NVIDIAが通信キャリア向けの事業展開について説明した。「GPUコンピューティングは、3G/4Gから5Gへの移行を始めている通信業界でも重要な役割を果たすことになるだろう」とする。
NVIDIAは2018年6月17日、東京都内で会見を開き、同社の通信キャリア向けの事業展開について説明した。同社で通信業界におけるAI・アクセラレーテッド コンピューティングのグローバル責任者を務めるソーマ・ヴェラユサム(Soma Velayutham)氏は「GPUコンピューティングはさまざまな業界に革命を起こしているが、3G/4Gから5Gへの移行を始めている通信業界でも重要な役割を果たすことになるだろう」と強調する。
通信キャリアの課題は、通信接続業者としての売上高はほぼ変化がないにもかかわらず、ユーザー1人当たりの通信トラフィックが増え続け、それらを処理する通信設備への投資コストが指数関数的に増大していることだ。ヴェラユサム氏は「通信接続業者として“土管”の役割を果たしているだけでは将来性がない。だからこそ多くの通信キャリアは、動画コンテンツの提供をはじめとするサービスプロバイダーになろうとしている」と指摘する。
もちろん、この投資コストについても、仮想化技術、SDN(Software-Defined Networking)、帯域の効率化、エッジコンピューティングなどに注力して抑えようとしている。ただし「これら4つの分野全ての取り組みを完璧にやれたとしてコスト効率は2〜3倍にしかならない。これに対して、例えばコネクテッドカーであればデータ通信容量が今後数百倍になるといわれている。何らかのブレークスルーが必要だ」(ヴェラユサム氏)という。
このブレークスルーをもたらすのがGPUコンピューティングだ。注目を集めるディープラーニング(深層学習)をはじめ、HPC(High-Performance Computing)、自動運転、ヘルスケアなど「さまざまな業界で促してきた再発明を通信業界にももたらすことが可能だ」(同氏)とする。
例えば、通信ネットワークの最適化は、現在ルールベース/ポリシーベースで運用されている。これを、ディープラーニングを基にしたアルゴリズムで代替すれば、より効率的な通信の最適化が可能になる。また、ネットワークの仮想化にかかわる複雑な処理をCPUではなくGPUコンピューティングで行えばより高速化できる。ヴェラユサム氏は「5Gはハードウェアからソフトウェアをベースとする技術に移行しようとしている。圧倒的な処理能力を持つGPUコンピューティングは大きく貢献できるだろう」と主張する。
NVIDIAは通信キャリアとさまざまな共同開発プロジェクトを進めている。会見ではベライゾン(Verizon)や、ライス(Rice)大学との取り組みを紹介した。
ベライゾンとは、4Gネットワークの品質向上にディープラーニングを適用するプロジェクト実施した。従来の手法だと、ネットワーク品質にかかわる1つの指標を達成するのに4時間かかっていたが、ディープラーニングを用いることで4分に短縮できた。さらに、より高い精度で指標をクリアできるという効果も得られている。「今後は、通信の不具合の予兆保全にもつなげることを想定している」(ヴェラユサム氏)という。
ライス大学とは、5Gにおける遅延時間の短縮や通信速度の向上について取り組んだ。NVIDIAのディープラーニングサーバ「DGX-1」を用いた場合、CPUベースでの処理と比べて、遅延時間は10分の1以下となる0.864ms、通信速度は10倍弱の995Mbpsを達成した。
ヴェラユサム氏は「GPUコンピューティングのメリットは、通信ネットワークの進化に合わせてそれを最適に運用するためのロジックも進化させられることだ。現在はA+B=Cだったとしても、5年後はそうとは限らないのが通信ネットワークだ。GPUコンピューティングであればそんな変化に対応できる。サービスプロバイダーになろうとしていることを含めて、通信キャリアのGPUコンピューティングの需要は拡大していくはずだ」と述べている。
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