大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
AtmelとMicrochipに見る、半導体企業M&Aの難しさ(1/4 ページ)
2016年春、安定経営といわれていたAtmelがMicrochipに買収された。買収に至る背景と経緯と、同種企業の統合の困難さについて触れてみたい。
2016年4月、Microchip TechnologyはAtmel Corporationを買収した。
ちょっと簡単に経緯を紹介すると、そもそもAtmel Corporationの買収が報じられたのは2015年5月までさかのぼる。当時、Atmelを率いていたSteven Laub氏の引退が公式に発表されたのがきっかけだ(Atmel:Atmel Chief Executive Officer Steven Laub to Retire)。
Laub氏は当時56歳だから、引退にはちょっと早いように思える。とはいえ、もう10年以上同社のCEOを勤めてきており、そろそろ交代しても不思議ではない時期でもある。引退を伝えるプレスリリースの末尾には、ごく一般的に「The board of directors will conduct the process to choose Laub’s successor and will consider internal and external candidates for the position.」(取締役会はLaub氏の後継者の選定作業に入る予定で、候補者は社内と社外の両方で検討する)とあり、少なくともこの時点ではAtmel自身の身売りという話にはなっていなかったと考えていい。
ところがその翌月になって「Atmelが身売り」という話が出てきたことで、にわかに騒がしくなる(EE Times Japan:Atmelが売却を検討か)。周囲からは、経営は安定しており身売りする必要は無いと思われていたからだ。
表面化しつつあったAtmelの苦境
ただ、決算報告書の数字を見てみると、また別の感想を抱かざるを得ない。
まずグラフ1が2007年度~2015年度の損益をまとめたみたものだが、2010~2011年あたりを除くと売り上げはそこそこ(12~15億ドル)程度出ているものの、損益(当期純利益)は低空飛行というか、あまり褒められた数字ではない。そして部門別売り上げ(グラフ2)を見ると、2010年以降はMicroController部門が突出というか、他が見事なほどに右肩下がりになっているのが分かる。何が起きたかは明らかだ。
もともとAtmelは8bit向けに8051ベースのMCUを広く製造していたが、1996年にNTH(Norwegian Institute of Technology:ノルウェー工科大)の2人の学生が開発したAVR MCUを採用、これを全面的に売り出していた。このAVRはArudinoに採用されたことなども相まって急速に普及する。この結果、8bit MCUのマーケットではMicrochipを急速に追撃するほどの売り上げを達成している。
ただ2000年台も後半に入ると、32bit MCUへのニーズが急速に高まっていった。これに向けてAtmelはAVR32という独自アーキテクチャ(8bitのAVRとも互換性が皆無)の製品を2008年に大々的に発表したものの、これはあえなく失敗する。ただAtmelはこのAVR32以前に、ARM7TDMIやARM9ベースのMCUをずっとリリースしており(ARM7TDMIベースのAT91M40800は1998年にリリースされている)、こちらは大々的に成功とは言わないまでもは続いていた。
それもあってか、Atmelは2008年にARMからCortex-Mのライセンスを受け、2009年にSAM3(Cortex-M3ベース)シリーズの製品を投入、そこから急速にラインアップを拡大し、Cortex-M4ベースのSAM4シリーズも2011年に投入される。グラフ1と2で2010年に急速に売り上げが伸びたものは、主にこのSAMシリーズによるものである。
ただしCortex-MベースのMCUは別にAtmelだけが販売しているわけではないから、売り上げが伸び続ける訳ではない。グラフ2で言えば、10億ドルあたりが1つの壁になっていたようで、これ以上売り上げを伸ばすには何か別のアイデアが必要という感じになっている。普通だと他分野の売り上げを強化、というところだが、グラフ2から分かる通りその他の分野も右肩下がりを描いており、要するに「じり貧」というのが2015年におけるAtmelの状況だったわけだ。
Laub氏としては、「この状況を打開するのはしんどい」というあたりが心境だったのではないかと思うし、かといって誰か他の人を連れてきても、この状況を打開するのはなかなか難易度が高そうだ。取締役会が売却を考えるのも無理ないところである。
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