宮田健の「セキュリティの道も一歩から」(18)
工場のセキュリティは「お家のセキュリティ」と変わらない
「モノづくりに携わる人」だからこそ、もう無関心ではいられない情報セキュリティ対策。しかし、堅苦しい内容はちょっと苦手……という方に向けて、今日から使えるセキュリティ雑学をお届け! 今回は、スマートホームのセキュリティの話題を通じて、工場セキュリティのチェックポイントについて考察してみたいと思います。
帰宅すると、照明器具のスイッチが自動でオンになり、リビングのドアを開けると室内は既に適温状態。そして「ただいま」の声に反応してTVの電源が入り、オーディオから音楽が流れ出す――。皆さんが、子どものころに夢見た“未来の家”は、このようなイメージではないでしょうか。
これが今や現実のものになろうとしています。GoogleやApple、Amazonが音声認識をベースとしたスマートスピーカーを発表して話題となりましたが、ネットワークにつながるスマート家電の存在はもう珍しいものではありません。“家がスマート化する(スマートホーム)”時代は既に始まっているのです。
しかし、家庭での暮らしが便利になるということは、リスクが増えるとも考えられます。では、今後ますますスマートホーム化が加速していく中で、家庭内のセキュリティはどのように考えたらいいのでしょうか。実はこれ、製造業における「工場のセキュリティ」にとても近いかもしれません。そこで今回は「お家のセキュリティ」を通じて、工場セキュリティのチェックポイントを考察してみたいと思います。
現在のお家はどう守られている?
まず、今のお家のセキュリティを考えてみましょう。皆さんの家の玄関ドアには鍵が付いていて、その鍵を開けたり閉めたりすることで、出入りします。基本的に、あなた自身や家族、親しい友人などでなければ中に入れない仕組みになっています。これは工場でも同じです。
では、ITという意味では、「誰が」「何を」守っているでしょうか? ネットワークの観点では、多くの家が「ブロードバンドルーター」を使っているはずです。このブロードバンドルーターは外部からの通信のうち、メールやWebサイトの閲覧に必要な入り口以外は全て閉じられているはずです。このブロードバンドルーターがあるからこそ、ネットにおける脅威を防げるわけです。例えば、2017年5月に猛威をふるったランサムウェア「WannaCry」も、通常のブロードバンドルーターならばWannaCryの通信を通さない設定になっていたため、日本の家庭で感染したという話は(筆者が聞く限り)ありませんでした。この点も工場と一緒で、多くの工場では“外からネットワーク経由で侵入できない”ように、「ファイアウォール」などの機器を導入しているはずです。
これまでであれば、入り口に“高い壁”を築いて、侵入を防ぐことで多くの脅威から身を守ることができました。しかしそれは「スマート」以前のお話です。IoT時代の工場も、少し考え方を変えなければなりません。インターネットにつながる時代に、これまでとどのように異なる対策が求められるのでしょうか?
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スマート化/IoT化したら考えなくてはならないこと
いきなり、その答えから見てしまいましょう。
図1は、スマートホームで考えられる脅威とその対策を示したもので、情報処理推進機構(IPA)の「IoT開発におけるセキュリティ設計の手引き」にて詳細が記されています。図1の赤色の文字が脅威で、緑色の文字がその対策となります。
全ての脅威に一通り目を通すべきなのは言うまでもありませんが、ここでは“特に注目しておきたい2つのポイント”を紹介します。
1つ目は、ブロードバンドルーターやファイアウォールという“高い壁”の中であっても、盗聴や改ざんのリスクを考えるべきだということです。家の中に「不正なデバイス」が物理的に入り込んだり、IoT機器が何らかの攻撃を受けて通信が書き換えられてしまったりといったことが起こり得るという前提で考えなければなりません。工場でいえば、例えばメンテナンス時に不正なデバイスをネットワークに接続され、高い壁の中に侵入されたとしても、その中での通信を盗聴できないようにしなくてはなりません。「壁の中だとしても安全ではない」という前提で考えましょう。
2つ目は図1の右側にある、スマートフォンです。モバイル機器は、高い壁の外でも中でも使える、持ち運びできる端末です。つまり、外から何か悪いものをもらってくる可能性があるということです。そのため、図1では対策として「アンチウイルス」「脆弱(ぜいじゃく)性対策」「ソフトウェア署名」「ユーザー認証」などが挙げられています。外から不正なアプリケーションをもらってきたとしても、「不正であることを検知できる」仕組みが必要になるからです。工場においては、外部端末を一時的に接続するような場合に同じ対策が必要になるでしょう。
工場ならば、もう少しできることがある!
高い壁に守られてきたものが、スマート化により対策すべきポイントが増える――。これはスマートホームもスマート工場も、考え方は一緒です。これから新たな家、工場を作るのならば、このような対策が全てできているかをチェックする必要があるでしょう。
しかし、多くの場合は“既存の工場をスマート化する”のではないかと思います。その場合、図1の対策は工場内の既存機械に手を加えることができないでしょう。この際に有効なのは「通信経路を見て、不正な通信がないかを確認する」という対策です。これは壁の中の様子をチェックする「警備員」を配置するようなものです。
スマートホームの環境を勝手に操作されて、「凍るような寒さになったり、焼け付くような暑さになったり、うれしいくらい住みにくい」などというのは困ります。リスクをしっかりと把握し、脅威の可能性をなるべく下げることで、正しく便利な「スマート化」を目指していきましょう。そのために、まず「IoT開発におけるセキュリティ設計の手引き」の目次だけでも読んでおくことをオススメします。
著者紹介:
宮田健(みやた たけし)
元@ITの編集者としてセキュリティ分野を担当。現在はフリーライターとして、ITやエンターテインメント情報を追い掛けている。自分の生活を変える新しいデジタルガジェットを求め、趣味と仕事を公私混同しつつ日々試行錯誤中。現在、ITmediaエンタープライズにて、もはや誰もが人ごとではないITの課題や話題を紹介する「半径300メートルのIT」を連載中。また、それをまとめた書籍「デジタルの作法~1億総スマホ時代のセキュリティ講座」も発売中。
筆者より:TechFactoryでの本連載では、ITセキュリティの「あるべき論」「正論」だけでなく、モノづくりに携わる方たちに「気楽に」「楽しく」セキュリティを考えていただけるように、さまざまな話題を取り上げたいと思います。「セキュリティっていわれてもねえ……」と思わず考えてしまった皆さまに覚えていただけるようなコラムにしたいと思います。お楽しみに!
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