トヨタ自動車の北米市場における開発を担うトヨタテクニカルセンター。製品開発部門のCE(チーフエンジニア)に、北米市場での自動運転の動向について聞いた。
米国ミシガン州に立地するToyota Motor Engineering & Manufacturing North America(TEMA)のトヨタテクニカルセンター。製品開発部門でCE(チーフエンジニア)を務めるアンドリュー・ランド氏が日本人記者らの取材に応えた。ランド氏は、北米市場における高度運転支援の需要について、「皆、“安全が欲しい”と思っているのは間違いない。ただし、好き嫌いが分かれるので普及には時間がかかりそうだ」と述べた。
運転支援システム「Toyota Safety Sense」は、共同開発車やOEM供給車を除いて日米欧で販売する全ての乗用車に設定される計画だ。日本では、コンパクトカーからミニバンまで、幅広い車種で設定が増えている。北米では現在、搭載は一部車種にとどまるが、2018年モデルから「ほぼ全車に搭載する」(ランド氏)ことが発表されている。
「オプションだけでなく、スタンダードにしていくという方針だ。ファミリー層を対象としたクルマで特に需要があると見ている。安全は皆欲しいが、コストを気にする。高級車に装備がたくさんあるのは当たり前だ。そうじゃないクルマにも安価で設定していくべきだと考え、コストを抑えているのがトヨタ自動車の強み」(同氏)だと説明した。
自動運転については、好き嫌いが分かれると見ている。「ABSが一部車種に搭載され始めた頃、ある人は雪の上でも滑らないのを喜んだが、自分のブレーキ操作の方が優れるからとABSを嫌う人もいた。品質が向上して、今ではABSが欲しくないという人はいなくなった。これと同じで自動運転も最初は好き嫌いが分かれる。ある人は運転したくないと思って自動運転を選ぶかもしれないが、また別の人は自分で運転する方が安心だと思うだろう」(同氏)とし、より多くの人に受け入れられていくまでは時間がかかると述べた。
ドライバーが運転から離れて前方を見る必要がない完全な自動運転については、Toyota Research Institute(TRI)が開発している新しい人工知能がない限り実現しないと語った。
人工知能が重要な役割を果たすのは、障害物の識別とブレーキをかけるべき状況の判断だという。「例えば、鹿が出た時はシステムでブレーキを踏む判断ができる。しかし、フリーウェイに風船やタンブルウィード(回転草)、小動物が飛んできた時にどうするかと。軽い物体なので人間は止まるべきだとは判断しないが、システムはブレーキをかける。この場合に止まったら後続車両と追突した場合の損害の方が大きい。また、トラックとコヨーテのどちらにもぶつかりそうな場合にどちらを選ぶかという状況ではシステムだけでは判断できない」(同氏)。
対歩行者でも同様に人工知能なしでは次の行動を判断できない状況があるという。「歩行者とドライバーがアイコンタクトをとれていれば問題なく歩行者の行動を予測できるが、そうでなければ飛び出してくる可能性に備えなければならない。システムがそこまで判断できるかというと、今はできない。人工知能が必要になる。TRIはこうした分野でリーダーになろうとしている」(同氏)。
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