IoTセキュリティの現実的な仕組みと課題(2)
「脅威」や「リスク」を想定することが、IIoTセキュリティの第一歩(3/3 ページ)
「IIoT」のセキュリティ、何が必要か?
さて、IIoTあるいはインダストリー4.0などをベースにした産業用システムにとって、どのようなセキュリティが必要だろうか。それには、どのような脅威やリスクが存在し、それらに対処しなかった場合の被害を想定することから始める必要がある。
まず、“Industry”の部分に注目して自動化がほとんど行われていない自転車工場と、自動化されたマイクロ水力発電所とでそれぞれ分析してみることにしよう。というのは、インターネットなどの外部ネットワークとの接続がある場合には、切り分けて脅威分析をすればよいからである。
ケース1:自転車工場における脅威分析
どこに脅威が存在するかについてシステムの要素(設備)を抽出し、「X」を記した項目に脅威が存在するとして表にまとめてみる。
| エンティティおよびチャネル | なりすまし | データの改ざん | 情報漏えい | サービス妨害 | 権限の昇格 |
|---|---|---|---|---|---|
| 従業員 | X | X | X | X | X |
| アーク溶接機 | ― | X | ― | X | ― |
| 静電塗装機(PLC制御) | ― | X | ― | X | ― |
| 乾燥機(PLC制御) | ― | X | ― | X | ― |
| ツヤ出し塗装機(PLC制御) | ― | X | ― | X | ― |
| ハンドル加工機(PLC制御) | ― | X | ― | X | ― |
| ラグ鋳造機(PLC制御) | ― | X | ― | X | ― |
| ハンドル研磨機(PLC制御) | ― | X | ― | X | ― |
| スポーク通し機(PLC制御) | ― | X | ― | X | ― |
| ホイール組み立て機(PLC制御) | ― | X | ― | X | ― |
| ホイール自動振取機(PLC制御) | ― | X | ― | X | ― |
| 加工機メーカーの保守員 | X | X | X | X | ― |
| 表1 自転車工場 | |||||
自転車工場を表1にまとめて見たが、登場する設備はそれぞれ単体で動作しているものとし、設備の制御はアーク溶接機を除いて組み込まれたPLC(Programmable Logic Controller)単体で行っていると想定した。
表1の通り、それぞれの加工機械(静電塗装機からホイール自動振れ取り機までの9種類)でリスクが存在する。これらは加工機メーカーの保守員あるいは従業員が加工機を調整する際、PLCプログラムを改ざんすることによって起こり得る加工データそのものの改ざんや製品品質の低下、あるいは加工機の動作不良(異常や停止など)によるサービス妨害が考えられる。
となれば、実施すべき主な対策は以下となる。
1.アクセス管理
アクセス管理をすることで、問題発生時に「誰が加工機にアクセスしたか」が特定可能となり、サイバーセキュリティ上の問題を含め、何らかの不具合が発生した際の原因究明に役立つ情報を整理できる。また、「適切なアクセス権の管理」が行われることで、制御盤の扉を開けることができる保守員を指定することもでき、不用意な事故を防ぐことが可能となる。カスペルスキーの調査によると、サイバーインシデントの27%は「作業員の人為的ミス」によるものだという結果が示されている。
2.PLCのプログラムが変更されたことを通知
加工機がネットワーク化されておらず、加工機ごとに作業員が配備されて加工を行っているとすると、「PLCのプログラムが改ざんされたこと」の通知は、当然ながら改ざんしたかもしれない作業員にではなく、保全やセキュリティの担当者に通知しなければならない。
しかし、加工の仕上がりを目視などで作業員が確認できれば、品質低下などの問題はすぐに確認できるはずで、その異変に気付ければ、PLCプログラムの改ざんや操作ミス、機械の損耗などを速やかに見つけることができると思われる。つまり、サイバー攻撃や人為的な改ざんが仮に発生したとしても、そのリスクや原因は想定しやすく、加工機の挙動がおかしくなる程度であれば従業員がケガをする危険性はあるものの、比較的回避しやすいものと考えられる。
ケース2:マイクロ水力発電所における脅威分析
次にマイクロ水力発電所だが、これは浄水場からの流水を調整するバルブ群と貯水槽のセンサーによって構成されており、PLCによって自動制御され、インターネットなどとは接続されていないものとする。バルブの数などは厳密に図版を反映していないが、システムの脅威をどのように評価するかという点に注目していただきたい。
| エンティティおよびチャネル | なりすまし | データの改ざん | 情報漏えい | サービス妨害 | 権限の昇格 |
|---|---|---|---|---|---|
| PLC | ― | X | ― | X | ― |
| 水位センサー(貯水槽) | ― | X | ― | X | ― |
| 発電機 | ― | ― | ― | X | ― |
| 流入バルブ | ― | X | ― | X | ― |
| 貯水バルブ | ― | X | ― | X | ― |
| 保守員 | X | X | X | X | ― |
| 表2 マイクロ水力発電所 | |||||
この発電所は無人で自動運転という想定であるので、自転車工場に登場する「従業員」という現場で作業する人間はいない。一方、定期(あるいは不定期)に設備の保全のため、保守員が点検に訪れるということを想定する。こちらも同様に取り得る対策は限定されることになる。
1.アクセス管理
「いつ誰が設備にアクセスしたのか」が分かることで、問題が発生した理由を追跡しやすくなる。また「適切なアクセス権の管理」が行われることで、制御盤の扉を開けることができる保守員を指定することもでき、不用意な事故を防ぐことが可能になる。これらは先に述べた通りである。
2.PLCのプログラムが変更されたことを通知
外部との通信ができないとなると、「PLCのプログラムが改ざんされたこと」を通知したくてもできないという問題が発生する。ということは、障害などを通知する仕組みは制御系とは別に用意する必要があるということになる。不正なアクセスや機器の故障があった場合にも通知を行うことが可能となる。
ちなみに、脅威やリスクの想定をどのように見誤ったのか、映画ネタで考察しているものをカスペルスキーがブログで公開しているのでぜひご覧いただきたい。題材は『Rogue One(邦題:ローグワン)』であるが、ブログの著者であるAndrey Nikishin氏はロンドン在住のロシア人で、MBAを持ち、制御システムを中心としたコンピュータシステムの開発者でもある筆者の良き友人である。 (次回に続く)
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IoTセキュリティの現実的な仕組みと課題
デジタル(サイバー)世界と現実世界を橋渡しする「IoT(Internet of Things)」の仕組み。その可能性や利便性についての話題は尽きないが、IoTのセキュリティリスクに関してもしっかりと情報収集し、対策を講じるべきである。本連載では、工場や重要インフラで利用されつつある「インダストリアルIoT(IIoT)」の世界に着目し、IoTセキュリティの現実的な仕組みと課題について解説する。
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