産業社会におけるデジタル化の価値(4)
「ビッグデータ」「データアナリティクス」「AI」は製造業に何をもたらすのか?(2/3 ページ)
欧州の鉄道システムから学ぶデータアナリティクスと運用最適化
それでは、データアナリティクス、運用最適化の例として、欧州の鉄道システムを見てみましょう。
Siemens Mobility Data Services Center(MDS)は、契約関係にあるヨーロッパや非ヨーロッパ諸国の機関車、高速列車、通常列車から提供されるデータを収集しています。これらのデータを利用し、MDSのプログラマー、データベース専門家およびサービスマネジャーは、リアルタイムの車両走行監視、部品の摩耗および故障予測、複雑な車両問題分析などを行っています。これにより、鉄道車両が補修を行うサービスセンターに戻ってくる前に、何をすべきかを把握できるようになり、補修作業の迅速化が図られ、結果として列車の可用性を最大化できます(図4)。
デジタルによるビジネス変革は、鉄道技術の進歩に影響を与えます。従来のメンテナンスは、定期的にサービスセンターで鉄道車両をチェックし、顕在化した問題を解決して、車両を正常な状態に維持しますが、デジタル技術では新しいレベルのメンテナンスを実現します。
その源泉となるのがデータです。遠隔地またはローカルで収集されたセンサーデータ、エラーメッセージおよび運行ログにより、鉄道会社は車両に関して極めて詳細な情報を入手できます。センシング技術の向上により、車両速度、ブレーキ動作、走行距離などの標準的な測定値に関する情報だけでなく、圧縮機の動作、接続された鉄道車両の重量、自動制御プロセスの状況といった情報も専門家に提供できます。さらに、運転中の気象条件やレール、勾配、斜面の情報は、鉄道ネットワークの列車運転頻度とともに記録されます。
鉄道事業の将来を考えた場合、車両のみが重要な要素ではありません。顧客は車両の生涯コストとその効率的な使用に関心があります。そしてその目的は、車両、線路/架線などのインフラや、運転操業と関連したデータの助けを借りて達成することができます。
この全てが“真のビッグデータ”になります。MDSによると、100台の鉄道車両が毎年約100億~2000億のデータポイントを生産しているそうです。その収集された膨大なデータを分析して意味のあるパターンを探索し、その結果得られた知識により、MDSは保守プロセスを最適化することができます。例えば、高速度で摩耗や裂傷が発生するギアボックスベアリングの場合、少なくとも3日前に問題を予測できるといいます。その結果故障が回避され、列車の可用性が高まり、コストを削減できます。
このアプローチの背後には、列車運行システムのデータを分析するチームによって開発された「予測モデル」があります。データアナリストは、従来の機械学習アルゴリズムを使用して、さまざまな列車のセンサーおよび鉄道インフラのデータを評価しました。このプロセスでは、システム間の関係について深い知識が必要です。このような情報は、列車のエンジニア、車両メーカーおよびMDSの新しいサービスセンターの従業員から入手できます。
実際に、スペイン国営鉄道(Renfe)が運行するマドリッド~バルセロナ間の高速鉄道線路では、これがどれくらいうまく機能しているかが分かります。この路線では、Renfeと航空機が競合関係にあります。航空機の所要時間1時間20分に対し、列車は2時間半かかります。この状況に対抗するためにRenfeは、列車が15分以上遅れた場合、運賃を完全に払い戻すことを保証しました。この高いレベルの信頼性を保証するために、Renfeはシーメンスと提携して列車の高度なデータ解析を行う合弁会社を設立しました。その結果、技術的な問題に関連する1つの注目すべき遅延が、約2300回の運行の間に発生することが判明しました。例えば、機関車が鉄道車両に同時に接続すると、エラーを含むブレーキ障害が発生する可能性があります。この種の知識は、重要な要素とそうではない要素とを区別し、因果関係を把握することを可能にします。このアプローチのおかげで、わずか1年後に高いレベルの信頼性を備えた予測モデルを使用することが可能になりました。結果として、定時運行率99.9%を実現し、60%の顧客を航空機から列車に取り戻しました(図5)。
このケースにおいては、異なる鉄道車両のデータだけでなく、ドイツ、スペイン、ロシアのいずれの国でも、さまざまな条件に関連する情報から最適な運用を導き出すことができるため、鉄道車両の信頼性をさらに向上できます。また、リスクを軽減できることから、小規模事業者にとっても利点になり得ます。故障と摩耗の予測、エラー診断、計画された保守サイクルは開始点で、将来的には航空機業界と同じように、車両の完全なデータベースをダウンロードして、異常のデータを確認できると考えられています。
データ分析と活用のおかげで、顧客である鉄道会社は大きな付加価値を得ることができ、競争優位性を獲得します。デジタル企業であるMDSにとっては、長年にわたり培ってきた車両とそのメンテナンスについての豊富な知識が生命線となります。
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産業社会におけるデジタル化の価値
「デジタル化」とは何か? デジタル化が産業社会にもたらす変化と価値について、全4回で解説する。
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