連携し合って、イノベーション創出につなげていくという意味合いを込め、オーケストラになぞらえ「協奏」と表現したという。
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横浜ゴムとダッソー・システムズの有限要素解析ツール「Abaqus(アバカス)」との関わりは、1990年にAbaqusのバージョン4.7を導入したことに始まる。タイヤの解析を進めるために、定常輸送解析(steady-state transport analysis)の機能を当時の開発元であるHKS(Hibbitt, Karlsson&Sorensen)と共同開発するなどし、取り組みを加速。「横浜ゴムとAbaqusとの付き合いは、30年弱にもなる」と小石氏は振り返る。
タイヤというと、黒くて丸いゴムの塊で、風船のように空気を包み込んでいるもののように思えるが、その中にはスチールコードや有機繊維といった補強材が使われており、「構造的に複雑で、大きな変形も伴い、材料的にも非線形ということで、非常に難しい有限要素法のアプリケーションの1つといえる。そのため、Abaqusを使うに当たっても、いろいろな機能拡張を行ってきた」(小石氏)。
一方、ゴム材料に関してもポリマーだけではなく、ポリマーの中にシリカやカーボンブラックといったナノスケールの粒子が充填(じゅうてん)されており、転がり抵抗や摩耗特性といったタイヤの性能向上に重要な役割を果たしている。「これらをどのように充填するかによって、ゴムの物性値が変わり、タイヤの特性も決まってくる。タイヤメーカーにとって、タイヤの構造設計ももちろん大切だが、それ以上に材料設計が重要になっている」と小石氏は述べる。
小石氏自身は入社以来、タイヤ構造のシミュレーションに長年携わってきたが、近年はゴム材料の設計にかなりのウェイトを割いて研究開発に取り組んでいるそうだ(本稿では、講演の中からタイヤ開発の取り組みを中心にお届けする)。
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