JR九州は環境対策の一環で、蓄電池だけで走行できる電車の営業運転を10月に開始する。蓄電池に充電した電力とブレーキ時の回生エネルギーを使って、約10kmの非電化区間を2両編成で運行する。
JR九州は蓄電池だけで走る「DENCHA(Dual ENergy CHArge train)」の運行を10月19日に開始する(図1)。DENCHAは大容量のリチウムイオン電池を搭載して、2両編成で最高時速120キロで走行できる。従来のディーゼル車に替えて非電化区間に投入する次世代の車両としてJR九州が開発した。
DENCHAは電化されている区間では、通常の電車と同様にパンタグラフを通して架線から電力の供給を受けて走る。走行中や停車中に電力を交流から直流に変換して蓄電池に充電する仕組みだ。こうして充電した電力を使って、非電化区間では蓄電池から供給する電力だけで走ることができる(図2)。JR九州によると、交流の電化区間を走行できる蓄電池電車は日本で初めての導入例になる。
営業運転の対象になる路線は福岡県内を運行する筑豊本線のうち、北九州市の若松駅と折尾駅のあいだの約10キロの区間である(図3)。この区間は非電化で、折尾駅から先が電化されている。当初は火曜日を除いて1日に4往復を運行する。2017年の春には14両(7編成)に増やして運行本数を増やす予定だ。
これまで非電化区間ではディーゼル車を走らせてきた。石油を燃料に使うためにエネルギーの消費量とCO2(二酸化炭素)の排出量が多く、走行時にはディーゼルエンジンから排ガスが出る。動力源が電力に替わることでエネルギー消費量とCO2排出量を削減でき、排ガスもゼロになる。
DENCHAでは客室の照明にLEDを採用して電力の消費量を抑制する。さらに車内の冷暖房効果を高めるために、押しボタン式で開閉する「スマートドア」を導入した(図4)。ドアの上部に設置した液晶画面にスマートドアの操作方法を表示する他、電力の流れを解説したエネルギーフローも表示する。
JR九州は10月の営業運転開始に向けて、4月から若松〜折尾駅で試験走行を実施して性能や安全性を確認してきた(図5)。さらに10月1日には同じ筑豊本線のうち電化されている直方駅と中間駅のあいだでDENCHAの試乗会を開催して、利用客に乗り心地を体験してもらう予定だ。
鉄道各社は大量に消費する電力を削減するために、省エネ型の車両の開発・導入を長年かけて進めてきた。JR九州でも長距離を走る特急電車と短距離を走る近郊電車の双方に省エネ型の車両を投入している(図6)。ブレーキ時にモーターを発電機に切り替える回生ブレーキのほか、加速時の電力を半導体で効率よく制御できるVVVF(可変電圧・可変周波数)方式のインバータを搭載して走行中の電力消費量を削減する。
1987年に分割・民営化する以前の国鉄時代に主力だった電車と比べると、JR九州の最新の省エネ型の車両では1両あたりの電力消費量が半分程度で済む設計になっている。
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