大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
中華MIPS「龍芯」のアーキテクチャから推理する、MIPS買収の「理由」(1/2 ページ)
Imaginationは分割して売却されることになり、MIPS事業は中国系資本の投資会社に買収されることとなった。中国と言えばMIPSのCPU「龍芯」を既に所有しているが、なぜMIPSを買うのだろうか。アーキテクチャから推理する、MIPS買収の「理由」とは何か。
ほんの数カ月前に書いたばかりなので「またか」と思われそうだが、投資ファンド(Canyon Bridge Capital Partner)に絡んだImagination Technologyまわりの話をしたい(関連記事:Appleの通告は「MIPSの終わり」の始まりか)。
Canyon Bridgeといえば、最近だと、中国政府からの資金提供を受けていることが判明したためトランプ大統領による大統領令を受けてLattice Semiconductorの買収が破談になった事や、その直後にMIPS部門を除くImaginationを7億4250万ドルで買収するといったニュースで注目を集めた。
Latticeに対しては13億ドルのオファーを出しており、結果としてこの13億は支払われる事はなかったから、Imaginationへの7億4250万ドルなど軽いもの……なのかもしれないが、もしトランプ大統領が大統領令を出さなかったとしたら、トータルで20億ドル超の支払いになる。もちろん、2016年に起こった複数の大型買収に比べると金額的に控えめといえば控えめではあるが、無視できない金額である。
話を戻すと、このImaginationの買収に関しては「MIPSコアの入手」という観点から報道されている(関連記事:MIPSコアは中国の手に渡るのか)。
ただ、いまひとつ分からないのが、MIPS64に関して中国は既に「Loongson」(龍芯)シリーズを保有している点だ。
MIPSコアを所有してるのに、Imaginationを買収した理由
このLoongsonはもともと、CAS(Chinese Academy of Science:中国科学院)傘下のICT(Institute of Computing Technology)が2001年5月に始めた、新しい独自CPUを開発するプロジェクトに端を発する。2002年に最初のGodson 1(X1A50)がテープアウトしており、2003年には64bit化したGodson 2Bもリリースされている。驚くべきことは、このGodson 2BはMIPS64を「ライセンスを取得せずに」実装していたことだ(ちなみに当初は、全く独自の命令セットを実装するという話だった)。
もちろん、こんなことが許されるわけも無いので、ICTはMIPS Technologiesと交渉したのだが、アーキテクチャライセンスとして20万ドルを請求され、破談に終わる。半導体企業の買収にポンと7億ドルだの20億ドルだのを支払える現在と異なり、当時の中国ではまだ予算が厳しく、中国政府もこのライセンス料の肩代わりを拒否した。
どういう形で決着がついたかというと、ICTは2006年にSTMicroelectronicsと提携を結ぶことでライセンス問題を回避した。STMicroelectronicsはMIPS64のアーキテクチャライセンスを保有していたので、MIPS64ベースの独自プロセッサを製造・販売することは何の問題もない。ICTはSTMicroelectronicsに対して設計・製造の協力を行うという体裁をとる事で、何とかライセンス問題を回避した形になる。
なんと言うか、昔CyrixやIDTといったx86互換CPUベンダーが、製造にIBMやSTMicroelectronics、IDTといった「Intelとクロスライセンスを結んだ企業」を利用することで特許侵害を回避しようとしていたやり方が、2000年に入ってもまだ繰り返されていた訳だ。
ちなみにこの提携の元、STMicroelectronicsは5年間にわたり、全世界でLoongson 2Eの製造と販売を行う事ができる権利を得た。このLoongson 2E(ICTはこれをGodson 2Eと称している)は、動作周波数が1GHzを超えた最初の製品である。
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これを読めばここ1カ月のエレクトロニクス/組み込み業界の動きが分かる連載。注目すべき市場動向と注目すべき製品を取り上げます。
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