蓄電池の寿命が製品選択時の優先要求となる場合は多い。小規模な再生可能エネルギーの蓄電や災害に備えた非常用電源として利用する場合だ。15年以上の寿命をうたい、容量30kWh以上の構成が可能なニッケル水素蓄電池が登場した。
15年以上の長寿命をうたうニッケル水素蓄電池が登場する(図1)*1)。寿命が長く、30キロワット時(kWh)以上の大容量化が可能であるため、再生可能エネルギーに由来する電力を蓄えたり、災害時の非常用電源として使うといったさまざまな用途に向くという。
「2017年2月15日に発表した蓄電池『メガトワイセル』*2)は長寿命、大容量を特徴とする。顧客の反応を見ながら設備投資の規模を決め、2018年度に量産を開始する」(FDK)。
*1) 期待寿命が15年間となる条件は以下の通り。室温下で1日1回、1500Whの放電を行った場合。
*2) 2017年3月1日〜3日に東京ビッグサイトで開催される「国際二次電池展」、同5月10日〜12日に同地で開催される「データストレージEXPO」に開発品を展示する。
「当社は円筒形の小型ニッケル水素蓄電池を長年開発・販売してきた。円筒形セルを用いて大容量化しようとすると、端子接続が増えて電圧が低下する他、筐体にも課題が残り、コスト高になる。そこで川崎重工業の協力*3)を得て、角形セルを組み合わせた大容量モジュールを開発した」(FDK)。
開発したメガトワイセルは電圧の違いによって3種類に分かれる(図2)。最小の「HM-25K-12」は電圧12ボルト(V)、容量3kWh。角形セルを10個用いた。この他、6kWhと9kWhのモジュールがある。
*3) メガトワイセルは共同開発品ではなく、FDKの開発品。川崎重工業は電圧36V、容量5.4kWhのニッケル水素蓄電池モジュール「ギガセル」を製品化している。
15年という長寿命を実現できたのは、電池内部の負極材料を工夫した結果だ。
ニッケル水素蓄電池は、正極にニッケル酸化物(水酸化ニッケルとオキシ水酸化ニッケル)、負極に水素吸蔵合金、電解液に水酸化カリウムを用いる。「負極材として利用している当社の合金は超格子構造*4)を作り込んでいる。今回は材料の配合と製造法を変えることで、超格子構造を備えた合金を高耐久化した」(FDK)。
寿命を延ばした他、寿命予測技術を組み込むことで、電池交換のメンテナンス費用や保守費用も削減できるという。「当社はニッケル水素蓄電池が登場して以来、約20年のデータを蓄積してきた。さまざまな条件下で部材ごとの劣化の進み方を把握している。そこで、実際の蓄電池の温度*5)や充放電条件、回数に基づいて、現在以降、何回充放電が可能なのかを個別に算出できる」(FDK)。これが寿命予測技術の内容だ*6)。
*4) 複数の結晶格子を同一の合金内部に重ね合わせたもの。結晶の周期が、単独の金属の結晶よりも長くなる。
*5) 従来の円筒形セル同様、−20℃〜80℃で充放電が可能
*6) 顧客の要望に応じて、バッテリー状態を目視できるLED点灯機能やLAN接続を経由した遠隔監視、スケジュール運転が可能だという。
ニッケル水素蓄電池は、電解液に水系の物質を利用するため、他から炎を受けても燃え広がりにくい性質を備える(類焼性が低い)。これが、災害発生時の蓄電池に向くと主張する理由だ。
大量導入時の課題も少ない。「円筒形セルについては電極に用いるニッケルやコバルト、希土類を分離、再利用するリサイクルフローが確立している。今回の蓄電池ではモジュールに溶接構造を用いていないため、従来のフローをそのまま利用してリサイクルできる」(FDK)。
【加筆情報】 記事公開後、注1を追加しました(2017年2月16日)
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