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今こそ全ての情報を3Dモデルに集約せよ! “3D正”の設計を実現する「MBD」超速解説 MBD(1/2 ページ)

3Dアノテーションを用い、全ての製品の定義を3Dモデルに含めることで“3D正”の設計を実現し、完全なデータ連携を可能とする「MBD(Model Based Definition:モデルベース定義)」。その歴史と基本となる考え方を解説し、“3D正”の設計に向けたMBD導入の第一歩を踏み出すためのヒントを提示する。

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大きく動き始めた“3D正”の設計――「MBD(モデルベース定義)」

 3D CADソフトウェアが導入され始めた当時、多くの設計者が近い将来2D図面はなくなり、全ての設計データが3D化し、データが完全に連携する“3D正”の設計が実現するだろうと想像したのではないでしょうか。

 あれから20年――。残念ながら、そうした世界はまだ完全に現実のものとはなっていません。なぜなら、CADの機能不足だけではなく、共通認識となる規格、サプライヤーとやりとりするためのフォーマットやビュワーといった、解決すべき事項がたくさんあったからです。ただ、こうした状況は15年ほど前から少しずつ、そして着実に変化しており、最近になってその動きが大きく進展しようとしています。

「ASME Y14.41」の表紙(出典:ASME)
「ASME Y14.41」の表紙(出典:ASME)

 世界で最初の「3Dアノテーション」(※)による“3D正”の設計に関する規格は、ASME(アメリカ機械学会)が2003年に発行した「ASME Y14.41」です。このころから、既に米国では「MBD(Model Based Definition:モデルベース定義)」という言葉が使われていました。このMBDとは、全ての製品の定義を3Dモデルに入れることにより“3D正”の設計を実現するもので、その手段として用いられるのが3Dアノテーションです。

※3Dアノテーション:従来の2D図面ではなく、3Dモデルの情報として付加する注記や寸法のことを3Dアノテーションと呼ぶ。

 現在、単一の製品に関する情報は分散されています。例えば、形状情報は3Dモデル、製造情報などは2D図面、検査情報はまた別の2D図面といった具合です。2D図面に入っている情報は、3Dモデル側からは分からず、確認する際は常に複数のファイルやフォーマットをやり繰りする必要があります。また、2D図面が別に存在することにより、図面上の形状が改変されて、3Dモデルと不整合が生じることもよくあります。そうした状態を防ぐためにも、全ての情報を3Dモデルに集約して“3D正”の設計を行うべきであり、それを目指すのがMBDなのです。


「図面レス」の終わりと日本における「3D図面」

 MBDが注目される以前は、「図面レス」という言葉がよく使われていました。しかし、“図面をなくすこと(=図面レス)”が目的ではなく、データを3Dモデルに集約することにより、完全なデータ連携を実現し、それらを容易に活用できることが本来の目的であるため、図面レスという言葉は使われなくなりました。

 実際、MBDを導入している米国や欧州の企業でも、2D図面が活用されているわけですが、そこに記されている寸法や注記などは、全て3Dモデル上に格納されている情報を基に、2D図面へ転写したものになります。

 日本でも「図面レス」という言葉の代わりに「3D図面」といわれるようになったのは、「2D図面がなくなると困る!」という心理的な理由が大きかったからだと推測できます。ただ、日本で使われている「3D図面」という言葉も誤解が生じやすく、“3D図面は2D図面の置き換え”、すなわち“3Dモデルの正面図や側面図に寸法や注記などが付いている状態”というイメージを持たれがちです。そのため、3D図面を検証する際、3Dモデルに正面を向かせ、2D図面の正面図にある寸法を全て記入するといった“2D図面をそのまま置き換えることを念頭に置いた利用”が多く見られます(これでは“3Dの良さ”も半減してしまいます)。

 米国では当初から、MBDの検証作業を正面図、側面図などではなく、3Dモデルならではの方法、すなわち寸法などの向きでの表現ではなく、検査寸法、1加工工程の寸法や幾何公差といった“寸法の意味”で表現を試みています。

国内における関連規格やガイドライン策定の動き

 ASME Y14.41は、日本の業界団体の注目を集めました。最初にガイドラインを発行したのは、日本自動車工業会(JAMA)です。「JAMA/JAPIA 3D図面ガイドライン -3D図と2D図の組合せ図面ガイドライン-」が2004年7月に、「JAMA/JAPIA 3D図面ガイドライン -3D単独図ガイドライン-」が2007年8月に発行されました。また、電子情報技術産業協会(JETIA)も2007年に「三次元CAD情報標準化専門委員会」を発足させ、「3D単独図ガイドライン -3D単独図作成及び運用に関するガイドライン-」を2008年に発行しています。その間、ASME Y14.41を受け、「ISO 16792」が2006年に策定されました。

 このように、MBDに関する規格やガイドライン自体は2003〜2007年にかけて国内外で策定されました。そして、それらのガイドラインを作成した団体が集結し、その結果としてできたのが「JIS B 0060」です。JAMAとJETIAなどの団体も参画してできた“日本初のMBD規格”です。

日本初のMBD規格「JIS B 0060」について(JIS B 0060-4より抜粋)
日本初のMBD規格「JIS B 0060」について(JIS B 0060-4より抜粋)

 JIS B 0060は、2015年に第1部と第2部が発行され、2017年に第3部と第4部が発行されており、今後第10部まで予定されている、非常に大きな規格になります。この規格では、アノテーションで情報が付いた3Dモデルのことを「3DAモデル(3D Annotated Model:3次元製品情報付加モデル)」と呼び、3DAモデルを作成する場合の基本的な事項と、その製品にかかわる情報をどのように持ち、それをどう表現するかといった「デジタル製品技術文書情報DTPD:Digital Technical Product Documentation)」を規定しています。今までさまざまなMBDに関するガイドラインを編さんしてきたメンバーが参画しており、まさに“日本におけるMBDの集大成”といえる規格になっています。

“3D正”の設計が抱える3つの問題

 ただし、規格が決まっても、すぐにMBD、3Dアノテーションによる“3D正”の設計は始まりません。2D図面の規格の場合は「表記を守る」ということが重要ですが、3Dでは異なります。そこには、大きく分けて3つの問題が存在します。

  1. CAD機能の制限の問題
  2. データフォーマットの問題
  3. MBD作成プロセスの問題

1.CAD機能の制限の問題

 まずは、CAD機能の問題です。ASME Y14.41が策定されたころは、どのCADも3Dアノテーション機能を拡充し始めた段階で、まだ機能が不足していました。その後、策定された規格では、該当するCAD機能がないことを理解した上で作成されたこともあり、CADの機能改善を促進するという側面もありました。

 筆者が所属するPTCが初めてMBDの要件を導入したCADは、ASME Y14.41が発行された翌年(2004年)にリリースした「Pro/ENGINEER Wildfire 2.0(現:Creo Parametric)」になります。最初のリリースは、アノテーション平面など基本となる重要な要件は入ったものの、規格を網羅したものではなく、アノテーションの作成も大変手数のかかるものでした。

「Pro/ENGINEER Wildfire 2.0」当時のアノテーション
「Pro/ENGINEER Wildfire 2.0」当時のアノテーション(出典:PTC)

 そのため、国内外を問わず、このような規格やガイドラインを策定した団体から、各CADベンダーに対して機能要求が盛んに行われました。「Creo Parametric」は、最初のMBD機能が搭載されてから14年間、9バージョンにわたって、MBDに対する機能改善が行われてきました。その間、使い勝手が大幅に改善されただけではなく、規格に準拠した表記や振る舞い、後述する中間ファイルへの対応などを行ってきました。また、MBDを行うために重要となる幾何公差を、規格通りに作成できるようユーザーへアドバイスする機能(Creo GD&T Advisor)も搭載しています。こうした取り組みは他のCADベンダーも同様で、いまだにこれらの団体から新しいリリースに対してチェックが入り、業界全体でMBDに関する機能改善が進められています。

最新の「Creo」でのアノテーション
最新の「Creo」でのアノテーション(出典:PTC)

 実は、JIS B 0060を規格化する際、3大CADベンダーのハイエンドCAD「Creo」「NX」「CATIA」で事前にチェックが行われました。そして、「CADで表現できないものについては規格化しない」という方針の下、規格化が進められました。そのため、JIS B 0060に出てくる表現は全て3大CADで表現可能なものとなっています。もちろん、表記以外も含め、各CADベンダーではMBD領域に関する機能改善を継続しています。欧米では既に、完全にMBDによる設計に移行しているところが多くあり、米国では国防総省を中心として、MBDを推進しています。もちろん、日本でも使っているところが出てきています。後は、“どの時点で実際に使うのか”の決断だけです。

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