産業社会におけるデジタル化の価値(4)
「ビッグデータ」「データアナリティクス」「AI」は製造業に何をもたらすのか?(3/3 ページ)
自動運転車とロボティクスを含む自律システム
次に、自動運転車、ロボティクスを含む自律システム(Autonomous Systems)について考えてみたいと思います。
自律システムは、産業用ロボット、介護などの医療サービスロボット、自動運転車、無人機(ドローン)などに代表される通り、刻々と変化する環境下において、情報を感知/処理し、与えられた任務に基づいた判断を的確に行います。つまり、自律システムとは、環境の認識と解釈に関する“不確実性”に基づいて意思決定を行うことができる必要があります。これは、あらかじめプログラムされた一連の動作を繰り返すことが特徴の“高度な自動化”とは異なるものです。
工場は確実性と再現性を歴史的に重視していますが、一方で工場における自律システム(産業用ロボットなど)は、人間の労働者を支援するという役目の下、事前テスト/事前予測できない環境にうまく適用できるよう設計されています。そのため、必然的にロボットが遭遇する事態とシステムが決定する事項に関して、ある程度の不確実性が存在します。
自律システムの開発という観点では、基本的な決断を下すために多くの進歩を遂げてきました。Googleは自律型自動車(自動運転車)でこれを示しています(図6)。自動運転車は周辺環境の主要な要素を認識できますが、まだ見逃しているものがあります。それは環境の理解、つまり現実世界のモデルを構築する能力です。より複雑なタスクを実行し、より速く適応するためには、自動運転車のシステムはまだ多くのことを理解する必要があります。
現時点では、システムに環境を理解させる明確な概念はありません。私たちが直面するもう1つの大きな障壁は、ロボット工学に関わる機械システムの複雑さです。人間が持つ柔軟性を、人工のシステムで実現することは非常に困難です。現行のロボットシステムで使用しているモーターは非常に効率的ですが、やはり限界があります。最終的に、人間のような動作性能に到達するには、新しい材料や細胞のような生体科学に基づいたシステムに移行しなければならないかもしれません。
自律システムの進歩は、人間の好奇心によって引き起こされます。人工知能について、人間は少し恐れを持っていますが、魅了されてもいます。私たちは人間の思考能力をコピーしようとしているのでしょうか? 自分たちに似たスキルを機械に与えようとしているのでしょうか?
前述した通り、これらの状況変化の背景には明らかな技術の進歩があり、そこには安価なセンサーと計算処理能力の向上があります。例えば、安価で高速なコンピューティングがなければ、深層学習は実用的ではありません。同じことがアルゴリズムにも当てはまります。アルゴリズム自体、その多くは昔から存在していますが、必要なレベルの計算処理能力が利用可能になるまでは使われませんでした。しかし、いったん計算処理能力が得られると、それらのアルゴリズムを使用して変更し、要素を追加し、新しいアイデアを開発できます。
自律システムは新しい市場であり、有益なビジネスであると考えられています。企業がこれらのシステムを導入し始めると、より低コストで個人向けの製品を提供できるようになります。昨今の問題は、企業が競争して効率を上げるために、製品やサービスが類似していることです。自動車はますます標準化されていきますし、建築物にも同じことがいえます。
3Dプリンティングとロボットによる柔軟性のある製造との連携は、量産品に個別の顧客要望を経済的に導入することを可能とする、自律システムがもたらす大きなトレンドの1つであるといえます。現時点では、ロボットをタスクごとに再プログラムする手間が必要なため行われていませんが、ロボットの柔軟性が増すにつれ、より多様な作業に使用できるようになります。
ETH Zurichの「デジタル製作の研究における国立コンピテンシーセンター」というプロジェクトでは、自動化を工事に適用する方法を模索しています。将来的には、建設するにはコストが掛かり過ぎる複雑で芸術的な建物を、経済的に建設できるようになるかもしれません(図7)。
通常、自律システムを人間が考えるとき、ロボットを想像してしまいますが、実はそこには目立たない数多くのアプリケーションが存在します。人間が快適であるためには、最初はロボットに囲まれているような環境であっても、最終的にはそうであることを意識させない環境を作り上げることが大切です(図8)。
またロボティクスと直接関係ないように見える、多くのロボット工学活動があります。例えば、建築オートメーションにおける活動は、基本的にはロボットに関するものです。同様にヘルスケア分野では、複数の画像の中で最良の画像が何であるかを決定する自律システムもあります。
自律システムが導入されると、生産に適用される中で、製品面で大きな価値がもたらされると考えられています。今、もしそのようなシステムが社会に出現したとすると、価値創造という点で人間と競争状態になるのでは? と危惧する方もいると思います。しかし、突然自律システムが雇用の場に出現することは考えられず、自律システムは人間にとって不都合な仕事、すなわち反復性の高い仕事、危険な環境で起こる仕事を引き継ぐことになるため、総じて人間社会に恩恵をもたらすことになると予測されます。その他、高齢者が自動運転車のおかげで自立できるようになるかもしれませんし、同じように家事の自動化と健康監視システムは、人々が年を取っても安全に自宅に住むことを可能にします。それらは全て私たちの生活をより良く変える社会変革に貢献するものです。
さて全4回にわたり、最近のデジタル技術が産業社会に与える影響について紹介してきました。1つ1つにフォーカスするとデジタル化の価値はまだそれほど大きくありませんが、これらが全てつながってくると非常に大きな社会変革を巻き起こすと強く思っています。本連載を通じ、皆さまとその思いを少しでも共有できたらこれに勝る喜びはありません。それではまた、どこかでお目にかかる日を楽しみにしております。ご愛読ありがとうございました! (連載完)
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産業社会におけるデジタル化の価値
「デジタル化」とは何か? デジタル化が産業社会にもたらす変化と価値について、全4回で解説する。
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