新日本無線が高音質重視のオーディオ用1回路入りオペアンプ「MUSES03」を販売開始した。2チップ構成など音質劣化を防ぐ工夫を施している。
1回路入りのオーディオオペアンプなのに、2チップ構成を採用した――。
新日本無線は2017年3月24日、高音質を追求したオーディオ用半導体デバイス製品群「MUSES」(ミューズ)のフラグシップ製品として、1回路入りJ-FET入力のオーディオ用オペアンプ「MUSES03」を発売した。2009年から展開するMUSES製品の中で「最も高音質を実現するオペアンプ」(同社)とする。
MUSESは、原音を忠実に再現するという意味合いの高音質を最優先して開発した半導体デバイス製品ブランド。生産性や価格といった半導体デバイス開発で考慮すべき要件を度外視するとともに、デバイス性能を示す数値よりも人の聴覚に頼った評価方法を徹底し、音にこだわり抜いて開発しているという。
これまで最も音質を優先し、追求したフラグシップ製品としては、2回路入りのオペアンプ2製品(「MUSES01」と「同02」)を製品化し、高級オーディオ機器向けに展開してきた。「1つのデバイスでステレオの左右両チャンネルに対応する2回路入りオペアンプの方が市場規模は大きいが、音質を高めるために左右両チャンネルの回路を分けて構成する高級オーディオも一定数あり、MUSESで1回路入りオペアンプが欲しいという声は以前から多く、数年間の時間をかけて開発を行いようやく1回路タイプのMUSES03の製品化に至った」(同社)
MUSES03は「従来の2回路入りフラグシップ製品よりも優れたオペアンプを目指した」とし、新たに2つの技術を導入した。
1つは、フルバランス型差動増幅回路技術。これまで差動入力の2つのソースは、処理中段でミックスし1ソースとしてから処理を行った。これに対し、フルバランス型差動増幅回路では、最終段まで2つのソースとして別個に増幅し最後にミキサーに入れ出力するもの。この回路によりダイナミックレンジ、歪率、応答性といった特性を改善させたとする。MUSES03の全高調波歪率は、MUSES01や同02と比べ2桁改善し0.00003%(1kHz時/典型値)。スルーレート(SR)は35V/マイクロ秒(典型値)となった。
2つ目の新規適用技術が入力段と出力段でチップを分けた2チップ構成技術だ。増幅された出力側の信号は、入力側の振幅の小さな信号に干渉し、音質劣化を招く。そこで、入力段と出力段の回路を物理的に切り離すために、それぞれチップを分けてワイヤボンディングで接続する構成を採用した。当然、2チップにすることでコスト増を招くが「音を追求する上では、2チップ構成が最良と判断した」(同社)。なお、「1回路のオペアンプで2チップ構成となっているものは、見たことも聞いたこともない。恐らくMUSES03が唯一だろう」としている。
また、信号劣化を最小限に抑えるため、MUSES01、同02同様に、99.99%純度の無酸素銅によるリードフレームを採用した。
その結果、入力換算雑音電圧は7.5nV/√Hz(1kHz時/典型値)、利得帯域幅積は12MHz(典型値)を実現した。
「本来であれば、もう少し早い時期にMUSES03を発売する予定だったが、聴感試験で満足いく音質を満たせず、調整を繰り返し、製品化が遅れた。しかし、その分だけ、MUSESシリーズのフラグシップにふさわしいオペアンプに仕上がった」としている。
なお、MUSES03のパッケージは、8ピンDIPを採用。動作電源電圧範囲は±3.5〜±18V。参考価格は4500円。東京・秋葉原などの電子部品販売店などでも販売される。
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