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» 2018年12月07日 09時00分 公開

組み込みエンジニアの現場力養成ドリル(11):生還を目指せ、爆撃機の装甲を厚くすべき場所はどこか? (1/2)

第二次世界大戦で、最も危険な任務といわれたのが航空機による爆撃です。戦略上、相手の戦力を削ぐ空爆は必須ですが、爆撃機の被害は最小限に抑えたい……。爆撃機の生還率を上げるにはどの部分の装甲を厚くすればよいでしょうか? 無事に生還した爆撃機の被弾痕のパターンを参考に解決案を導き出してください。

[山浦恒央 東海大学 大学院 組込み技術研究科 非常勤講師(工学博士),TechFactory]

はじめに

 ソフトウェア開発技術者は、実装すべき課題を要求仕様書にきちんと書き、それを実装して、課題を解決し、ビジネスを進めます。“課題”の中には「オフィス内の意思決定を一本化/システム化して効率を上げたい」のような“仕様”だけではなく、「低迷しているWebサイトのアクセス数を5倍に増やしたい」といった“問題解決”もあります。今回は“面白い視点”による問題解決を取り上げます。

第二次世界大戦で最も危険な任務

 第二次世界大戦で、最も危険な任務といわれたのが航空機による爆撃でした。統計によりますと、ヨーロッパや太平洋戦線において、第二次大戦全体で1万2000機以上の爆撃機が撃墜されて5万5500人も命を落としたそうです。イギリス空軍の爆撃機「アブロ ランカスター(Avro Lancaster)」の搭乗員の平均寿命は3週間。尾部銃手の被弾率が最も高く、4回の爆撃作戦で生き残る銃手はまれだったとか……。

 爆撃は非常に危険ですが、相手の戦力を削ぐには必須の戦略です。爆撃機の被害を少なくするため、軍部は議論を重ねました。

重量増になっても爆撃機全体の装甲を今より厚くして、相手の戦闘機や高射砲の攻撃に耐えるように改造する


という案と、

装甲を今より薄くして軽量化し、運動性能を上げて相手の攻撃を振り切る


という正反対の案が出ました。アメリカ軍部では、機体全部の装甲を厚くすると重量増で操縦が困難になるため、重要な部分の装甲を増やすことにしました。いわゆる「折衷案(*1)」ですね。

*1:折衷案は「両方の良いとこ取り」を目指していますが、時には「悪いとこ取り」になることがあり注意が必要です。また「折衷案」の文字面から、「妥協した中途半端な対策」の雰囲気が出ることがあり、そんなときは「工学的決定(Engineering Decision)」を使うと納得してもらえます。工学的決定は、理想的な決定ではなく、現状の人員、リソース、残り日数を考慮した妥協案です。ちなみに、「ad hoc」という英単語は、工学的決定に似た意味を持っていますが、翻訳の次第で全く異なる雰囲気になります。ラテン語由来のこの言葉は、ソフトウェア工学の論文や書籍でよく使います(例えば、“in an ad hoc manner”など)。「その場に応じて」が本来の意味ですが、「臨機応変」と訳すか、「テキトー(適当ではなく)」と書くかにより、雰囲気は正反対。テキトーには訳せません。

 装甲を厚くする部位の優先順位を付けることになりました。アメリカ軍は、基地へ生還した爆撃機が被弾した銃痕のパターンを記録しており、そのデータを分析しました。それが有名な以下の図です(赤い点が被弾箇所を示しています)。

爆撃機が被弾した銃痕パターンの記録 図1 爆撃機が被弾した銃痕パターンの記録

問題編(制限時間5分)

 ここからが問題です。アメリカ軍部は赤い点が集中している部分、すなわち主翼の両端、エンジン後方部、胴体中央部、水平尾翼の中央部の装甲を厚くしようとしました。これは正しい解決案でしょうか? 間違っているなら、どの部分の装甲を厚くすべきでしょうか?

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