大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
SonicBOOM/SiemensがUltraSoC買収/Intel去るJim Keller氏の次は?(3/3 ページ)
Intel Jim Keller氏の次は?
6月11日、IntelがJim Keller氏の辞職を報じた。Jim Keller氏の職歴は、IntelのこちらのPDF(図4)がまとまっていて分かりやすい。
DECを皮切りにAMD(K7/K8)→SiByte(SB1)→P.A.Semi(PA6T)→Apple(A4/A5)→AMD(Zen)→Tesla(HW3)→Intel(Cove Series)と、新アーキテクチャをいくつか作っては次に移るという、「流しのCTO」(©岡本伸一)みたいな人である。こちらの記事でもJim Kellerの人となりが説明されているが、天才かどうかはともかくとして、それなりに実績を残してきた人であることは間違いない。余談ながらSiByteのSB1は、MIPS64ベースの独自コアであり、これを搭載したSB1250というSoCは、1GHz駆動のSB1コア×2と3つのGbEポート、さらにPCIやLDT(HyperTransport Link)を搭載しながら、TSMCの0.15μmプロセスで消費電力10W未満という、当時としては恐ろしく高性能・低消費電力なSoCだった。これを2000年のMicroProcessor Forumで発表したのは、Corporate Fellowの肩書だったKeller氏である。
そのKeller氏、2005年にはPA6Tの発表をやはりMicroProcessor Forumで行っている。こちらはPowerPCベースのSuperScalar/Out-of-Order CPUで、2GHz駆動のコア×2に4MB L2、PCI Express/GbE/10GbEなどを全部集積したSoC4つで50W以下の消費電力になると説明された。コア当たりの性能はSPECintで1000以上、SPECfpで2000以上という恐ろしく高い性能である。この性能の高さと省電力性を買われて、P.A.SemiそのものがAppleに買収され、そのままApple A4/A5の開発に携わる事になった、という訳だ。AMDのK7/K8とかZenについては言うまでもない。IntelではSunny Cove/Willow Cove/Golden Coveという3つのCPUアーキテクチャを策定し、これを2021年末までにリリースすることを2018年末に説明している(図5)。
現時点ではIce LakeとLakefieldがこのSunny Coveのアーキテクチャを採用した製品であり、Willow Cove以降はまだ登場していない。ただ氏がU.C.Berkeleyで2019年9月に行った講演の中で、次の世代(恐らくGolden Cove)では大幅に性能を引き上げる、と説明を行っていた。
そんな訳でIntelの立て直しに奔走していたはずの氏が離職するというのは
- Intelでやるべきことをやってしまったので、次のチャレンジに移る
- Intelでやるべきことができそうにないので、次のチャレンジに移る
のどちらかと思われる。後者の可能性はそう高くはない(あるとすれば10nmに続く7nmプロセスが何か壊滅的な状況に陥って、Willow Cove/Golden Coveを出荷できそうにない、という事態ぐらいしか考えられないが、一応今のところIntelの7nmプロセスはOn Trackとみられている)から、あるとすれば前者である。そもそも図4を見ても、例えば最初のAMDの在籍は1年だけだし、Teslaも2年だけである。やるべきことをやり終えると、次のチャレンジを目指して居場所を変えるのがKeller氏の流儀のようで、しかもKeller氏クラスの人材となれば、どこでもWelcomeであろうから、次のチャレンジに向けてIntelを離職するという考え方が妥当かと思う。
ではどこか? 下馬評では、Appleという見方が強い。実際Appleは今後2年掛けてIntelからArmにアーキテクチャを移す必要がある。薄型ノートであれば、iPadなどとそれほど電力/放熱状況が変わらないから、iPad向けのA12X/A12Zとかでもそれなりに使えるだろうが、iMacとかMacPro向けは全く異なる動作条件になるだろうし、現状のAppleのCPUは、性能/消費電力比はともかくとして、絶対性能という意味では現在のXeonとかには遠く及ばない。ここに向けて新しいチャレンジが必要なのは間違いないから、そうしたニーズに応えるという可能性はある。
対抗馬はArm本体である。Armは今後、真剣にServer Market向けのCPUを必要とするが、現状はまだMobile向けのCPUに若干の増強を施した程度でしかない。Neoverse向けの設計は、恐らく氏が得意とするところと思われる。
大穴はMIPSだろう。MIPSを買収したWave Computingは、ご紹介した通り、瀕死の状態にある。ここで一発逆転、というのは全くあり得ない訳ではないが、可能性は相当低いので大穴扱いとさせていただいた。
先のIntelのリリースによれば、氏は「個人的な理由」でIntelを6月11日付で退職したが、その後6カ月は引き継ぎのためにコンサルタントとして引き続きIntelと協力するとある。これは要するにガーデニング休暇(F1などでよく使われる言い方で、要職にある人間が辞職の際、最新の機密情報の漏えいなどの防止のために一定期間他社への転職を制限するというもの。この期間は元の会社から給与が支払われるが、別にやる事はないので、庭いじりでもするしかない、というところからこう呼ばれる)と考えられる。さて、年末にKeller氏を獲得するのはどこの会社であろうか?
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これを読めばここ1カ月のエレクトロニクス/組み込み業界の動きが分かる連載。注目すべき市場動向と注目すべき製品を取り上げます。
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