大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
WannaCryがあぶり出した「XP」との長くなる付き合い(1/2 ページ)
猛威を振るったランサムウェア「WannaCry」はWindows OSの脆弱性を利用したもので、Windows XPベースで駆動するATMやPOSにも多数の被害をもたらした。そこからあぶり出されたのは、まだまだ続くXPとの付き合いの長さである。
猛威を振るったWannaCryとMicrosoftの対応
2017年月5月中旬に突如として爆発的に広がり、猛威を振るったランサムウェアの「WannaCry」。どんなものかについてはこちら(ランサムウェア「WannaCry」の被害が止まらない理由)の記事が詳しい。
対処はこちら(世界規模のランサムウェア攻撃でMicrosoftが異例の「Windows XP」パッチ公開)にも示されている通りであり、2017年3月のWindows Updateにて対処済みなのだが、Microsoftは異例ながらWindows XP/Windows 8/Windows Server 2003向けのパッチを緊急リリースしている(KB4012598)
ちなみにこれらのパッチはあくまで「WannaCryに感染しないためのもの」であって、既に感染してしまった場合には効果が無い。これについても、「感染後1週間以内で、かつ再起動していない」という条件付きながら「wanakiwi」という解除ツールがGitHubに公開されている(これはWannaCryの暗号化に使われたキーをメモリ中から探し出すツールなので、再起動するとメモリの内容がクリアされてしまってキーを発見出来ない)。
今なお使われているWindows XP
WannaCryの話はこの程度で良いだろう。今回、WannaCryを話題にしたのは、それが多くの組み込みシステムも襲った事だ(Photo01)。実はこうした組み込みシステムの場合、手間というか修復コストそのものは膨大なものになるだろうが、本質的にはあまり致命的な問題にはなりにくい(*1)。
(*1) 修復コストが致命的、というケースはありえるだろうが……
こうしたシステムの場合、今回のような被害への対応(要するにブート用HDDがクラッシュしたのと同じ事なので)HDDを交換して立ち上げて終わりである。もう一度感染しないように対策パッチを当てるという一手間が入る事にはなるが、そこまでの話である。
列車運行掲示板システムの場合、運行データを管理しているのは運行管理センターのシステムであって、個々の掲示板は単にネットワーク経由でデータを受け取って表示しているだけだから、その掲示板システムのHDDが勝手に暗号化されたところで、致命的な問題とはならない。運行管理センターのシステムが被害にあったりすると、それはそれで大問題であるが、それは今回の話とはちょっと論点がズレるのでここでは置いておく。
では今回の話のポイントは何か?というと、いまだ多くの組み込み機器に、Windows XPが利用されている(もっと言えば、それ以前のWindows NT 4すら残っている)事だろう。
新規システムで今さらWindows XPベースの製品が使われる可能性はさすがに無いと思いたいのだが、なにしろ過去に導入したシステムが寿命20年なんてケースがザラにあるのが組み込みの世界だ。では一体どんな形でWindows XPが残っているかというと、Windows Embeddedである。なんで今さらXPが、というのは歴史的経緯が関係してくる。
Windows CEとWindows Embedded
Microsoftは組み込み向けに2種類のソリューションを提供していた。1つがWindows CEと呼ばれる一連の製品で、こちらは1995年からOEM向けに提供を行ってきた(発表そのものは1996年)。最初のバージョンであるWindows CE 1.0は日立製作所のSH-3と、MIPSのR3000/R4000のみをサポートするもので、その後も対応CPUやサポートするハードウェア、搭載するネットワークスタックやAPIなどを拡充していった。どちらかというと組み込みよりはハンドヘルド向けの機能強化が著しく、Windows CEをベースに最初のWindows Mobileが作られている。
もう一方の系列がWindows Embeddedである。最初のものは、Windows NT 4.0をベースに1998年にリリースされたWindows NT Embedded 4.0であり、この後継として開発されていたWindows 2000 Embeddedは2000年4月に開発が中止されており、その代わりに2001年にリリースされたのがWindows XP Embeddedである。
Windows Embedded系列の目的は、それこそ列車運行掲示板の様な「ソフトウェア的な堅牢性が求められる」組み込み向けである。Windows CEは少ないリソースで動くという観点で組み込みに適している事は間違いないのだが、広範な周辺回路や拡張機器のサポート、OSそのものの堅牢性という観点ではWindows NT系列に一歩及ばない。またプログラムの作りやすさ、という観点でもWindows NT系列は有利であった。
実はWindows NT Embedded 4.0がリリースされる前は、こうしたシステムはWindows 9xをベースに構築されており、その前はMS-DOSがベースであった。ただMS-DOSの方は当然できることに限りがあるし、Windows 9xは機能的にはともかく安定性に欠けたため、逆にどうやってWindows 9xで安定に動作させるかという、ある意味バッドノウハウが重視された時代でもあった。このあたりがWindows NTになって大幅に解消された結果、ATMやPOSレジスターのような、比較的大型でも良い組み込みシステムにWindows NT Embedded 4.0がまず採用され、次いでこの後継としてWindows XP Embeddedが投入された形だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
これを読めばここ1カ月のエレクトロニクス/組み込み業界の動きが分かる連載。注目すべき市場動向と注目すべき製品を取り上げます。
この記事の著者
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社 Green AI] AIで脱炭素計画を最適化、初年度からエネルギーコストとCO2を削減する方法 -
市場調査・トレンド
[スマートジャパン編集部] 「ペロブスカイト太陽電池」の普及戦略が公表 政府が目指すコスト・導入量のロードマップを解説 -
市場調査・トレンド
[スマートジャパン編集部] 導入が加速する再エネ・系統向け蓄電システム コスト・収益性の現状分析 -
技術文書・技術解説
[スマートジャパン編集部] いまさら聞けない「ペロブスカイト太陽電池」の基礎知識と政策動向 -
技術文書・技術解説
[スマートジャパン編集部] 「ペロブスカイト太陽電池」の開発動向、日本の投資戦略やコスト目標の見通しは?
関連記事
こんなメディアも見られています
TechFactoryに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
特集
- マテリアルズ・インフォマティクスの動向調査
- 研究・開発職のデジタル活用調査
- 設計・解析業務におけるAI活用
- 3Dプリンタ利用動向調査
- CAD利用動向調査
- つながる工場の現状と課題
- 製造業におけるAI開発および活用の実態
- 設計・製造現場における品質管理
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
EE Times Japan×EDN Japan 統合電子版:フィジカルAIが生み出す新たな「設計思想」――電子版2026年8月号
-
2
半導体装置メーカー 業績まとめ【2027年3月期第1四半期】
-
3
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part4)
-
4
一時は時価総額トヨタ超え キオクシア2026年度の動向
-
5
微細配線間の絶縁劣化をどう捉える? 先端パッケージ評価の最前線
-
6
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part1)
-
7
EE Times Japan×EDN Japan 統合電子版:2026年上半期の半導体業界を振り返る――電子版2026年7月号
-
8
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part3)
-
9
CADツールの見直しは本当に必要? 切り替えの理由と効果を7つの質問で検証
-
10
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part2)
TechFactory SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechFactoryをフォロー