大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
車載向けで進む28nmプロセス採用――ルネサス、STマイクロを追従するカギはNVM(1/2 ページ)
エレクトロニクス/組み込み業界の動向をウォッチする連載。今回は、2019年2月の業界動向の振り返りとして、ドイツ・ニュルンベルクで開催された「embedded world 2019」に絡めて“MCUの話題”を2つ紹介する。
2019年2月の業界動向の振り返りとして、ドイツ・ニュルンベルクで開催された「embedded world 2019」(会期:2019年2月26~28日)に絡めて、“MCU(Micro Control Unit)の話題”を2つ紹介したい。
28nm MCUを巡る潮流
まずは28nmへの移行の話である。もともとMCUなどの28nmへの移行は“既定路線”であった。少し前だと、先端プロセスを使う製品(CPU/GPUなど)が14/16nmのFinFETを、普及帯のアプリケーションプロセッサが28nmを、そしてMCUやディスクリートがそれ以下(180~40nm)のプロセスを使うというすみ分けがなされていた。
ところが、昨今では先端プロセスが7nmに移行し、普及帯が16/14nmを低価格化した12nmプロセス(プロセスジオメトリ的には14/16nmとほとんど変わらないが、若干の低価格化とセルライブラリの小型化によって、相対的に安価に製造できる代わりに、利用可能な動作周波数の上限はやや下がる)を使うようになったことで、28nmへの需要が弱まってきた。ここを“MCUなどが埋める”と想定されていたのだが、移行が遅くなったのは、主にNVM(Non-volatile memory:不揮発性メモリ)に絡む問題に起因する。
特にMCU向けとして利用する場合、大容量のNVMを同じプロセスで製造できることは、コストの側面から“絶対に必須”である。これがSRAMやOTPであれば、CMOSプロセスで割と簡単に製造できるのだが、NVMの混載はかなり難しい。もちろん、これまでこの困難さを克服することで微細化が進んだわけだが、当然ながらタイムラグは発生する。
図1は、TSMCの2017年10月におけるポートフォリオである。ロジックは既に7nmまで利用可能(※1)で、5nmの開発に入っているというのに、Embedded NVMは40nmプロセスまでが利用可能で、28nmはまだ開発中となっている。世代にして5世代ほど遅れていたわけだ。これはTSMCだけの話ではなく、他のファウンダリでも同じ状況である。
※1:ここで記されている“Available”とは、「顧客がそのプロセスを利用した製品の設計をスタートできる」という意味であり、この時点で“量産が始められている”という意味ではない。
この状況に先鞭(せんべん)をつけたのはルネサス エレクトロニクス(以下、ルネサス)で、2018年3月に28nmプロセスを採用した初の車載向けMCU「RH850/E2シリーズ」を発表。2019年2月25日には、これにハードウェア仮想化を組み合わせた「RH850/U2A」を発表している。利用するのはTSMCの28nmプロセスで、最大16MBのFlashを実装するという点は両シリーズ共通である。
これまでは、ルネサスのみが28nm向け製品を提供してきたわけだが、2019年2月21日にSTマイクロエレクトロニクス(以下、STマイクロ)が、「Arm Cortex-R52」を複数(初期サンプルは6個)と「Arm Cortex-M4」を3つ搭載する「Stellarファミリー」を発表した。こちらは、STマイクロ自身の28nm FD-SOIプロセスに、やはり自社開発のPCM(Phase-Change Memory:相変化メモリ)を組み合わせた構成で、最大40MB(初期サンプルは16MB)の容量を誇る。どちらの製品も自動車のEUC向けとなるMCUで、Lock Step動作をサポートする構成は同じだ。
こうした大容量のNVMを搭載する28nmプロセスを利用した製品が、まず自動車向けで登場したのは別に偶然ではない。もともと自動車関連でいえば、従来だと機械制御で行っていた部分をどんどん電子化している関係で、これまで以上にECUが増えている。ところが、何も考えずにECUの数を増加させていくと、故障の原因が増えることにもつながり、設置場所にも困ってしまう。また、何よりコストも上昇してしまう。
このため、ECUの数を増やさずに機能を引き上げる、という方向にシフトしつつある。要するにマルチコアのMCUを用意し、それぞれをハイパーバイザーなどで分離して安全性を確保することで、複数の機能を1つのMCUで処理しようというものだ。STマイクロにしても、ルネサスにしても、これに沿った形での製品展開である。
こうなるとプロセスに求められるものは、まず“大容量のNVM”ということになる。
昨今のECUに求められる機能は非常に多く、機能安全の実装などによりプログラムのサイズも大規模化しつつある。少し前だと「1コア当たり1MB程度あれば済む」という話だったのが、最近は「2MBでもギリギリ」なんて話すら聞く。
StellarファミリーもRH850/U2AもLock Step動作をサポートしているので、全コアをLock Stepで動作させれば見掛け上2コアないし3コア相当だから、NVMは4MBないし6MBあれば済む計算だが、Lock Stepを利用しないモードで使う場合には倍の8MBないし12MBが必要である。これに加えて最近の車載向けの場合、OTAアップデートが必須になりつつあるので、稼働用とアップデート用で倍のサイズが必要である。
となると「16MBないし24MBが必要」という計算になる。プログラミング格納および稼働用のNVMは、最近のSSDで利用されているNAND Flashとは異なり、ランダムアクセス性能が必要になることから、どうしても“密度は低め=必要なサイズを格納するためのダイサイズが大きめ”となり、これはコスト増加にそのまま反映される。これを解決するためにも、プロセスを微細化することは必須だったといえる。
同様に、コアの数をさらに増やしたいというニーズは強く、ダイサイズを抑えつつこれを実現するためには、やはりプロセスの微細化が効くことになる。こうしたニーズは特に車載向けで顕著ということもあり、先陣を切って車載向けMCUが28nmを使い始めたというわけだ。
ところで、今回はルネサスとSTマイクロのみだが、他社は? というといずれは出てくるだろうが、もう少し時間はかかるだろう。理由はNVMそのものにある。
まず、ルネサスのパートナーであるTSMC。そもそもTSMCの40nm/28nmのEmbedded Flashの技術はルネサスとの共同開発である。だからこそ、ルネサスは一早くこれを市場に投入できたわけで、逆にTSMCを利用する他の車載MCUを製造するベンダーはいまだに40nm台にとどまっているわけだ。いずれTSMCもこの28nmのEmbedded Flashをルネサス以外にも利用できるようにすると思われるが、それはルネサスが十分に“先行者利益”を享受した後のタイミングになるだろう。
一方のSTマイクロであるが、同社はPCMを以前からずっと開発しており、2018年12月にはIEDM(International Electron Devices Meeting)において、車載向けに利用可能なePCM(embedded Phase-Change Memory)の詳細を発表しているが、今のところSTマイクロはこれを他社にライセンスするといった話をしておらず、このまま“STマイクロの独占的な技術”になりそうだ。
もちろん、28nm FD-SOIの技術をSamsung Electronics(以下、Samsung)にライセンス供与しているので、SamsungがこのPCMのライセンスを受ける可能性もあるが、SamsungはむしろMRAMの方向に目が向いており、28FDSでPCMを提供する可能性はそれほど高くないように思われる。Samsungはまた、Foundry Businessも行っているので、他のベンダーがこれを利用して製品を製造することも不可能ではないが、その場合はStellaシリーズと深刻な競合状態に陥ることになるだろう。
これに追従する可能性があるのはUMC(United Microelectronics Corporation)であろうか? こちらはCypress Semiconductor(以下、Cypress)と共同で、やはり28nmのEmbedded Flashを開発しているからだ。ただ、UMCは2019年の1月にやっと40nmの量産がスタートしたばかりなので、28nmの実現にはまだ少々時間がかかると思われる。
GLOBALFOUNDRIESは28nm世代に関して、SIP(System In Package)方式のみの提供となっており、むしろ22FDX/12FDXにMRAMという方向性を打ち立てているので、車載向けはこちらでキャッチアップという感じだろうか。要するに28nm世代では、ルネサス、STマイクロ以外の半導体ベンダーは当面ソリューションを出せない、という状況になっている。
とはいえ、STマイクロという競合が出てきたことで、TSMCの方針に何らかの変化が出てくる可能性は否定できない。2019年中に、というのは考えにくいが2020年にはこのあたりの動向が変わり、多くのメーカーが一斉に車載向けMCUを28nmで製造し始める可能性も出てきたように思われる。
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これを読めばここ1カ月のエレクトロニクス/組み込み業界の動きが分かる連載。注目すべき市場動向と注目すべき製品を取り上げます。
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