大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
Appleの通告は「MIPSの終わり」の始まりか(2/3 ページ)
「MIPS32」のヒットと没落
再度の独立を果たしたMIPS Technologiesは、プロセッサそのものを売るかつてのビジネスから、プロセッサのIPを売るというARMと同じビジネスモデルに切り替える。幸いにして、既に多くのワークステーションやマイクロコントローラーのベンダーが同社プロセッサベースの製品を世の中に送り出していたから、これらとソフトウェア互換性のあるプロセッサのIPを送り出せば、市場には受け入れられた。
特に、当初同社がリリースした「MIPS32 4Kシリーズ」は180nmプロセスでエリアサイズ2.5平方mm、ほぼR3000と同程度の性能を実現しており、ちょっと複雑な組み込み系プロセッサなどに最適だったのである。
売れ行きはどうだったかというと、携帯電話を除く組み込み向けでは2003年ごろにMotorolaの68000系を抜いてMIPS32がトップシェアを取っている。「ARMではやや非力で、かといってx86ではシステム価格と消費電力が上がり過ぎる」といった用途にMIPS 32ベースのSoCは適しており、ルーターや小規模コントローラー、多機能プリンタ(MFP)、セットトップボックスなどに幅広く利用された。
MIPS32 4Kの次にはIPC(クロック当たりの命令実行数)を引き上げた「MIPS32 24K」、2006年にはマルチスレッド対応の「MIPS32 34K」を投入。2007年にはさらにIPCを引き上げた「MIPS32 74K」と、MIPS32 74Kにマルチスレッド対応とマルチコア化を施した「MIPS32 1004K」と、高性能化の方向にコアを進展させた。
ところが市場はMIPSの思惑と異なる動きを見せる。高い処理性能よりも、処理性能は据え置きでもいいから、安い価格と低い消費電力が求められたのだ。
ルーターなどネットワーク関連機器分野ではPowerPCが急速に追い上げ、車載関係マーケットにも進出したことで出荷数を大きく伸ばした。また、それまで性能が低くて比較対象にならないと思われていたARMが、急速に性能を引き上げMIPSの持っていたマーケットを侵食し始めた。高性能化したMIPS32 1004Kが要求されるマーケットは、姿を現さなかった。
MIPS最後の牙城と再度の身売り
開発製品の方向性と市場動向がかみ合わなかった結果、同社は2004年あたりから次第に業績を落としてゆく。
唯一同社に残っていたマーケットはハイエンドネットワークプロセッサ向けである。こちらは性能もさることながらメモリ搭載量を多く取る必要があり、32bitアーキテクチャより64bitアーキテクチャが求められた。この当時に商用で存在した64bitプロセッサはSPARCかMIPS、Alpha、POWER(PowerPCではない)程度しかなかった(x86が64bit対応になって広く普及するのはもう少し後の話)。
結果、独立系ベンダーの選択肢としてはMIPSしかなく、Cavium、RMI(現Broadcom)、PMC-Sierra(現Microsemi)といったベンダーがいずれもMIPS TechnologiesからMIPS64のアーキテクチャライセンスを受け、自社でこれを実装するという形で製品展開を行っており、ここが最後に残された同社の牙城となった。
同社も苦境にあることは認識しており、2002年にはAlgorithmics、2005年にはFirst Silicon Solutions、2007年にはChipideaといった企業を買収し、開発環境やソフトウェア環境、提供可能なIPの充実に努めていた。特にChipideaはアナログIPのベンダーであり、これによって幅広いSoC向けのソリューションを提供できるようになると同社は意気込んでいたものの相乗効果は高くなく、結局Chipideaの部門は2009年に丸ごとSynopsysに売却することになるなど、あまり効果はなかった。
2010年にはCEOが、かつてのHennessy博士の教え子であるSandeep Vijに変わり、本格的にモバイル市場へ取り組む方向性が打ち出される。まずAndroidへの正式対応が打ち出され、ARMと競合できる省電力性を備えたとするAptivファミリーを2012年に発表するが、既に時遅しであった。
2008年に500人以上居たとされる同社の従業員は、2010年には200人弱まで減っており、売り上げはこれにも増して減っていた。結局2012年末、同社は正式に売却先を募集する。まずこれに応じたのがImagination Technologiesで、約6000万ドルのオファーを出した。これに対しDSP IPベンダーのCEVAが約8000万ドルのオファーを出し、Imagination Technologyがオファーの額を約1億ドルまで引き上げて、この買収劇は幕を閉じる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
これを読めばここ1カ月のエレクトロニクス/組み込み業界の動きが分かる連載。注目すべき市場動向と注目すべき製品を取り上げます。
この記事の著者
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社 Green AI] 自動車業界の脱炭素はなぜ進まない? 実務で直面する“壁”の乗り越え方 -
製品資料
[株式会社 Green AI] 脱炭素投資をすぐ回収するには? エネルギー&CO2削減の成果を出す秘訣 -
市場調査・トレンド
[スマートジャパン編集部] 「ペロブスカイト太陽電池」の普及戦略が公表 政府が目指すコスト・導入量のロードマップを解説 -
市場調査・トレンド
[スマートジャパン編集部] 導入が加速する再エネ・系統向け蓄電システム コスト・収益性の現状分析 -
技術文書・技術解説
[スマートジャパン編集部] いまさら聞けない「ペロブスカイト太陽電池」の基礎知識と政策動向
関連記事
こんなメディアも見られています
TechFactoryに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
特集
- マテリアルズ・インフォマティクスの動向調査
- 研究・開発職のデジタル活用調査
- 設計・解析業務におけるAI活用
- 3Dプリンタ利用動向調査
- CAD利用動向調査
- つながる工場の現状と課題
- 製造業におけるAI開発および活用の実態
- 設計・製造現場における品質管理
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
ものづくり白書2026を読み解く
-
2
EE Times Japan×EDN Japan 統合電子版:フィジカルAIが生み出す新たな「設計思想」――電子版2026年8月号
-
3
一時は時価総額トヨタ超え キオクシア2026年度の動向
-
4
プリント基板設計の課題を乗り越えた成功事例集
-
5
IMUを活用してロボットの位置推定を強化、より高精度なナビゲーションが可能に
-
6
「サプライチェーン最適化」実践ガイド:効果的な意思決定を実現する秘訣とは?
-
7
AI×DXで効率化する設備保全まとめ
-
8
若手設計者が育たない? 「探す」時間を「学ぶ」時間に変えるデータ管理とは
-
9
動き出したファナックの「フィジカルAI」
-
10
製造現場の“人材育成の課題”を一掃、階層別に必要な知識を習得する秘策とは?
TechFactory SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechFactoryをフォロー