大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
Appleの通告は「MIPSの終わり」の始まりか(3/3 ページ)
ImaginationのMIPS売却
Imagination Technologyは独自の「Meta」というプロセッサIPを開発していたが、MIPSの買収に併せてこのMetaの部門を閉鎖。全てのエンジニアをMIPS部門に合流させる。Aptivファミリーの後継としてMIPS Technologiesの時代に開発着手していたWarriorファミリーも完成させ、2014年から2015年にかけて相次いで発表している。
問題はそれなりのエンジニアとコストを掛けて開発したこのWarriorシリーズやその前のAptivシリーズが、期待したほど売れなかったことだ。同社の決算報告から数字を抜き出してみると表1のようになる(2014年以前は、同社は製品別の売り上げや利益を公表していない)。
「MIPSアーキテクチャ終了」の可能性
MIPS部門は数こそ出ているものの、売り上げ(ライセンスなど)はPowerVRの3分の1、利益では6分の1や8分の1という程度で、確かに売り上げや利益の上乗せにはなるものの、今後も継続して投資をしてゆくには厳しい数字が並んでいる。AppleによるPowerVR利用中止の通告を受けて、まずMIPS部門とネットワークIPであるEnsigma部門の切り離しを考えたのも、この数字を見れば納得である。
では今後どうなるかという話だが、ちょっと話をImagination Technologiesの買収時点に戻す。
MIPS Technologyが当時保有していた580件の特許のうち、Imagination Technologiesに移管されたのは82件のみであった。では残る498件の特許はというと、AST(Alliand Security Trust)という特許保有機構が保有しているのだが、この498件の特許を3億5000万ドルで買収してASTに移管したのはARMを中心とするメンバーであった。要するに、Imagination Technologies買収後に新たに獲得した特許を除くと、現状のMIPS Technologiesが保有するプロセッサに関する特許に有力なものはごく少数と考えられる。こうなってくると、同社を誰が再び買収するのか、は判断が難しい。
まずARMが買収する可能性は非常に低いだろう。製品ポートフォリオ的にも特許的にもメリットはなく、強いて言えばエンジニアリングリソースが入手できる、というぐらいしかない。CEVAも2012年当時と異なり、DSPを深堀りする方向に会社の方向性が変わってきている。現状でMIPSを買収しても、あまり得るものはないだろう。
大手EDAベンダーも、例えばCadence Design SystemsはTensilicaを、SynopsysはARCを既に保有しているから、残るはMentor Graphicsしかないのだが、Siemens傘下の同社が果たしてCPU IPを入手したいと思うかは疑問である。
可能性としてあり得るのはMobileyeである。既報の通りMobieyeの次期製品であるEyeQ5はMIPS I6500-Fベースとなるので、同社としてはこのIP供給に差し障りがあることはなんとしても避けたい。ただMobileysはIntelによる買収が行われている(買収完了は2017年後半の予定)。これが完了すると、次々期製品などにIntelベースのプロセッサが入る可能性はあるが、まだ当分先の話であり、そこまでのつなぎとして製品ラインを買収する可能性はあると思われる。しかし、MIPS部門を丸ごと買収するかといわれると、その可能性は低いと言わざるを得ない。
他のメーカー、例えばCavium NetworkやBroadcomなど、MIPS64のアーキテクチャライセンスを受けていたベンダーは、ほぼ全てが新製品をARMコアベースに移行している最中であり、このあたりが買収する可能性は非常に低い。むしろ中国の新興メーカーが名乗りを上げて(Imagination Technologyごと)丸ごと買収、という方がまだ可能性としては高いだろう。
再びIPOをして独立企業として生き残ってゆく、という道も厳しそうだ。先もちょっと挙げたがARCやTensilicaのコアもそれなりに広く使われ始めているし、最近はRISC-Vの興隆も著しい。今更MIPSアーキテクチャが生き残れる余地が市場にどれだけあるかと問われると、筆者はほとんどないと考える。
現時点ではどういう方向性になるかはまだ明らかになっていないが、あるいはMIPSアーキテクチャの終わりが近づいているのかもしれない。
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これを読めばここ1カ月のエレクトロニクス/組み込み業界の動きが分かる連載。注目すべき市場動向と注目すべき製品を取り上げます。
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