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製造業が変わらなければならない「理由」とスマート工場の実現に必要な「視点」PTC Forum Japan 2017|ヒロテック 講演レポート(1/2 ページ)

IoTは、スマート工場を実現する上で欠かせない要素の1つである。しかし、単に無数のデータをかき集め、それらを見える化するだけではスマート工場の実現どころか、IoTの真の価値を引き出しているとは言い切れない。意味のあるデータを集め、必要な時に、必要な人に、必要な場所に価値ある情報を提供することが、製造業におけるIoT活用の第一歩だ。マツダやGMに自動車部品などを供給するティア1サプライヤーのヒロテックの取り組みを交え、スマート工場を実現する意義や実際の進め方などを詳しく紹介する。

» 2018年01月15日 09時00分 公開
[八木沢篤TechFactory]

スマート工場の現状と未来

 IoT(Internet of Things)を活用した生産設備の稼働状況の見える化や予兆保全といった取り組みに注目が集まる中、その効果を確認すべく、PoC(Proof of Concept:概念検証)を始めている国内製造業も少なくないだろう。IoTは、いわゆるスマート工場を実現する上で欠かせない要素の1つである。しかし、単に無数のデータを集め、それを可視化するだけではスマート工場の実現どころか、IoTの真価を発揮できているとはいえない。意味のあるデータを集め、必要な時に、必要な人に、必要な場所に価値ある情報を提供することが、製造業におけるIoT活用の第一歩である。

 広島に拠点を置き、マツダやGMなど大手自動車メーカーを相手にワールドワイドでビジネスを展開するティア1サプライヤーのヒロテックでは、IoTを活用した製造ラインの見える化を実現し、ダウンタイムの削減や生産効率、品質向上に取り組んでいる。ヒロテックが目指すスマート工場の姿とは? PTCジャパン主催の「PTC Forum Japan 2017」で、ヒロテック 生産技術研究所 情報技術研究室 主任研究員 ジャスティン・へスター氏が登壇。「スマートファクトリーにおける現状と未来」というテーマで、スマート工場を実現する意義や実際の進め方などを、同社の取り組み交えて詳しく紹介した。

photo (出典:へスター氏の講演スライド)

なぜ、製造業は変化しなければならないのか?

ヒロテック 生産技術研究所 情報技術研究室 主任研究員 ジャスティン・へスター氏 ヒロテック 生産技術研究所 情報技術研究室 主任研究員 ジャスティン・へスター氏

 ドイツの「インダストリー4.0」に代表されるよう、国内製造業は今まさに大きな変革の時を迎えようとしている。講演の冒頭、へスター氏は製造業が変化しなければならない理由として、「人手不足」「旧型の設備機器」「ダウンタイムのインパクト」「多様化するユーザーニーズ」を挙げた。

 ここ最近の新卒就職市場は「空前の売り手市場」で、人材確保に悩む企業が増えているという。この傾向は転職市場でも同様で、採用難を実感している企業も多いのではないだろうか。へスター氏は「こうした状況は製造現場の労働力不足を招き、組織やチームの成長の妨げにもつながる。同時に、熟練技術者の高齢化も進んでおり、労働力だけではなく、何よりも大切な知識や経験といったものがどんどん失われていく。これは非常に怖いことだ」とし、労働力が枯渇する中、さらなる成長や改善が求められる現場では、今あるリソースを最大限に活用できる仕組みが求められている点を強調した。

ヒロテックで稼働しているプレス機(1987年に導入) ヒロテックで稼働しているプレス機(1987年に導入) (出典:へスター氏の講演スライド)

 また、前述のリソースの最大化にもつながるが、製造現場のさらなる生産効率化や品質向上をゴールとした場合、データ活用は欠かせない。だが、製造現場では旧型の設備機器も数多く稼働しているため、IoTの実現にとって重要な第一歩であるデータ収集が困難なケースもある。「製造業の世界では、Appleの『iPhone』のように最新モデルが発売されたからといって、1年前に購入したiPhoneを手放して、最新モデルを手に入れるといったことはできない。一度導入した設備機器は数十年と稼働する。ヒロテックでも1987年に設置したプレス機が現役で稼働している。もちろん、導入した当時はIoTでデータを収集するということなど考えていなかったが、今はどうやってこの旧型のプレス機からデータを収集するかを考える必要がある」とへスター氏。

 そして、ダウンタイムがもたらすインパクトについて認識をあらため、これを改善する努力が必要だという。「例えば、旅客機が遅延すると1分当たり7400円の損失に、データセンターがダウンすると1分当たり100万円の損失になるというデータがある。自動車製造業の場合、そのインパクトはさらに大きく、1分間のダウンタイムで250万円の損失を招いてしまう。わずかなダウンタイムがこれだけ大きな損失を生み出す。ダウンタイムをいかにしてゼロに近づけていくか、そうした改善も重要な取り組みの1つである」とへスター氏は説明する。

ダウンタイムが与える損失について ダウンタイムが与える損失について (出典:へスター氏の講演スライド)

 ユーザーニーズの多様化については、スズキの軽自動車「ハスラー」を取り上げ、「スズキは、豊富なカラーとスタイルの組み合わせで多くのバリエーションを実現し、多様化する顧客ニーズに応えている。こうしたカスタマイゼーションの要求が増えていくと、同じ製造ラインで単一のパーツだけを作り続けるということは現実的に難しくなっていくだろう」(へスター氏)という。

多様化するニーズに応えるスズキの軽自動車「ハスラー」 多様化するニーズに応えるスズキの軽自動車「ハスラー」 (出典:へスター氏の講演スライド)

スマート工場の実現に向けて欠かせない「視点」

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