IoTの活用により、取り扱うデータ量は爆発的に増えていく。これらを全てクラウドに転送するのは非現実的であり、多くの製造業が大切データをクラウドで処理することを望んでいない。こうした課題を解決するアプローチが、早期分析/制御の処理をエッジ側で実行する“シフトレフト”の考え方である。
日本ナショナルインスツルメンツ主催の「NIDays 2017」(東京/会期:2017年10月25日)が開催された。本稿では、各種セッションプログラムや展示デモの中から、日本ヒューレット・パッカード(HPE)の講演「IoTに真の価値をもたらすエッジコンピューティング 〜ITと計測システムとの統合事例紹介〜」および関連展示の概要を紹介する。
同講演に登壇した日本ヒューレット・パッカード エンタープライズグループ データーセンター・ハイブリッドクラウド製品統括本部 Edgeline カテゴリマネージャー 北本貴宏氏は「現在HPEでは、『ハイブリッドIT』と『インテリジェントエッジ』の2つの領域に対して取り組みを強化しており、戦略的買収やパートナーシップの拡充を推し進めている。その中で、今回はインテリジェントエッジ側について紹介したい」と話す。
IoTシステムの構築・導入の必要性を感じていても、「どこから始めてよいのか分からない」「収集したデータをどのように活用してよいのか分からない」といった疑問や不安を抱いている企業は多い。そうした状況を打破し、IoTシステムの構築・導入をスムーズに行うためにはどうしたらよいのか? そのヒントを提示する。
冒頭、北本氏は「IoT(Internet of Things)導入の取り組みで最も困難なことはビジネスモデル。つまり、ROI(Return On Investment)である。いかにしてお金を生み出し、投資に見合うだけのリターンを得るか。ここが非常に難しく、皆さんが頭を悩ませているところだと思う。単に『IoTで品質向上を目指します』というだけでは投資を回収することは難しい」と説明する。
そうした中、見事にビジネスモデルの変革を果たした事例として、ドイツのコンプレッサーメーカーKAESER KOMPRESSOREN(ケーザー・コンプレッサー)を紹介。同社は、リモートセンシングを活用して販売した装置のリアルタイムモニタリングを実施し、故障予知を実現することで、装置のダウンタイムを60%削減し、年間数百万ドルの損失を抑えることに成功した。
この段階では装置販売と保守サービスが同社のビジネスであったが、さらにもう一歩踏み込み、リアルタイムモニタリングしているデータをうまく活用することで、コンプレッサーが供給した圧縮空気の量に応じて課金を行うビジネスモデルに発展させたのだ。「例えば、従来は大型の装置(1台)を導入して、必要な圧縮空気を賄う必要があったが、サービス化したことで装置を購入する必要がなくなった。利用者は、小型装置3台から圧縮空気の供給を受けるサービスを利用することで、設備の冗長化を図れ、故障によるリスクやコストの低減が可能となる」(北本氏)。
北本氏は「このようにIoTをうまく活用することでビジネスモデルを大きく変えることができる。KAESERのように、ここまで大きな変革ではないにしろ、どのようにしてリターンを得るかをしっかりと考えて、IoTに取り組む必要がある」と述べる。
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