大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
WannaCryがあぶり出した「XP」との長くなる付き合い(2/2 ページ)
2系統あるWindows XP Embedded
ちなみにこのWindows XP Embeddedは、大きく分けて更に2種類がある。世代によってちょっと名前が違うのだが、Windows XP Embeddedの場合だと「Windows XP Embedded」「Windows XP Professional for Embedded System」である。
前者は完全に組み込み向けのもので、必要となるモジュールのみを組み込んで独自のOS Buildを作る形であり、このためのツールも提供される。後者はデスクトップ向けのWindows XP Professionalと全く同一でライセンスが組み込み向けというものである。もっともこの2つ、見た目はほとんど変わらない(起動やログオンロゴ、システム情報が違う程度)なので、取り違える場合も多い。
どちらの利用が多いのかという統計情報はMicrosoftしか持っておらず公開されていないので断言は出来ないが、Windows XP Embeddedの場合はOSのビルドに一手間掛かる他、ライセンスの管理なども面倒になる。そのため大手システムメーカーでの採用例は多いが、逆に中小のシステムメーカーではWindows XP Professional for Embedded Systemを使ってシステムを構築するケースが多かったように思われる。
広く利用されたWindows XP Embedded
さて、Windows NT Embedded 2000がスキップされてしまった関係もあり、非常に広範囲に渡って利用されたWindows XP Embeddedであるが、セキュリティアップデートも同様であり、Windows XP Service Pack 1/Windows XP Service Pack 2/Windows XP Embedded SP Feature Pack 2007/Update Rollup 1.0 for Windows XP Embeddedがそれぞれリリースされている。
最後の大規模アップデートはUpdate Rollup 1.0 for Windows XP Embeddedで、提供は2007年5月の事だからほぼ10年前である、後継として何も用意されていなかったわけでなく、2008年にはWindows Embedded Standard 2009がリリースされ、次いで2009年にはWindows Embedded Standard 7が投入された。前者はWindows XP Embeddedの延長にある製品だが後者はWindows 7がベースである。要するにWindows VistaベースのWindows Embeddedはスキップされた格好だ。
その後、Windows 8ベースのWindows Embedded 8が2013年に投入され、Windows 10ベースの最新版がWindows 10 IoTだ。ちなみにここまで紹介してきたのは主要なバージョンであって、実際は特定用途向けの派生型も数多くある事に留意されたい。
なかなか実現しないXPからの移行
ただ組み込み機器の場合はデスクトップPCと違い、「新OSが出たから乗り換えるか」と気軽に入れ替えられるものではない。少なくとも動作テストには製品開発と同じ手間が掛かるし、その結果としてアプリケーションに変更が出る場合もあり、検証と変更に要するコストは決して小さくない。しかし、そうしたコストは顧客には請求しにくい(というか、当初からサポートコストとして別立てで請求しておかない限り通りにくい)ものであり、実際にはなかなか実現しない。かくして、新製品はともかくとして旧来の製品のOS入れ替えは、特にコスト面から現実的ではない。
仮にコスト面で折り合いが付いても、それを入れ替える作業の手間もかかる。結果として「ある機器が壊れた場合、その修理の際に機器を入れ替えるついでにOSもバージョンアップ」という事になる。実はこれ、OSだけでなくWindows Updateにも通用する話である。
知られている通り、Windows Updateの結果としてある機能が使えなくなるとか、システムが不安定になる事態が何度かあった。筆者の主観で言えば、1~2年に1回はWindows Updateに伴いそうした問題が発生していた気がする。となると、Windows Updateの適用もOSバージョンアップと同じ程度テストの工数を必要とすることになる。結局のところ、「動いているものはいじるな」という鉄則が通用する訳で、動かなくなって初めて対応が検討されるのは、ある意味仕方ないところもある。
従ってWindows XP Embeddedがなくなるのは、そうした機器が市場から駆逐されるのを待つしかない。ところが、これが案外に時間がかかる見込みであるのは組み込み業界特有の長所でもあり、短所でもある。一度作ったシステムが10年20年使われるのは当たり前だったりするからだ。実際Microsoftも、Embedded製品には相当長いライフサイクルを設定している。
Microsoftの定義では、機能要請に対するサポート、セキュリティ更新プログラムの提供などといったフルサポートを提供する「メインストリームサポート」が5年。セキュリティ更新プログラムの提供は確実に行われる「延長サポート」が10年。プリインストールした機器を出荷可能なだけとなるEOL(End of Life)が15年となっている。
過去の主要Embedded向け製品のスケジュールをみると、以下のようになっている。
| 製品名 | メインストリーム終了日 | 延長サポート終了日 | EOL |
|---|---|---|---|
| Wondows XP Embedded | 2011/1/11 | 2016/1/12 | 2017/1/30 |
| Windows Embedded for Point of Service(SP3) | 2011/4/12 | 2016/4/12 | 2020/5/24 |
| Windows Embedded Standard 2009 | 2014/1/14 | 2019/1/8 | 2024/1/8 |
| Windows Embedded POSReady 2009 | 2014/4/8 | 2019/4/19 | 2026/9/10 |
| Windows Embedded Standard 7 | 2015/10/13 | 2020/10/13 | 2025/7/27 |
| Windows 7 Professional for Embedded Systems | 2015/1/13 | 2020/1/14 | 2024/9/30 |
| Windows Embedded POSReady 7 | 2016/10/11 | 2021/10/12 | 2026/9/10 |
| Windowos Embedded 8/8.1 Pro | 2018/1/9 | 2023/1/10 | 2028/3/31 |
| Windowos Embedded Standard 8 | 2018/7/10 | 2023/7/11 | 2028/3/31 |
| Windows Embedded 8/8.1 Industrial Pro | 2018/7/10 | 2023/7/11 | 2028/3/31 |
さすがにWindows XP Embeddedに関してはEOLを迎えているので新規に搭載した製品は出荷できなくなっているのだが、POS向け(Windows Embedded for Point of Service)に関しては2020年まで出荷可能になっている。またWindows Embedded 2009ベースの製品に関しては2019年まで延長サポートがあるし、EOLに至ってはまだ当分先なので、メーカーはガンガン搭載製品を出荷できることになる。
製品そのものの競争力も考慮しないといけないので、ライセンス的に出荷可能だからといって実際に出荷されるとは限らないが、まだXPベースの製品が出荷可能な状況にあるのは間違いない。これらが目に見えて減るのは、EOLを過ぎた2020年代後半になってから、という事になりそうである。要するに私たちはまだ当分、Windows XPベースの組み込みシステムと付き合ってゆかねばいけないのだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
これを読めばここ1カ月のエレクトロニクス/組み込み業界の動きが分かる連載。注目すべき市場動向と注目すべき製品を取り上げます。
この記事の著者
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社 Green AI] AIで脱炭素計画を最適化、初年度からエネルギーコストとCO2を削減する方法 -
市場調査・トレンド
[スマートジャパン編集部] 「ペロブスカイト太陽電池」の普及戦略が公表 政府が目指すコスト・導入量のロードマップを解説 -
市場調査・トレンド
[スマートジャパン編集部] 導入が加速する再エネ・系統向け蓄電システム コスト・収益性の現状分析 -
技術文書・技術解説
[スマートジャパン編集部] いまさら聞けない「ペロブスカイト太陽電池」の基礎知識と政策動向 -
技術文書・技術解説
[スマートジャパン編集部] 「ペロブスカイト太陽電池」の開発動向、日本の投資戦略やコスト目標の見通しは?
関連記事
こんなメディアも見られています
TechFactoryに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
特集
- マテリアルズ・インフォマティクスの動向調査
- 研究・開発職のデジタル活用調査
- 設計・解析業務におけるAI活用
- 3Dプリンタ利用動向調査
- CAD利用動向調査
- つながる工場の現状と課題
- 製造業におけるAI開発および活用の実態
- 設計・製造現場における品質管理
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
EE Times Japan×EDN Japan 統合電子版:フィジカルAIが生み出す新たな「設計思想」――電子版2026年8月号
-
2
半導体装置メーカー 業績まとめ【2027年3月期第1四半期】
-
3
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part4)
-
4
一時は時価総額トヨタ超え キオクシア2026年度の動向
-
5
微細配線間の絶縁劣化をどう捉える? 先端パッケージ評価の最前線
-
6
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part1)
-
7
EE Times Japan×EDN Japan 統合電子版:2026年上半期の半導体業界を振り返る――電子版2026年7月号
-
8
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part3)
-
9
CADツールの見直しは本当に必要? 切り替えの理由と効果を7つの質問で検証
-
10
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part2)
TechFactory SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechFactoryをフォロー