4.0RU
「ロシア版インダストリー4.0」こと「4.0RU」とは何か
ドイツ「Industry 4.0」を筆頭にアメリカ「Manufacturing USA」、中国「中国製造2025」、そして日本でも「Society 5.0」が推進されている。そこに続こうとしている国の1つがロシアだ。「4.0RU」と名付けられた取り組みを紹介する。
スマートファクトリーやつながる工場、IIoTなど表現こそさまざまであるが、製造業の“つながること”と“デジタル化”は世界各国で取り組みが進められている。ドイツの「Industry 4.0」を筆頭にアメリカの「Manufacturing USA」、中国の「中国製造2025」、日本でも「Society 5.0」が推進されている。
そこに続こうとしている国の1つがロシアだ。「4.0RU」と名付けられた取り組みは「ロシア版インダストリー4.0」とも呼べるものであり、2017年12月に本格的な動きを開始している。ロシア政府も力を入れるこの取り組みについて、話を聞く機会を得た。
「4.0RU」は4つのステージで構成される
この耳慣れない「4.0RU」という言葉が登場したのは、2017年7月に行われたロシア最大級の産業総合博覧会「INNOPROM(イノプロム)」だ。ロシア経済貿易省から中型旅客機の製造開発プロセスを例にプレゼンテーションされ、プレスリリースも出されている。
4.0RUの目的について、参加企業の1つであるKasperskyのAndrey Suvorov氏は「ロシアにおける、工業生産全ての段階へのデジタル技術導入だ」と述べる。「ITの進化でこれまで所有するものだった自動車に、Uberのようなシェアリングモデルが登場して定着している。このような発想の転換が、製造業や産業界に持ち込まれる時期に来ていると考えている」(Suvorov氏)
2011年にドイツ政府から国家施策の1つとして示されたインダストリー4.0を端的に表現するならば「サイバーフィジカルの考えに基づく、高い競争力を持った生産施策方針」であり、電気とITによるファクトリーオートメーションを実現した第三次産業革命の次を担う考え方として、冒頭で取り上げたよう各国へ大きな影響を与えた。
ロシアが推進する4.0RUの考え方は、INNOPROMでロシアとドイツの両政府が言及したことからも創造できるよう「ロシア版インダストリー4.0」とも呼べるものであり、サイバー側の軸になるデジタルプラットフォームの提供をSIEMENSが行うことからもそれは裏付けられる。なお、2017年12月時点における4.0RUの参加者はロシア政府(産業貿易省)、SIEMENS(デジタルプラットフォーム提供)、STAN(工作機械)、ITALMA(物流)、Kaspersky(セキュリティ)となっている。
4.0RUは4段階のステージが設定されている。第1段階はデジタル環境下における開発設計、第2段階は設計データのデジタル化である。具体的な流れで言えば、3D CADによる製品設計とCAEなどによる解析、CNCなど工作機械での生産を前提としたデータ変換や送信がこの段階に相当する。
第3段階はオンラインの入札プラットフォームだ。デジタル環境下で開発設計が完了した後に、どこの生産拠点で生産するかを決める。4.0RUにおいては工作機械も既にネットワークによってつながっており、生産に要する時間やコストなどはこの時点で既に可視化されている。そして第4段階は実際の生産段階となる。
類似する取り組みにおいてオンライン入札プラットフォームは珍しいとはいえ、CADやCAEなどを活用したデジタル設計開発は一般化しており、生産シミュレーションも同様だ。Suvorov氏は「それぞれはこれまでも存在していたが、設計や入札、物流といった生産に関するさまざまな要素をまとめて把握して動かすことが、4.0RUの特徴だ。これは工作機械の情報をリアルタイムで取得することで可能となった」と語る。
諸外国に比べて取り組みが遅くなったことについては、セキュリティ上の問題解決に時間を要したためと語る。「現場の工作機械や流通するデータを完全に守れると言い切る自信がなければ、この取り組みは成立しなかった。今回対象となるのはPCやサーバだけではないが、脅威モデルを想定して脆弱性を診断し、防御するというやり方についてはKasperskyのこれまでの経験が生きている」(Suvorov氏)
ロシアで2017年7月に行われた航空ショー「MAKS-2017」では、中型旅客機の製造に必要な部品を4.0RUの流れに沿って設計開発、生産する様子が紹介されており、同時にマルウェアが製造ラインに混入した際の対応についても紹介されている。後発であるがゆえ、製造業IoTにどのような脅威が存在するかの分析も進んでいることがうかがえる。
単なる現場改革ではなく、「サイバーフィジカル」や「製造業IoT」「製造業のデジタル化」という文脈で論を進める際、「デジタルなのだからつながることは容易だろう」と考えてしまうのは危険だ。部材の流通や工作機械を使っての加工など、物理工程が存在する以上どこかに物理的な制約は発生する。
生産における“つながること”が、インターネットのような世界規模の単1グループではなく、ドイツやアメリカ、中国、日本、そしてロシアといったように地理的なグルーピングに収束しつつあることは、流通や加工といった物理的な制約に端を発するからだ。これまでは大企業がその規模を生かして世界的なネットワークを構築してきたが、これからはインダストリー4.0や4.0RUのように、国家戦略の1つとして地理条件を上手に活用した取り組みが注目されている。
加えて言えば、デジタルでつながることのリスクも軽視すべきではない。マルウェア「WannaCry」の被害は記憶に新しいが、「Stuxnet」や「Industroyer」そして「TRITON」と産業制御システム(ICS)を狙う脅威は次々と登場しており、それは操業停止による経済的被害はもちろんのこと、組織犯罪として実行される恐れすら増大している。
ただ、裏返せばICSに関するセキュリティが充実すれば、インダストリー4.0や4.0RU、Society 5.0のような新たな取り組みが、国家や地域の経済振興につながることにもなる。Suvorov氏は「サイバーセキュリティが産業界のビジネスを加速させる」とセキュリティが製造業の成長に欠かせない存在であると主張するが、セキュリティ=守りの手段、ではなく、新たな取り組みに挑む製造業においては、セキュリティ=成長するための要素という認識が必要になりそうだ。
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