東洋電機製造は東京大学大学院、日本精工と共同で、電気自動車が走行中に道路からワイヤレスで給電する仕組みを開発し、世界で初めて実車走行に成功したと発表した。インホイールモーターを活用したシステムで、実用化できれば電気自動車の普及課題の1つである“航続距離の短さ”を解決できる可能性がある。
車載用電機機器メーカーの東洋電機製造は、東京大学大学院の研究グループと日本精工との共同研究で、道路に敷設したコイルから電気自動車のインホイールモーターに直接、走行中給電できる「ワイヤレスインホイールモータ2号機」を開発。走行中の車両に対してワイヤレス給電を行うことに成功したと発表した。研究グループによれば、これは世界初の成果だという。
今回の研究結果は、2015年5月に発表した、車体からインホイールモーターへワイヤレス給電する技術をさらに発展させたものだ。道路のコイルから走行中の車のインホイールモーターへ磁界共振結合方式でワイヤレス給電を行った。
以前から検討されている走行中給電技術の多くは、道路のコイルから車載バッテリーへワイヤレス給電するが、同技術では道路のコイルからインホイールモーターに直接給電できるため効率が良くなる。今回は、これを実現するため、インホイールモーターにリチウムイオンキャパシターを内蔵するとともに、高度なエネルギーマネジメント技術を開発した。
自動車のホイール内部に駆動モーターを配置するインホイールモータータイプのEVは、その優れた運動性能により、安全性、環境性、快適性などの多方面でメリットがある。しかし、従来のインホイールモーターは、モーターを駆動する電力を送るため車体とインホイールモーターをワイヤでつなぐ必要があり、このワイヤが断線するリスクがみられた。そこで、2015年5月に同研究グループは「ワイヤが断線する恐れがあるならば、そのワイヤをなくしてしまおう」というコンセプトで、ワイヤレスインホイールモーター(1号機)を開発し、世界で初めて実車走行に成功した。
一方で、EVの普及障壁の1つに、従来のガソリン車などに比べ充電一回での航続距離が短いという点が指摘されている。そこで航続距離を伸ばすため重いバッテリーを自動車に搭載すると、自動車を動かすのに必要なエネルギーが増えてしまう。その課題を解消するため、バッテリーの容量は必要最小限にして、走行中に足りない分のエネルギーを道路に設けたコイルからワイヤレスで送電して補うという「走行中給電」の実現に向けて、世界的に多くの研究が行われている。
従来の走行中給電の研究例の多くは、道路に設けたコイルから車体の底に装着した受電コイルに電力を送り、車載バッテリーへ給電をするものだった。これまでの研究例では、現在市販されているEVと同様の車載モーターを使ったEVを想定しており、これはディファレンシャルギアなどの駆動装置を介するため機械的な伝達ロスが大きく、重量も増えてしまう。
それに比べ、インホイールモーターは発生したトルクを直接駆動力としてタイヤに伝達できるので、伝達ロスを極限まで減らすことが可能だ。また、先行研究で、駆動装置の重量を30〜40%軽くできることが示されている。そこで今回の研究では、道路のコイルから車体のコイルへ給電するのではなく、道路のコイルからインホイールモーターに直接、走行中ワイヤレス給電するというインホイールモーターに適した走行中給電の新しいかたちを提案した。
東洋電機製造は、同研究グループで、SiCを用いた4つのワイヤレス用変換器の開発を担当。また、ワイヤレスインホイールモーターのモーター部分、送電基板、受電基板、地上側からの送電インバータなどといった電機品を開発し、採用されている。
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