大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
次第に姿を現した謎の通信技術「Amazon Sidewalk」(2/2 ページ)
このBridgeおよびSNS経由で、Sidewalk Endpointとアプリケーションサーバがつながる経路は当然暗号化されるが、Sidewalkではこれが最大3層防御になるとする。図2の場合、マイクからの音声を記録すると、まずはApplication Layerで暗号化を行う。これをSidewalkを経由して送り出す際には、Network Layerでも暗号化を行う。そして、Bridge(Flex Layer)でもさらに暗号化が行われるという仕組みだ。これにより、通信の秘匿化が保証されるとしている。ちなみに当然ながらSNSとDeviceの間のSession Keyは定期的に更新されるとしている。
まあセキュリティに掛かるところは本質ではなく、問題はこれがどの程度のエリアで利用可能になるか、ということだろう。屋内利用であればもちろんBridgeに接続できるだろう。900MHzのiSM Bandだから、鋼鉄製の部屋とかでなければそれなりに電波が届くと思われる(BLE接続の場合はちょっと厳しいだろう。せいぜい同じ部屋のなか程度だろうか)。ところが屋外利用となると話が変わってくる。例えば都市部の道路に沿った全ての家にAmazon Echoがあって、これがBridgeとして利用できるとかいう話なら、その通り沿いを移動する限りは接続できるだろう。ところが郊外などで裏庭には広大な畑が広がってるとかいうと、途端に怪しくなる。Ring Fetchのようなトラッキングデバイスでは、これは結構厄介なことになる。道沿いを移動してる限りは犬の位置が確認できるが、ちょっと裏にいったら行方不明、とかいうことになりかねないからだ。
これにはもう一つ懸念事項がある。自宅のEchoをBridgeとして自分がつなげるのは別に構わない。問題は自宅からちょっと外れた場所で、自宅のEchoにはつながらないが、お隣のお家のEchoにはつながる、なんてケースでこれを許すかどうかだ。セキュリティとかコスト(後述)の観点からすると許さない方が無難だが、使い勝手を考えると許した方が便利である。この「近隣のお宅に設置されたEchoをBridgeにして自分が使う」というのは、一時期人気になったFonを思い出す。こうした使い方を許すかどうかは結構微妙なところではないかと思う。ただアマゾンはこの方式で構わないと思っているらしい(後述)。
コストの問題もある。アマゾンはこのSidewalkを無償で提供するとしている。SidewalkのFAQには明確に
Amazon does not charge any fees to join Amazon Sidewalk, which uses a small portion of bandwidth from a Sidewalk Bridge’s existing internet service. Standard data rates from internet providers may apply.
とある。これ、自宅に置いたEchoをBridgeにするのであれば、そりゃSidewalkが無償で利用できるのは当然である。問題は自分のSidewalk Endpointが他のユーザーのEchoにつながる(あるいは自分のEchoに他者のEndpointがつながる)ケースだ。FAQの「Sidewalkは通常のInternet接続で利用されるデータ量と比べて物凄くデータ量が小さい」というのは、なんとなくEcho経由でSidewalkをFon的に使う事を考慮しているように思われる。FAQの“Will I know what other Sidewalk-enabled devices are connected to my Bridge?”という項目も、これを裏付けているようだ。
アマゾン的には、なし崩し的にEchoシリーズのスマートスピーカーをSidewalk対応にすることで、Sidewalkを利用できるカバレッジ範囲を急速に広げたいと思っているようだ。対応リストを見ると、EchoとかEcho Dotの第1世代はSidewalkが未対応だそうで、これはおそらく内部に900MHz帯対応のモデムが搭載されていないのだろう。ただ2019年以降に出荷されたEchoシリーズは、ほぼSidewalk対応になっているようで、この時期の製品は900MHz帯対応モデムを搭載して、ただし無効化された状態で出荷しており、年末ごろをめどにこれらのモデムを有効化するファームウェアがOTA Updateで落ちてくるものと思われる。
このアマゾンの発表に合わせて、Silicon LabsとNordicがやはりSidewalk対応を発表している。Nordicの方はBluetoothベースであるが、Silicon LabsはEFR32 Wireless Geckoシリーズで、ISM BandとBluetoothの両方に対応するとしている。
日本の場合、長らく900MHz帯のISM Bandが利用不可能だった。ただ2018年ごろからここを開放してほしいという要望が強く出てきており、総務省は2020年1月21日に情報通信審議会から「920MHz帯小電力無線システムの高度化に係る技術的条件」という一部答申を受けて関連規定の整備を速やかに行うとしている。ただ、Sidewalkがこれに合致するか不明(答申によれば、キャリアセンスを行うか、もしくはFH(Frequency Hopping)ないしLDC(Low Duty Cycle)を利用している無線方式が対象であるが、Sidewalkがこれに該当するかが現状では判断できない)し、現状のEchoなどはいずれもWi-FiおよびBluetoothを前提に技適を取得しているはずで、ISM Bandの利用は対象外だろう。となると、Sidewalkを日本で展開する場合、当面はBluetoothベースでの接続に限られることになる。その意味では、あまり怖がる必要はないのかもしれない。
もっともAWSというかAlexaを利用するサービスを今後展開していく場合、Sidewalkのサポートは必須になりそうな気もする。来年あたりからは対応するサードパーティ製品も増えてくると思われるだけに、ちょっと注意が必要だ。
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これを読めばここ1カ月のエレクトロニクス/組み込み業界の動きが分かる連載。注目すべき市場動向と注目すべき製品を取り上げます。
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