大原雄介のエレ・組み込みプレイバック【号外】
Arm買収、本当にできるの? NVIDIAの真意とは(2/2 ページ)
買収の狙いは「NVIDIAのIPを使ってもらうため」
実のところ単にCUDAをもっと広く、つまり今の200万人の開発者を1500万人に増やしたければ、話は簡単でCUDAをオープン化すればよい(※2)。オープンコミュニティ、例えばOpen CUDA Associatesとかを設立してそこにCUDAの仕様策定を委ね、NVIDIAもそこで策定されたCUDAを実装する形にすれば、あっという間にCUDAを利用する開発者は増えるだろう。そのために必要になるコストは、今回の買収に要する400億ドルとは比較にならないほど少ないと思われる。
(※2)過去にOpen CUDAなる名称の何かはあった模様
ただし、このモデルだとCUDAは使われてもNVIDIAのIPやシリコンが使われない、という可能性は当然ある。このOpen CUDAのエコシステムは上手くすればすごく大きくなるかもしれないが、そこに占めるNVIDIAの割合はそう大きくないだろう。ちょうどRISC-V全体のエコシステムは急成長しているが、その中核ベンダーであるSiFiveの売り上げはそこまで急激に伸びない、といった感じである。そういうやり方をNVIDIA(というかHuang CEO)が望まないのは、メッセージを見れば明白である。要するにNVIDIAのIPを使ってもらうための手段としてArmを買収した、と明確に述べているからだ。
これは、AIアクセラレータを独自で構築し、コントローラにArmのCPU IPを使っているベンダーにとっては厄災以外の何物でもない。自社のビジネスを、Arm(の新親会社)が持っていくことになるからだ。あるいはAmpereやMarvell、それにXilinxなど、サーバ向けのシリコンを提供しているベンダーにとってもビジネス上の競合になってしまう。
もっとシビアなのは自動車向けだ。自動運転やADASのマーケットは、まだ確たるプラットフォームが存在しておらず、ただコントローラとなるプロセッサはArmベースというのはどこのメーカーもほぼ共通しており、あとはADASの部分を各社独自に提供している形である。実のところNVIDIAもそうしたビジネスを展開していた訳だ。そのNVIDIAがArmを買収し、NVIDIAのIPをArmのネットワークで販売する、というのは各社の独自部分をNVIDIAのIPで置き換えようという企みにしか見えないだろう(実際そうした動きをすることになるだろう)。
これだけ刺激的な文言をリリースに入れていて、これを素直に受け入れるライセンシーはほとんどないだろう。多分買収の発表が行われた直後から、同社のVPは主要な大手ライセンシーを手分けして回って「ご説明」を行っていると思うが、それで納得してくれるライセンシーがどのくらいいるか、かなり疑問である。もちろんこうした会社が直接反対を唱えても何の意味もないので、対策としては司法省に対してこの買収を認可しないように訴える上申書を提出するとともに、ロビー活動を始める、という訳だ。最初の舞台はSIA(米半導体工業会)あたりだろうか。今後の動向が気になるところである。
さて、筆者の最大の疑問は、こんなことはHuang CEOは百も承知でこの買収を決めただろう、ということだ。何らかの勝算があるのか、それともまだ見えていない要素があるのか。あるいは買収そのものは目的ではなく、最終的にご破算になることまで織り込んでいるのか。そのあたりの真意が、今もってさっぱり分からない。何しろ400億ドルの買収である。これを回収するには、相当な相乗効果が必要になると思うが、現状のスキームでこれを実現するのはなかなか大変だろう。実際損得勘定で考えると、CUDAをオープン化した方が、「売り上げ増-経費」では儲かるかもしれない。それでも買収に踏み切った、その真意が分かるまでにはまだしばらくかかりそうである。
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