宮田健の「セキュリティの道も一歩から」(16)
製造業の「意識」と「課題」――セキュリティのことをどう思っている?
「モノづくりに携わる人」だからこそ、もう無関心ではいられない情報セキュリティ対策。しかし、堅苦しい内容はちょっと苦手……という方に向けて、今日から使えるセキュリティ雑学をお届け! 今回は、IPAの「2016年度 中小企業における情報セキュリティ対策の実態調査 報告書」を読み解き、製造業の意識と課題について掘り下げます。
2017年3月、情報処理推進機構(IPA)が「2016年度 中小企業における情報セキュリティ対策の実態調査 報告書」を公開しました。同報告書は、中小企業における情報セキュリティ対策の課題および経営層の認識を把握し、必要な対策を促すために実施された調査の結果をまとめたもので、業種も「製造業、鉱業・採石業・砂利採取業、電気・ガス・熱供給・水道業」から612社が回答し、全業種では4318社のアンケート結果が集計されています。
同報告書では、各設問に対し業種ごとの回答がまとめられていて、「製造業がどう考えているのか」だけでなく、「他の業種と大きく違う点はあるか」という比較も可能になっています。この資料から、製造業がセキュリティに対して考えている「意識」と「課題」が見えてきます。今回はこの資料を読み解いていきましょう。
製造業の課題は「コスト」「何をすればいいのか分からない」……それとも?
最初に目に付いたのは、製造業がいま考えている「課題」です。設問の中から、IT分野への投資に対して、なぜ情報セキュリティ対策が進まないのかを聞いた結果を見てみましょう(図1)。
この設問は、製造業とその他の業種とでやや違いが見られます。「どこからどう始めたらいいのか分からない」がダントツなのかと思っていましたが、製造業において最も課題なのは「費用対効果」でした。既に、何をすべきかという課題、コストの課題はクリアしつつあり、問題があることは認識しているが「最も効果が出せる方法」を模索している最中だということが分かります。比較的コンサバティブな他の業種もほぼ同様の傾向が見られるため、いま一度、同業種と比較して自社が後れを取っていないかを振り返る必要があるかもしれません。
ただし、1つだけ注意しなくてはならないのが、この「母数」。実はこの設問、IT分野への投資額の中に情報セキュリティ対策が「含まれていない」と回答した人のみが、その理由を答えています。そのため、ITセキュリティ対策が成熟している情報通信業、金融業/保険業などの業種はそもそもの母数が少ないのです。母数だけで見ると、製造業の「n=54」というのは他業種よりも多めです。その点は大きな課題の1つかもしれません。「費用対効果が見えないから投資をしていない」――その間にも、サイバー攻撃はやってくるかもしれないのですから。
実は他業種と製造業で、意識の違いはほとんどない?
今回の報告書では設問の回答に関して、業種別の回答比率がかなり細かくグラフ化されています。これを見て感じたのは、意外にも業種ごとの差がそこまで大きくないということです。上記で挙げたグラフ以外は、ほとんど同じ高さのグラフが表示されています(ただし、成熟した情報通信業およびセキュリティが何よりも優先される金融業は除きます)。
これは、各企業に対してサイバー攻撃の被害を受けたかどうかを聞いた結果です。業種別の結果を見ると、ITを商売としている情報通信業、そしてお金を取り扱う金融業以外はほとんど比率が変わらないことが分かります。製造業だけが狙われているわけでもないようですね。
しかし、この結果も見方を変えれば「業種ごとに変化がないのに、なぜ情報通信が突出しているの?」という疑問が出てきます。サイバー攻撃を行う犯罪者が「次の狙いは情報通信業にしよう!」と思うでしょうか? 攻撃が成立すれば、犯罪者の目的は達成するはず。そこに、“業種を絞る理由はない”と考えられます。
ここに関しては、ほとんどの企業が「サイバー攻撃を全く受けなかった」と回答していることに注目してください。これはむしろ「サイバー攻撃が来たかどうか判断できなかった」と解釈すべきです。攻撃を検知できなければ、被害を受けたかすらも分からないですからね。進んでいるはずの情報通信業ですら、27%程度しかその攻撃を検知できていないわけです。実はもう、攻撃はすぐそばまで来ていると考えるべきでしょう。
「費用対効果が分かってから投資しよう」という状況は、実は大変危険です。今回の調査の中でも、しっかりと情報セキュリティ対策に投資している製造業も多く存在していることも明らかになっています。同じ業種の動向を見たり、そして他の業種との比較をしたりと、この資料は大変役に立つと思います。同業他社に後れを取らないよう、ぜひ経営陣や情報システム部の知人にそっと教えてあげてください。
著者紹介:
宮田健(みやた たけし)
元@ITの編集者としてセキュリティ分野を担当。現在はフリーライターとして、ITやエンターテインメント情報を追い掛けている。自分の生活を変える新しいデジタルガジェットを求め、趣味と仕事を公私混同しつつ日々試行錯誤中。現在、ITmediaエンタープライズにて、もはや誰もが人ごとではないITの課題や話題を紹介する「半径300メートルのIT」を連載中。また、それをまとめた書籍「デジタルの作法~1億総スマホ時代のセキュリティ講座」も発売中。
筆者より:TechFactoryでの本連載では、ITセキュリティの「あるべき論」「正論」だけでなく、モノづくりに携わる方たちに「気楽に」「楽しく」セキュリティを考えていただけるように、さまざまな話題を取り上げたいと思います。「セキュリティっていわれてもねえ……」と思わず考えてしまった皆さまに覚えていただけるようなコラムにしたいと思います。お楽しみに!
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