戦略コンサルの論考を変革のヒントに(1)
半導体企業はデータで強くなれる!(1/2 ページ)
大企業の上級役職者や経営企画室メンバーでもなければ、仕事で関わる機会がほとんどない戦略コンサルティング企業。でも、モノづくり業界の皆さんにも役立つ論考や調査レポートを、実はたくさん発信しているのです。そうした情報を筆者がピックアップして紹介する本連載。今回は、マッキンゼー・アンド・カンパニーが2016年3月に公開した「アドバンスド・アナリティクスで半導体業界を改善する」を取り上げます。
戦略コンサルを情報源にしよう
皆さんが普段、日々の仕事に役立てている社外の情報源には、どんなものがありますか? 大手メディアが報じるニュースや解説、専門家がブログで発信する記事に加えて、Googleで検索したり、書店に立ち寄ったり、セミナーに参加したりといろいろな情報源があります。さらに設計開発や製品企画などの業務を確実にうまくこなすには、専門書にまとめられたノウハウや、実務者のコミュニティーで共有されている知見が役に立つかもしれません。
でも、自社が手掛ける事業に変革が必要だと感じたり、上司からその考察や検討を頼まれたりしたときはどうでしょう? 日々の業務を遂行するときとは少し違った情報やアイデアが必要になってきます。
そこで参考になるのが、戦略コンサルティング会社が自社のWebサイトなどで無償公開している論考や調査レポートです。彼らは、依頼主の依頼を受けて、その事業や組織を変革するシナリオを描くことを生業(なりわい)にしています。そんな彼らが特定の業界や業務組織に向けて発信する情報には、他の情報源にはない貴重な示唆が盛り込まれています。もちろん、皆さんが求める「答え」そのものが書いてあるわけではありません。ですが、変革を起動する初期のインプット情報としては、きっと役に立つはずです。
ただ、日本で普段の仕事を忙しくこなしている中では、そうした論考やレポートを目にする機会はそれほど多くないと思います。それに世界的な戦略コンサルティング会社の多くは欧米企業であり、英語での情報発信が主体なので、ほとんど日本語化されていないという実情に加えて、皆さんの側にも「戦略コンサル? 彼らは机上の空論を振りかざすだけだろう。参考にもならないよ」という気持ちがあり、意識が向きにくいのかもしれません。
そこで本連載では、かつて製造業界にエンジニアとして勤務し、現在は外資コンサルティング会社に所属する筆者が、モノづくり業界の皆さんに向けて、変革のヒントとして読んでもらいたい論考やレポートを紹介していきたいと思います。記念すべき連載第1回では、半導体業界に向けた高度なデータ分析活用の提言を読み解きます。
でもその前に、もう少し筆者の考えをお話しさせてください。
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「聞く価値がない」は誤解
戦略コンサルティング会社として最も有名なのは、米国に本社を置くMcKinsey&Company(マッキンゼー・アンド・カンパニー)でしょう。日本でもビジネス雑誌で彼らの働き方やビジネス界における人脈について特集が組まれ、書店に行けば同社の名前をタイトルに入れたビジネス書が棚の一角を占めています。
他にも、Boston Consulting Group(ボストン・コンサルティング・グループ)やA.T. Kearney(A.T.カーニー)、Roland Berger(ローランド・ベルガー)、Arthur D. Little(アーサー・D・リトル)などが有力・大手です。いずれも、日本にも支社を置いています。
残念ながらこれら戦略コンサルティング会社について、インターネット上の声は好意的とはいえません。ネットで散見されるコメントには、「何億円も払って、その後何も使われないきれいなパワポが残っただけ」「門外漢による机上の空論であり、役に立たなかった」という論調があります。それらを目にすれば、「ましてや、彼らが無償で公開している情報なんか、参考にすらなるものか」と思われるかもしれません。
ただ、ネットで目に入るコメントは偏った意見も多く含まれるのも事実です。そのため、不特定多数のネット書き込みをそのままうのみにしてしまうのも危険です。また、これは戦略コンサルティングに限りませんが、B2Bビジネスの特性上、委託側の成功体験に基づく“ポジティブな声”がそもそも表に出にくいので、それを割り引いて見る必要があります。
筆者は「いやいや、価値がないと目もくれないのは、もったいない」と思っています。その理由を以下に挙げてみましょう。
理由1)戦略コンサルティング会社は、依頼者であるお客さま企業の「経営レベルの課題」が何か、よく分かっている。対話の相手が、お客さま企業の本社経営陣や事業部門の幹部層であり、対話の内容がまさに彼らの課題であるから
理由2)業界についても実は詳しい。特定の業界に軸足を置いて活動しているコンサルタントは、その業界の特性や市場環境、商慣習についても熟知している。また、戦略策定後の実行支援でお客さまの現場に入るコンサルタントは、例えば半導体メーカーのマーケティング資料用に自分でシステムブロック図を引くことだってある
理由3)その業界について世界中の変革プロジェクト事例を持っており、コンサルタントはそれらにアクセスできる仕組みになっている。知見や経験を、コンサルタント個々人のレベルを超えて「拡張」している
理由4)客観的な視点で論理的に分析しており、本質的に正しいことを言う。それ故に、依頼元のお客さま企業の社員では「分かってはいても立場上出せないような結論」も導き出せる
理由5)論考も調査レポートも、かなり真面目に作っている。調査自体も費用と手間を掛けて実施しているし、その結果の読み解き作業にもかなりの時間をかけている。ファクトベースかつ業界横断的なデータから知見を導き出している
成長が鈍化している半導体業界への処方箋
ここからは実際に論考を読み込んでいきましょう。今回は、マッキンゼー・アンド・カンパニー(以下、マッキンゼー)が2016年3月に公開した「アドバンスド・アナリティクスで半導体業界を改善する(原題:Improving the semiconductor industry through advanced analytics)」を取り上げます。
本稿は冒頭で米調査会社IDCの「世界のデータ量は2.8ゼタバイトに達し、なお拡大し続けている。にもかかわらず企業は、通常そのわずか0.5%しか意思決定に使っていない」というレポートを引用しています。ただ、銀行や保険会社、小売業者など消費者向けサービス/製品を扱う業界はデータ活用が比較的進んでおり、「アドバンスド・アナリティクス」によって顧客との関係性を強化したり、業務運用効率を高めたりといった果実を手にしているとのこと。
一方で半導体業界は、データを生成したり分析したりすることにかけては他業界に抜きんでるにもかかわらず、ファブの運営や、研究開発、営業などにアドバンスド・アナリティクスをうまく使っている企業はまだ少数派です。ファブでは予知保全や歩留まりの改善に、研究開発/営業では市場参入戦略や営業効率化、クロスセル、製品ラインアップ最適化に、アドバンスド・アナリティクスを適用できます。
しかしマッキンゼーは、アドバンスド・アナリティクスの応用領域はこれらにとどまらず、半導体企業において今後もっと用途が拡大するとみています。その理由としてアドバンスド・アナリティクスを支えるテクノロジーの進展と普及を挙げる他、半導体業界の成長が鈍化しているために事業運営の効率性がさらに求められるからだと述べています。
ここでいうアドバンスド・アナリティクスとは何でしょうか。簡単にいえば、旧来の実証的分析が「手元にあるデータを分析すると、何が分かり、それは何に使えるのか」というアプローチだったのに対し、アドバンスド・アナリティクスはその真逆です(図1)。すなわち、「ビジネス課題は何か、当社が下すべき重要な判断はどれか、正しい選択をするためには何を知るべきか、それにはどんな情報が必要か」というアプローチになります。
これにより、過去や現在の事業運営について正確で信頼性の高い情報を得られるだけでなく、予知的な見通しを示し、ビジネスの意思決定をサポートすることも可能だと、マッキンゼーは書いています。例えば、量産を遅延させる研究開発のボトルネックを予測するモデルを作れるかもしれません。
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