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「Fusion 360」の現場導入、理想と現実【その1】製造現場でこそ使いたい! Fusion 360の魅力(6)(2/2 ページ)

個人ユーザーを中心に人気を集めるオートデスクのクラウドベース3D CAD「Fusion 360」。ホビーユースだけではなく、本格的な設計業務でも活用できるというが、果たして本当なのか? “ママさん設計者”として活動する筆者が、現場目線でFusion 360の有効性や活用メリットを探る。連載第6回では、実際にFusion 360を導入した現場の状況を紹介する。

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そもそも、なぜ3D CADの導入に踏み切ったのか?

 それでは、そもそもどのような目的でFusion 360やSOLIDWORKSを導入したのでしょうか? そこには経営者と一部の若手従業員の「現状の生産環境を変えたい」という強い思いがありました。

 現場で稼働中の設備を一通り拝見したところ、全体的に年式が古いものばかりでした。すぐさま加工品質に結び付くものではありませんが、設備の年式の古さで引っ掛かってくるのが「加工スピード」、それから「NCの入出力インタフェース」です。古い設備では紙テープやフロッピーディスク、RS-232Cを使った入出力がほとんどで、最近のUSBポートを使った入出力のように簡単には行えません。

画像4 現場で稼働していた設備の一例
画像4 現場で稼働していた設備の一例

 今は熟練作業者の手で稼働できているこうした機械も、そう遠くないうちに入れ替えの時期が来そうです。それを見越して、補助金を利用して新規にCNC旋盤とマシニングセンターを導入しましたが、それによってあらためて浮き彫りとなったのが「2次元図面からの加工プログラム作成の大変さ」でした。

 設備のNC装置が新しいものであっても、図面を見ながらのプログラムの手組みというのはあいかわらず手間と時間のかかる作業で、インタフェースの件とは別の問題です。手組みに人手が取られてしまうこと、そのスキルを持った交代人員がいないこと、時に現場の稼働に支障が出てしまうこと、こうした現状から抜け出して、加工の合理化のために、Fusion 360のCAM機能を役立てようと導入に至ったのでした。ところが、前述の通りうまく活用できていません……。それはなぜでしょうか?

3D CADの現場導入がうまくいかなかった原因

 原因は明らかでした。それは「モデリングができる人が育っていないこと」です。聞けば、Fusion 360よりも前にSOLIDWORKSを導入した際には「これからは3D CADがなければ、それを使ってモノづくりを学んできた若手の働く場を確保できない」という考えもあったそうです。

 その見通しと判断は正しいものだったのですが、導入にはソフトウェアとそれを現場で役立てるための指導がセットでなければいけません。恐らく導入時に基本的な操作の説明は一通り受けたはずですが、長らく2次元図面だけでモノづくりが完結できる環境であったために、3D CADの必要性を現場の多くの人員が認識できていなかったことから、すんなりと受け入れられなかったと思われます。

 経営者と足並みをそろえる若手作業者の一人は、「将来、3D CADが必要不可欠なツールになる」ということを理解していて、Fusion 360を使って2次元図面からのモデリングを自習しながらNC旋盤のプログラム作成へ役立てようと努力しています。

 Fusion 360では、加工する部品の3Dモデルを用意することで、加工プログラムの手組みから開放されるだけでなく、チャック(把握)の力によるワークの変形量を予測する応力解析もできます。

 例えば、中ぐり加工を伴って肉を薄くするような円筒では、把握力次第で加工途中に形状がゆがみ、要求精度によっては寸法不良になることもあります。ですが、応力解析の結果から安全なチャック力の目安を知ることで、つぶれやゆがみによる加工不良の発生を抑える効果も期待できます。そのために、この現場が最優先に取り組むべきは「モデリングのスキル習得」ということになります。

 志の高い一人の若手作業者がモデリングスキルを身に付けて、3Dデータ活用による加工の効率化や不良削減といった成果を生み出し、それが誰の目にも止まるようになれば、他の作業者の意識を変えることにつながるのではないでしょうか。教育の機会を得て「モデリングができない」という初歩的な問題が解決すれば、Fusion 360によってこの現場は変化するだろうと感じました。



 次回も導入事例を紹介します。次の現場ではどのようにFusion 360が役立てられているでしょうか? お楽しみに! (次回に続く)


著者紹介:

藤崎 淳子

藤崎淳子(ふじさきじゅんこ)

長野県上伊那郡在住の設計者。工作機械販売商社、樹脂材料・加工品商社、プレス金型メーカー、基板実装メーカーなどの勤務経験を経てモノづくりの知識を深める。紆余(うよ)曲折の末、2006年にMaterial工房テクノフレキスを開業。従業員は自分だけの“1人ファブレス”を看板に、打ち合せ、設計、加工手配、組み立て、納品を1人でこなす。数ある加工手段の中で、特にフライス盤とマシニングセンタ加工の世界にドラマを感じており、もっと多くの人へ切削加工の魅力を伝えたいと考えている。

⇒筆者ブログ「ガノタなモノづくりママの日常」



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