IIoT時代にこそ、日本のモノづくりが世界で強みを発揮する(5)
生産設備の全体最適化に目を向けなければ、現場の課題は解消されない――ヤマハ発動機(1/3 ページ)
「IIoT(Industrial IoT)」を実現させ、新たなモノづくりを創造するためには、現状の生産設備の在り方を見直す必要がある。今回は、ヤマハ発動機のIM事業部でロボットビジネス部長として活躍している村松啓且氏と、筆者との対談を通じて、日本が目指すべきモノづくりへの取り組みについて紹介する。
これまで、コントローラーやアクチュエーター、センサーを接続するフィールドバスが標準化されていないため、工場内の全ての機器が1つのメーカーに依存している日本の現状や、生産設備の制御をつかさどるPLCのプログラミング部分で「ラダー言語」に大きく依存し過ぎている実情について紹介してきた。また前回は、生産設備の「保守・管理」の効率を向上させるために求められる生産設備に対する考え方のパラダイムシフトについても解説した。いずれも、新たなモノづくりを創造する「IIoT(Industrial IoT)」の実現を目的に執筆してきた内容である。
そこで今回は、日本のモノづくりの水準を“世界レベル”に引き上げようとする企業の取り組みの1つとして、ヤマハ発動機のIM事業部でロボットビジネスの部長を務める村松啓且氏に話を聞いた。
ソフトウェアを軽視してきた日本の製造業が抱える課題
これまでの連載で解説してきたように、国内ではフィールドバスの標準化の遅れや特定メーカーの機器に対する依存度の高さなどにより、“つながる工場”の実現が遅れていた。このような課題を解決するための仕組みとして、生産の自動化を短期間で効率的かつ低コストで実現する統合制御型ロボットシステム「Advanced Robotics Automation Platform」を開発したヤマハ発動機の狙いとは?
筆者(村上) ヤマハ発動機では、2016年末に統合制御型ロボットシステム「Advanced Robotics Automation Platform」を開発されましたが、その開発に至る背景には、どのようなことがあったのでしょうか。
ヤマハ発動機 村松氏 モノづくりの工程において、大切なことはその手段ではなく、目的です。本来は生産工程を自動化して、最小限のリソースで素早くかつ効率的にモノづくりを実現するということが重要です。しかし、実際の生産現場では、生産設備を開発するたびにプログラミング言語が違っていたり、通信規格が違ったり、さらには開発ツールの使い方が異なったり、ということが起こっています。“帯に短し、たすきに長し”というようなことが起こっているのです。つまり、生産設備を開発する際、従来の仕組みでは既定の領域は得意であるが、全く新しい取り組みには大きな負担がかかるので、さまざまな制約の中でやむなく個別最適になってしまうのではないでしょうか。
筆者 開発するたびに、規格は違う、言語はそろっていない、ツールは変わるという状況に対し、これまで日本の製造業の企業は、なぜ疑問を呈さなかったのでしょうか。
村松氏 日本の製造業における生産設備の製作過程においては、メカ設計、電気設計、ソフトウェア設計に目に見えない壁と作業の順番が決まってしまっている部分があるような気がしています。どちらかといえばメカ的な構想が先行し、ソフトウェア設計製作は後回しになる傾向です。その結果、ソフトウェア作成時にはつじつま合わせに時間を取られ、より高度な機能の実現に支障を来すことも少なくありません。
筆者 しかし、このままの状態では今後の発展がないということが、最近では、徐々に見えるようになってきたのですね。
村松氏 ソフトウェアの重要性が業界で浸透するようになったのは、IoTやインダストリー4.0が言われ始め、つまり人からロボットへの置き換えによる自動化だけでなく、従来の大量生産と変わらないコストと時間で、かつ過剰な製品在庫を抑えつつ多品種少量生産を実現する重要性が高まったからです。
そのため生産設備には、よりインテリジェントな機能と汎用性、そして生産性が同時に求められるようになりました。また、これらの要求を具体的な設備に置き換えてみると、動作に必要なアクチュエーターや画像認識カメラ、センサーなどの数も結果的に大幅に増えるということになります。これらの全てを自由に扱い、いろいろな仕掛けを作らなければならなくなります。そうすると、何が一番大切で大変なのかというと、やはりソフトウェアなのです。
重要なのはつなげることではなく、つなげた上で新たな価値を生み出すこと
ソフトウェアの重要性に気付き、日本の製造業は“つながる工場”の実現に向けて動き出した。しかし村松氏は、「大切なことは規格作りそのものではなく、規格を使って、どのような付加価値を持たせるのかである」と指摘する。製造業の現場では、“つなげる”ことに翻弄(ほんろう)されてきたが、本来の目的は“つなげる”ことではなく、ユーザー企業がモノづくりの効率化を実現し、“新たな価値を生み出す”ことなのである。
村松氏 例えばPC環境ですが、20年前はインターネットにつなげるだけでも、専門スキルが必要でしたが、今やネット接続は当たり前となり、ネットを使ってどのようなことができるのか、何をするのか、ということが重要になっています。スマートフォンは、買って電源を入れた時点でネットにつながっています。それと対比して考えると、生産設備の仕組みでは、設備をネットにつなげるためにどうするか、ということと同じレベルのこと、つまり、フィールドネットワークはどうするのか、PLCやプログラミング言語をどうするのか、ということを検討するために、まだ多くの時間と労力を割いているのではないでしょうか。そのような課題も含めて問題を解決し、全体最適化を図ることができる統合制御型ロボットシステムとして「Advanced Robotics Automation Platform」開発しました。
筆者 つまり、ユーザー企業は、末端の細かい作業に気を奪われずに、全体の目的に集中できるようになるということですね。
村松氏 その通りです。生産設備を使う企業は、全体の目的そのものに、集中するためには、使おうと思ったときには、インターネットにもつながるし、他社のシステムともつながる、必要なアクチュエーターは一通り制御でき、どのようなセンサーでもつなげることができ、場合によっては他社製品ともつなぐこともできる、そのように、最小のコストと手間で最大の目的を達成できる手段を提供することで、目的の実現が近づくと考えています。
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IIoT時代にこそ、日本のモノづくりが世界で強みを発揮する
IoT、インダストリー4.0がこれほどまでに盛り上がり続けるのは、その将来像への賛同だけではなく「現時点で材料となる技術はそろっていて、決して夢物語ではない」と多くの人が感じているためである。日本のモノづくりは改善を重ねることで着実に世界をリードしてきたが、第4次産業革命で求められる非線形なモノづくりの進化をリードしていくためには、「製造現場のガラパゴス化」を解消することが急務だ。本連載では、日本のみならず世界的に盛り上がりを見せるIIoTの技術で製造業はどう変化していくのか、日本の製造業がその変化に追従していくためのボトルネックとなる国内製造業のガラパゴス化について解説する。
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