米国テキサス州で建設中の「超臨界CO2サイクル火力発電システム」の実証運転が2017年に始まる。東芝と米国の3社が共同で開発を進めているシステムで、発電時に排出するCO2を循環させて高効率に発電できる世界初の技術を実装する。東芝は中核の発電機の製造を完了して米国に出荷した。
化石燃料の産業復興を目指すドナルド・トランプ氏が米国の大統領に就任しても、火力発電に伴うCO2(二酸化炭素)の排出量を削減する取り組みの重要性は変わらない。米国の石油・天然ガス産業の中心地テキサス州で、CO2を100%回収できる火力発電プラントの建設計画が着々と進んでいる。
「超臨界CO2サイクル火力発電システム」と呼ぶ最先端の発電技術を世界で初めて運転させる計画だ。開発メンバーは東芝のほか、米国最大の電力・ガス会社であるエクセロン(Exelon)、大手プラント建設会社のCB&I(Chicago Bridge & Iron)、超臨界CO2サイクル火力発電の技術を開発したベンチャー企業のネットパワー(NET Power)の4社である。このうち東芝はシステムの中核になる発電機と燃焼器の開発・製造を担当する。
4社は2017年内にパイロットプラントを完成させて実証運転を開始する予定だ。東芝は発電能力が25MW(メガワット)のタービン発電機の製造を完了して、米国に向けて11月1日に出荷した(図1)。この発電機を使った実証運転の結果をもとに、商用レベルの250MW(25万キロワット)級の火力発電システムを開発することが次の目標である。
超臨界CO2サイクル火力発電システムは燃料のガス(天然ガスか石炭ガス)と酸素を燃焼させてタービン発電機で発電する。この点は従来のガス火力発電と同様だが、発電に伴う排気ガスを冷却してCO2と水に分離することができる。さらにCO2を高圧の状態で回収して燃焼器に送り、ガスや酸素とともに燃焼させて発電に利用する仕組みだ。
東芝によると、現在のガス火力発電で主流になっているガスタービンと蒸気タービンを組み合わせたコンバインドサイクル方式(ガスタービン複合発電)と同等の高い発電効率になる。コンバインドサイクルと比べて1つのタービンで発電機を構成できるため、プラント全体の規模が小さくなって発電コストを低減できるメリットがある(図3)。しかもCO2を分離・回収する設備が不要になる。
CO2は温度が31℃以上、圧力が74気圧(7.4メガパスカル)以上になると、気体と液体の中間的な性質を示す超臨界と呼ぶ状態になる。超臨界CO2サイクル火力発電システムでは、30メガパスカルの高圧の状態でCO2を回収できる。
超臨界状態のCO2は温度と圧力を変化させると、気体のような拡散性と液体のような溶解性を発揮する。拡散性によって燃料のガスと一緒に燃焼させることや、溶解性を生かして他の物質に吸着して回収することも可能だ。
日本政府は火力発電に伴うCO2排出量を削減するために、次世代の火力発電技術の開発促進に力を入れている。2030年をめどに石炭火力で約3割、ガス火力で約2割の削減が可能な発電技術を実用化する計画だ。
それでも大量のCO2を排出することから、CO2を分離・回収する技術の開発を並行して進めている。最大の課題は分離・回収にかかるコストを低減させることで、2030年までに現在と比べて4分の1程度まで引き下げることを目指している。
2030年の時点で実用化できる最先端の火力発電技術とCO2分離・回収技術を組み合わせた場合に、100万キロワット級の発電設備でCO2分離・回収コストは年間に50億円程度になる見通しだ。発電事業者にとっては次世代の火力発電によって燃料費を削減できるメリットがある一方で、CO2を分離・回収するコストは小さくない。
そうなるとCO2を100%回収できる超臨界CO2サイクル火力発電システムは有望だ。政府が策定した次世代の火力発電のロードマップには、今のところ超臨界CO2サイクル火力発電は盛り込まれていない。テキサス州の実証運転の結果によっては、2030年に向けた有力な火力発電技術の1つになる。
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