製造業でIoTを導入したプロジェクトを成功させるには、幅広い知識が必要です。今回は、スマートバルブの機能とHART通信の原理に関する問題を出題します。
化学プラントなどでよく使われている「流量調整弁(バルブ)」は、プラント内の流量、温度、圧力、タンクの液位などをセンサーで検知し、それらの値が所定の値になるよう、バルブの開度を調整および制御します。
流量調整弁の開度はプラント運転中、常に微妙に変化しています。万一、これがうまく機能しなくなるとプラント全体に大きな影響を及ぼすことになり、最悪の場合、プラント停止に至ることもあるので、高い信頼性が求められます。
そのため、最近では流量調整弁の状態を検知するための各種センサーやマイクロプロセッサを取り付け、制御室などから遠隔で常時監視する仕組みの導入が進みつつあります。
従来、開度を示す4〜20mAの直流アナログ信号で流量制御をしていましたが、近年はアナログ信号にデジタル信号を重畳させて(重ね合わせて)、複数信号を伝送する方式を利用することによって、流量調整弁などのフィールド機器の状態も把握できるようになりました。
この通信方式の1つが「HART通信」と呼ばれるものです。米フィッシャー・ローズマウント(Fisher-Rosemount)社が提唱した制御用フィールドネットワークのオープン規格で、1986年に開発されました。
計装システムの立ち上げでは、一般的に何百もあるフィールド機器が正しく接続、設定されているかを確認する「ループテスト」が行われますが、この作業に多大な時間と労力を要していました。HART通信はこうした作業を効率化するプロトコルで、現在、ほとんどのフィールド機器がHART通信に対応しています。
HARTとは、“Highway Addressable Remote Transducer”の略称で、フィールド機器の各種設定値、初期校正値やタグナンバー、さらには状態を示す情報などのデジタル信号を、HARTモデムを介して周波数信号に変換します。
例えば、図1中央下部に示す周波数信号のように、デジタルの「0」は2000Hz、「1」は1000Hzというアナログ波形にします。これとバルブ開度のような4〜20mAのアナログ信号とを重ね合わせてアナログ信号線で伝送します。受信側の制御室などで、高周波成分をカットすれば、バルブ開度などを示す4〜20mAが得られ、HARTモデムで周波数信号を逆変換すれば、機器の状態を示すデジタル信号が得られます。
化学プラントなどでよく使われている空気圧駆動式の流量調整弁の構造は、図2のようになっています。ステム(弁軸)を上下させて先端にあるプラグを上下に動かすことによって、流体が通る隙間の面積(流路断面積)を変化させます。この一連の動作により、流量の増減を行います。
ステムを上下させるとともに、その位置を検知するものを「ポジショナ」と呼びます。また、ステムを上下させる駆動力は、プラント所内に張り巡らされている高圧空気配管から供給される空気圧です。空気圧を上げると、アクチュエーター内のスプリングが縮んでステムが上昇し、プラグが上がることによって流路断面積が広がり、流量が増えます。
一方、ポジショナで検知されるステムの位置は、4〜20mAの範囲で増減する直流電流値で表され、制御室などに送信されて流量制御に使われます。
従来はここまででしたが、「スマートバルブ」ではこれ以外に、駆動用高圧空気の圧力や駆動部の摩擦力などを圧力/歪センサーによって検知し、正常時とのズレをモニターします。そして、このズレの大きさを基に正常/異常の判断を下し、空気回路における空気漏れや油分、水分の堆積、ならびにバルブ駆動部におけるスプリングやパッキンの劣化などを診断します。これらの結果を制御室に送ることにより、少しでも早く故障の予兆を把握し、対処できるようにします。
実際、スマートバルブ内にマイクロプロセッサとHARTモデムを設け、デジタル信号であるこれら診断結果と、ポジショナからの開度アナログ信号とを重畳させて送信します。一方、受信側(制御室など)でもHARTモデムを用いて、両信号を分離、復元し、流量調整弁の状態を遠隔監視します。
また、初期設定値/校正値やタグナンバーなどのデジタル信号により、制御ループチェックなど、今まで過大な負荷がかかっていた現場作業の軽減にも役立ちます。
それでは、IoT(Internet of Things)関連の知識およびスキルアップに役立つ問題を出題します! 今回はIoT検定スキルマップの「デバイス−デジタル処理のセンサー」に該当する設問となります(※)。
問題:
スマートバルブに関する説明として“誤っているもの”を1つ選びなさい。
※本連載の設問が実際のIoT検定にそのまま出題されるわけではありません。
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