戦略コンサルの論考を変革のヒントに(2)
ハード屋がソフトの世界で成功するための5つのヒント(3/3 ページ)
1.バリュープロポジションを見極める
バリュープロポジションとは、顧客が求める価値のうち、競合他社は提供できず、自社のみが提供可能なものを指します。ソフトウェアやサービスのビジネスで成功するには、顧客のニーズや困りごとを深く理解しなければ、適切な商品提案ができません。また、ソフトウェアやサービスを商品とした場合に自社がバリュープロポジションを確立できる「顧客」は、これまでハードウェアビジネスで抱えてきた顧客とは異なる場合もあります。たとえ同じ企業がお客さまになるとしても、ソフトウェアやサービスの採用を判断するのはハードウェア製品のそれとは別の部署になる可能性もあります。
例えば、自動車から収集するテレマティクスのデータを売り込む新市場を開拓する場合を考えてみましょう。自動車においてGPS車載器の主な用途はドライバーの道案内ですから、自動車のオーナーが買い手になります。ですが、ドライバーの挙動データを売り物にするのであれば、本稿で前述したように、保険会社に対して、顧客一人一人のリスク傾向に合わせてカスタマイズした保険条件で商品を設計できるようにするサービスとして販売できるかもしれません。
別の例としては、ビル管理機器が挙げられます。そうした機器のメーカーは今、エネルギー消費を管理するソフトウェアやサービスを販売しており、その顧客はこれまで機器を売り込んできた相手のゼネコンではなく、ビル管理会社になります。
2.適切なビジネスモデルと収益モデルを構築する
旧来のハードウェアビジネスでは、ソフトウェアは通常、機器にバンドルされていました。顧客はハードウェアに対価を支払い、オプションのアップグレードとして固定期間のメンテナンス契約を結ぶ形態です。
それとは対照的に、ソフトウェアソリューションはさまざまな形態で販売されます。ソフトウェアのメンテナンス契約と周期的なアップグレードを含んだワンタイムライセンスや、サブスクリプション型の継続ライセンスといった形態が考えられるでしょう。使った分だけ課金したり、成果に応じて課金したりするモデルをとることも可能です。
前述した、自動車の交通パターンを取得して分析するようなソフトウェアの例であれば、ユーザーは一定期間ごとに契約を更新して利用するタイプのデータフィードサービスが使いやすいと思うかもしれません。あるいは、データの分析に使うマシン、担当者の数に応じた課金方式が好まれる可能性もあります。
ソフトウェアとサービスの領域に注力すると、ハードウェア企業の売り上げと利益の構造は大きく変化します。ボストン コンサルティングは、脚色を加えた実際の話しとして、あるハードウェア企業は売り上げ構成をこれまでの75%から5年かけて60%まで減らし、その段階では残りの40%をソフトウェアのライセンスとメンテナンスおよび関連サービスによって賄う計画だとしています。さらにその企業は、利益については将来、ソフトウェアがけん引するようになると見込んでいるようです。ソフトウェア製品の方がハードウェア製品よりも粗利が大きいからです。
3.適切な製品を設計する
組み込みソフトウェアは、当然ながらハードウェアと一緒に販売されます。機器と別個のソフトウェアソリューションとして顧客に付加価値を提供し、顧客がそれに対価を支払いたいと思えるようにするには、顧客視点で十分な差別化が達成されていなければなりません。
好例として論考で取り上げているのは、エンジンメーカーが大型トラック向けに開発する制御ソフトウェアです。そのメーカーが、エンジンのセンサーとソフトウェアを利用して、燃料効率が改善する運転方法をドライバーに教示するソリューションを投入するとします。大型トラックを数多く抱える流通事業者にとっては魅力的なソリューションになるでしょう。しかし、組み込みソフトウェアを開発するのと、エンドユーザー用インタフェースを備えるエンタープライズソフトウェアを流通事業者向けに開発するのとは、全く別の仕事です。
このようなソフトウェアやデータを商品として売り出すには、これまでとは異なる新たな値付けスキームや法務、マーケティング、営業、顧客サポートの機能が求められます。
収益モデルが異なれば、製品開発のアプローチも異なります。ハードウェアのビジネスでは、一度の機会になるべくたくさんのハードウェアとソフトウェアをまとめて販売するという手法が一般的でした。ある製品をめぐる顧客との付き合いの最初期に、なるべくたくさんの売り上げを立てるというアプローチです。
サブスクリプション型モデルの場合、顧客は実際にソフトウェアやデータを使用した分だけ料金を支払います。顧客は継続的な改善とサポートを期待しており、スイッチングコストが低いことも求めています。そうした顧客を引き付けるには、基本機能は無料で提供し、高度な機能について課金する、いわゆる「フリーミアム」型のサービスモデルも有効です。
そうしたモデルで提供するソフトウェアやサービスの開発は、ハードウェア製品の開発サイクルとは異なり、ユーザーの利用パターンを常時モニタリングし、顧客のニーズの変化を捉えて逐一改善するというアプローチになります。
4.新たな能力と市場参入戦略を取り入れる
ボストン コンサルティングは、ハードウェア企業が認識しておくべき事実として、ソフトウェアビジネスでは研究開発や販売管理に掛かる費用がかなり大きいことを挙げています。年間売上高が5億ドルくらいまでの規模で成長率の高いソフトウェア企業では、売上高の25~35%を研究開発に費やしており、中には85%を販売管理費に投じる企業もあるとしています。マイクロソフトやオラクルのような規模が大きく、歴史が長い企業であっても、年間売上高に占める研究開発費の割合は13~14%程度です。
一般に産業機器のメーカーは粗利が低く、研究開発費は通常、売上高の5%程度にとどまり、販売管理費の同比率はソフトウェアベンダーに比べて大幅に低い水準になっています。
ハードウェア企業がソフトウェア製品を開発し、販売するに当たっては、適切な市場参入戦略が必要です。値付けをとってみても、ハードウェアビジネスとは異なり、原価積み上げ型は使えません。顧客価値に基づく値段設定が求められます。流通経路についても、デジタルチャネルを使う必要があり、料金の請求からライセンスの管理、利用状況のモニタリングに至るまで、ハードウェアの流通とは全く異なるサプライチェーンを整備しなければなりません。また、ソフトウェアソリューションにおいては、社内のみならず、社外の開発者やユーザーなどを含むエコシステムからソリューションの価値を増大させる貢献が得られることもあるので、そのエコシステム全体を管理する能力も獲得する必要があります。
営業部隊に求められる特性も、ハードウェアを売るのとは異なります。ハードウェアでは、見込み客を見つけて、成約を獲得したら次の見込み客を探す、という動き方が典型的です。ソフトウェアでは、最初の成約はスタートでしかなく、時間をかけて顧客との関係性を深化させるのがゴールになります。営業部隊は、顧客がそのソリューションを使って成果を上げるまでの取り組みに寄り添う必要があります。ボストン コンサルティングによれば、ハードウェアメーカーの中には、ソフトウェアに特化した営業人員を採用する必要性を認識し始めた企業があるそうです。
5.適切な指標を導入する
ハードウェアからソフトウェアへの移行がもたらす価値を正しく捉えるために、適切な指標を持つ必要があります。売り上げ数量や平均販売単価の他に、ソフトウェア製品でよく使われる指標としては、ユーザー数の増加や、アクティブユーザー数、平均利用時間、データ転送量などが挙げられます。もし開発者コミュニティーが活発に動いているならば、そのソフトウェアソリューションのエコシステムが抱えるアプリ開発者の数も指標の1つになるでしょう。
変革を進める4つのステップ
ボストン コンサルティングは最後に、ソフトウェア市場への参入を目指すハードウェアメーカーがとるべき4つのステップを提示してこの論考を結んでいます。
- 市場を理解する
- ソフトウェアビジネスをアジャイルに推進する能力を組織的に構築する
- 適切ならば、新たな事業部門を立ち上げる
- 組織にソフトウェア人材を投入する
5つのヒントも、4つのステップも、論考にはさらに詳しく説かれているので、目を通せばさらに理解が深まるでしょう。ただし、どれ1つをとっても、簡単なことではないと筆者は思います。ましてや、全てをやり遂げるのは極めて難易度の高い仕事です。この論考もそれを認めた上で、この変革を達成した企業は、IoTが巨大な収益機会を次々に生み出すこの先何十年にわたって優位なポジションを獲得できるだろうと指摘しています。
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戦略コンサルの論考を変革のヒントに
大企業の上級役職者や経営企画室メンバーでもなければ、仕事で関わる機会がほとんどない戦略コンサルティング企業。でも、モノづくり業界の皆さんにも役立つ論考や調査レポートを、実はたくさん発信しているのです。そうした情報を筆者がピックアップして紹介する連載。
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